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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

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第81話 森影に囁く祠――呼び覚まされる記憶

 ヴァルトの出会いから数日後、リューク達は素材採取に森の奥に来ていた。

 風が静かに森を揺らす。木漏れ日が斑に落ちる林の小道を、リュークたちは進んでいた。


「このあたり、珍しい薬草が採れるって話だったよね」


 ルミエルが足元の茂みにしゃがみ込み、小さな花の葉をそっと摘み取る。


「スキル開放用の金貨も、もう少し貯めたい。無駄なく集めてなくては」


 リュークはポーチを確認しながら、木々の合間に視線を巡らせた。


 ——バサリ。


 茂みの奥から、葉擦れとは異質な“気配”が跳ねた。

 リュークの背に、冷たい汗が一筋走る。


「来るッ!」


 声と同時に短剣を抜いた。

 握る指先に、わずかに力がこもる――敵の殺意が、空気を震わせていた。


 黒い影が飛び出す。

 硬質な甲殻に覆われた四足獣。ヒドラクロー。

 その鋭い爪が風を裂き、ズンッと地を打つ音が鼓膜に響いた。


「ライト・ショット!」


 ルミエルの声に、わずかに揺れる緊張が混じる。

 魔力の弾丸が敵の前脚をかすめ、バキッという衝撃音と共に、動きが一瞬だけ鈍った。


「シャドウファング、右側へ!」


 リュークの指示に、狼はまるで会話を交わすように即応する。

 彼の中ではもう、シャドウファングは“信頼出来る仲間”だった。

 魔物が唸りを上げて突進してくる。

 ルミエルが震えるまぶたを閉じ、次の術へ集中する。


「量子偏光展開――〈プリズム・ブレイク〉!」


 空間が歪み、視界が撹乱される。魔物の動きに迷いが生まれた――その一瞬。

(今しかない!)


 リュークが地を蹴り、魔物の懐へ滑り込む。

 喉元めがけて短剣を叩き込むと、**ゴリッ……**と刃が硬い何かを貫いた感触が手に返ってきた。

 魔物が呻き、崩れ落ちる。


「……終わったか?」


 息をつくリュークの肩越しに、ルミエルが頷く。

 その目には、安堵と、ほんのかすかな後悔が混ざっていた。

 彼女の視界には、ステータス変動の表示が静かに浮かび上がっていた。。


【ルミエル】LV.2

 HP:23/23

 MP:42/42

 筋力:3

 敏捷性:10

 耐久力:3

 魔力:31

 習得魔法:〈ライト・ショットLV1〉〈プリズム・ブレイクLV1〉



「……やっと、上がった」


 ルミエルが肩で息をしながら呟いた。その目には、緊張から解き放たれた安堵と、新たな決意の光が宿っていた。


 その時、シャドウファングがふいに足を止める。

 倒れ伏したヒドラクローの亡骸に鼻先を寄せ、低く、唸るような呼吸を漏らす。


「……この子、また何かを感じ取ってる」


 ルミエルが顔を上げ、言葉を絞るように言った。

 リュークはその様子を見て、静かに目を細めた。


「祠のときと……同じ反応か」


 リュークが呟く。あの古びた祠で、シャドウファングは確かに反応していた。だが、それは“まだ仲間になる前”のことだ。


(……どういうことだ? 記憶の干渉? それとも……)

 その時、ルミエルが足を止め、森の奥へと視線を向けた。


「……あっち。何かに、呼ばれてるような……そんな感覚がするの」


 彼女の声にはわずかな震えがあり、その表情には、戸惑いと警戒の色が滲んでいた。

 リュークは短剣をゆっくりと収め、ルミエルに視線を合わせた。


「気になるなら……確かめるしかないな」


 彼の言葉にルミエルは頷き、シャドウファングが静かに前を向いた。

 木々が密度を増すその方向へ、三人は慎重に歩を進めていく。

 ——この先、“記憶の扉”が開かれることを、まだ知らずに。



 ◆ルミエルの“違和感”

 森の奥へ続く細道を、三人は慎重に進んでいた。


 リュークは前方を警戒しつつも、戦闘後の余韻――剣を振ったときの手応えや、刺突が肉を裂いたときの鈍い反動が、まだ身体の奥に残っているのを感じていた。

 ルミエルは横目で森の深部を見つめ、シャドウファングは黙ったまま、草を


 ザクッ、ザクッ


 と踏みしめながら進んでいく。

 そのときだった。


「……待って」


 ルミエルが立ち止まり、森のさらに深い方角へじっと目を向ける。

 空気がピリッと張りつめたように感じられ、木々のざわめきすら耳に遠くなった。


「ん? どうした?」



「……あっちから、なんか……呼ばれてる気がするの」


 リュークは眉をひそめた。


「呼ばれてるって……誰に?」


「分からない。でも……懐かしいような、でもちょっと怖いような……」


 ルミエルは言葉を探すように沈黙し、胸の前で手を組む。


「ううん、なんて言ったらいいか……でも、行かなきゃいけない気がする。きっと、“そこに何かがある”って……そんな気がするの」


 リュークは口を開きかけたが、言葉を呑んだ。

 彼女の声には、軽はずみな勘ではなく、何かを確かに“感じ取っている”という重みがあった。


「……分かった。俺も、さっきから胸の奥がざわついてる。理由は分からないけど……無視できそうにない」


 その言葉に、ルミエルはほっとしたように微笑み、そっとシャドウファングの背を撫でた。

 その手の動きにも、どこか導かれるような静けさがあった。


「ありがとう、リューク。行こう」


 シャドウファングも、何かに気づいたかのように森の奥へと一歩踏み出す。


 ズズ……


 と草が湿った地面に沈む音が響いた。

 リュークは短剣にそっと手を添え、静かに頷く。


「行くか……“何か”が待ってるなら、確かめないとな」


 木々の間に差し込む光は次第に細くなり、風はどこか湿った匂いを帯びていた。

 その先にあるものが、ただの古い祠なのか――それとも、過去からの呼び声なのか。

 リュークはまだ、それを知る由もなかった。



 ◆森の囁きと記憶の扉

 地図にない場所


 深い森の奥、陽の光がほとんど届かない、しんと静まり返った木々の合間。

 そこに、誰にも気づかれず眠るように存在していた。

 古びた祠——。


 苔むした石の土台、ひび割れた木の柱。屋根はすでに崩れかけ、草と蔦が絡みついている。

 だが、その空間だけがまるで“時間”から切り離されたように、ひんやりと静まり返り、異質な気配を漂わせていた。


「……ゴリッ」


 足元で石を踏みしめる音が響く。シャドウファングが一歩、静かに前へと進み出た。

 そして、祠の前で立ち止まり、まるで何かを見つめるように、じっと動かなくなる。


「……この子、何か感じてる」


 ルミエルがぽつりと呟いた。


「……見たことあるかもしれない。夢で、かも……いや……違う。夢っていう感じじゃないの」


 その声はかすかに震えていた。懐かしいようでいて、どこか胸をざわつかせる――そんな曖昧な感情が、言葉ににじんでいる。


 リュークもまた、無意識のうちに祠へと足を向けていた。

 胸の奥がざわつく。ずっと前に、ここに自分の“何か”を置いてきたかのような感覚。


「……俺も、なんか落ち着かない感じがする。変だな、来たことないはずなのに」


 風が

 ズ……ズッ


 と祠を通り抜け、屋根の残骸がきしむ

 ギシ……


 という音が静かに響く。

 鳥の声はなく、木々の葉が小さく

 サラ……


 と揺れた。まるで、祠そのものが“息をしている”かのように。

 その時、シャドウファングがふと前足を止め、


 ザッ


 と地面を軽くかいた。

 低く


「クゥ……」

 と鼻を鳴らす。


「……シャドウ?」


 黒狼の瞳が、一瞬だけ金色に揺らめいた。

 それは何かを“思い出す”ような光。祠の気配に反応したかのように、わずかに目を細める。


 だが、すぐにその輝きは消え、シャドウファングはまた祠へと視線を戻した。

 まるで、“答えを探すように”。

 リュークは足元の石板に、うっすらと刻まれた文字を見つける。

 古びて掠れ、判別しにくいそれは、読めるはずのない言葉のはずだった。


 だが――なぜか、胸の奥に鋭く突き刺さる。


(……西の高地。封印の……石碑……?)


 教わった記憶はない。ただ、脳裏の奥に染みついたような、ぼんやりとした“情報の断片”が浮かび上がってくる。


「ここ……もしかして、“封印の石碑”ってやつか……」


 小さく呟いたリュークに、ルミエルとシャドウファングが同時に振り向いた。

 けれど、答えはない。

 あるのは、ただ静かな祠の鼓動だけ。


 それでも確かに、ここには“過去”が封じられている気がした。

 そして、その記憶の一端は、リュークだけでなく、シャドウファングの中にも眠っているのかもしれない。



 次回:量子記憶の開放――揺らぐ世界と“観測”の真理

 予告:祠に眠る力に触れたとき――リュークの中で“記憶の扉”が軋みを上げる。やがて彼は、世界の根底に潜む量子記憶の真理と対峙することになる……

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