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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

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第80話 記憶干渉、揺れる真実

 ◆旧魔術塔の邂逅かいこう

 翌日、黄昏時。


 リュークたちはヴァルトから渡された地図を頼りに、ギルド本部がある街の外れ――かつて王国の魔術研究が盛んだったという旧魔術塔へと足を運んでいた。


 塔はすでに役目を終え、今ではわずかな魔導士たちが私的に使うだけの場所となっている。

 崩れかけた外壁と苔むした石階段が、ここに刻まれた長い年月と静けさを物語っていた。


「……ここか」


 リュークは足元に注意を払いながら、軋む扉をそっと押し開けた。

 中は意外にも整っていた。古びた本や魔術道具が棚にきちんと収められ、乾いたインクと淡い魔素の香りが漂っている。


 埃ひとつないわけではないが、誰かが日常的に使っていることはすぐにわかった。


「やあ、来てくれたか」


 2階から降りてきたのは、昨日と同じ黒いローブ姿のヴァルトだった。

 だが、彼の表情は昨日よりわずかに和らいでいた。


「研究の途中だったのでね。 来客の準備など不慣れだ、失礼を許してほしい」


「気にしない。それより……聞かせてもらえるのか?“量子魔法”のことを」


 リュークの率直な問いに、ヴァルトはわずかに口元をほころばせ、目を細めた。


「単刀直入だな。 ……だが、そういう方が信頼できる。こちらへ」


 案内されたのは塔の地下だった。

 薄暗い石造りの通路を抜けると、円形のホールにたどり着く。


 そこには、中央に古びた魔法陣が刻まれ、その周囲に奇妙な装置が据え付けられていた。

 魔法陣の縁には、幾何学模様とともに、“現代的な数字や記号”が組み合わされている。


「これは……?」


 リュークが思わず声を漏らすと、ヴァルトは杖で装置の一部を軽く叩いた。


 次の瞬間、淡い光が走り、空中に立体的な魔法構造式が浮かび上がる。

 それは、古代魔法とはまるで異なる――まるで科学と魔法の境界を越えた、精緻で不思議な光景だった。


「量子干渉陣。 これは古代魔法と現代の理論を掛け合わせたものだ」


 ヴァルトの声は静かだったが、その響きはどこか深く、リュークたちの胸に重く刻まれた。


「私は、かつて量子魔法研究組織に所属していた。 失われた技術にも、いくらか通じているつもりだよ」


 ヴァルトはそう前置きし、リュークの手がけた精神共鳴ポーションを思わせるように続ける。


「君のポーションも、実は非常に近い原理を内包している。 ただ、それを理解するには……“魔法とは何か”というところから見直す必要がある」


 リュークは思わず眉をひそめた。


「……見直す、だと?」


「ああ。魔力は単なるエネルギーじゃない。 “魂の波動”、つまり量子情報の微細な振動なんだ。 詠唱とは、その振動を強制的に特定の形へと束ねる作業だよ。」

「そして――」


 ヴァルトは言葉を区切り、ルミエルに視線を移す。


「“共鳴”とは、複数の魂が干渉し合うことで生まれる、力の増幅現象でもある」


 静まり返る空気の中、彼は少し声を潜めて続けた。


「……まだ仮説の域は出ないが、どうも気になる点がある」


 そう言って、リュークの目をまっすぐに捉える。


「彼女――ルミエルが、“媒介”になっている可能性だ。 君と彼女の間には、ごく浅いながら、記憶や情報の“交差”が起きているように見える」


 リュークは思わずルミエルに目をやった。


 少女は小さく息を飲み、目を見開く。

 さらにヴァルトは言葉を重ねる。


「特に気になるのが、君が触れたという“封印核”だ。 あれについて、ギルドを通して手に入れた報告書を確認した」


「……封印核?」


 リュークの脳裏に、ざらりとした嫌な感覚が蘇る。

 確か、あれはギルドが回収したはずだが――。


 ヴァルトは冷静に告げた。


「あれから、ごく微弱な波動が検出されていた。 ただの封印魔術とは少し違う。 小さな、閉じた構造を持っていたのだ。つまり……」


 間を置き、言葉を選ぶように続ける。


「……何かの“意識”や“記憶”を、内部に留めておくためのものだった可能性が高い」


 ルミエルが、鋭くも怯えを含んだ声で問いかける。


「それって……誰かを中に“閉じ込める”ためのものってこと……?」


「可能性はある」


 ヴァルトは静かに頷く。


「もしくは、“自らを封じた”誰かが存在したのかもしれない」


 重く、謎めいた言葉だった。


 リュークは沈黙したまま、深く俯き考え込む。

 言葉にはしないが、確かな緊張が部屋の空気を満たしていた。


(……ルミエルといると、時々、不思議な夢を見る。 見たことのない場所、知らない声――なのに、なぜか懐かしく、確かに“体験したような”感覚が残る)


 リュークが考え込んでいる間も、ヴァルトは淡々と続けた。


「記憶というものは、単純に脳内にだけ存在するものではない。 魂や魔力に結びつく“深層記憶”――量子記憶の領域こそが、最も謎に満ちた場所だ。 過去の研究でも、共鳴によってそれが活性化する事例は、いくつも確認されている」


 彼はそう語りながら、ゆっくりと杖を掲げる。

 その動きに呼応するように、床に描かれた魔法陣が淡く発光した。


「君たちの記憶や反応を観察できれば……古代に失われた魔術理論、あるいはこの世界の“根本”に関わる何かの手がかりになるかもしれない」


 リュークは顔を上げ、鋭い声で返した。


「……つまり、俺たちを“調べたい”だけだってことか」


 その問いかけに、ヴァルトはわずかに肩をすくめ、穏やかな笑みを浮かべる。


「そう受け取られても仕方ない。 ただ……私は“共存”の可能性も信じている。 君が、その鍵なのだとしたら――開ける扉は君個人の過去だけではない。 もっと大きな“何か”と、きっと繋がっているはずだ」


 静寂が落ちた。


 リュークはルミエルと視線を交わし、やがて目を伏せる。

 彼の胸の奥では、理屈では説明できない確信が、かすかに灯っていた。


(……でも、あの記憶の先には――何かがある。そんな気がする)


 しばらく沈黙した後、リュークは小さく息を吐き、言葉を絞り出すように呟いた。


「……今は、まだ答えを出せない」


 リュークの言葉に、ヴァルトは静かに頷いた。


「それでいい。急ぐ必要はないさ。 ただ――ひとつだけ、覚えておいてほしい」


 低く抑えた声に、わずかな重みが宿る。


「この世界には、“知られないままの方がいいこと”も存在する。 君たちが向かおうとしている場所は、まさにそういう領域だ」


 その言葉が、静かに空間へと溶けていく。

 部屋には、しばし重苦しい沈黙が流れた。


 リュークはふと隣に目を向ける。

 ルミエルは俯き、指先で無意識にローブの裾をつまんでいた。


 その横顔には、戸惑いと、ほんの少しの覚悟が入り混じっている。


 リュークは静かに息を吐き、壁に寄りかかる。

 瞼を閉じると、いつもの――あの曖昧で掴みきれない夢が、ぼんやりと浮かんだ。


(……結局、俺はまだ、何もわかっていない)


 それでも、ヴァルトの言葉は妙に胸に刺さっていた。

“知られないままの方がいいこと”。


 同時に、それは“知ることでしか進めない何か”でもあるのだろう。


「……」


 そっと目を開ける。

 ルミエルと目が合った。

 言葉はなかったが、互いの瞳は語っていた。


 ――きっと彼女も、同じ不安と、それでも歩む覚悟を抱いている。

 ルミエルは微かに笑んだ。それは震えるほど小さな、けれど確かな前向きさだった。


「……帰ろう」


 リュークは短く告げた。

 ルミエルは、ためらいなく頷く。


 ギィ――。


 重い扉を押し開けると、すでに街は夜の帳に包まれていた。

 冷たい風が吹き抜け、石畳を擦るような音が耳に残る。


 シャドウファングが静かに歩き出し、リュークとルミエルはその後を追うように歩を進める。


 誰も言葉を発しなかった。


 ただ、塔の中で交わされた言葉と、胸の奥に芽生えた小さな決意だけが、彼らの背中を静かに押していた。

(……進むしかない。例え、その先に何が待っていようと)


 夜空に浮かぶ月が、淡く三人の影を照らし出していた。

 それは、未来へと続く静かで確かな歩みだった。



 次回: 森影に囁く祠――呼び覚まされる記憶

 予告:森奥での戦いの後、感じ取る不穏な“呼び声”。 導かれる先には、苔むした祠と眠る過去が待っていた――。


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