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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

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第79話 ポーションの噂、思わぬ来訪者

 数日後――

 リュークたちはここ数日、ポーションの作成と素材採取に明け暮れていた。

 冒険者ギルドのホールは、朝から活気と熱気に包まれている。


 依頼掲示板の前には、目を輝かせた冒険者たちが群がり、カウンターでは装備や素材の売買でひっきりなしに声が飛び交っていた。


 その一角――薬品販売棚の前では、ひときわ長い列ができ、ざわめきが絶えない。


「……これが噂の《共鳴ポーション》か?」


「そうだ。昨日あのポーションを使ったパーティが、普段なら手も足も出ない強敵を――瞬殺したって話だぜ」


「詠唱速度がとんでもなかったらしいな。 副作用もほとんどないって噂だし……高いが、試す価値はありそうだ」


 リュークは、ギルドの奥の壁際からその様子を静かに眺めていた。

(思った以上に広まってる……)


 そのとき、カウンターの奥からエリナが手を大きく振り、やや声を弾ませて呼びかけてきた。


「リューク!ちょっと、こっち来て!」


 訝しみつつも彼女の元へ向かうと、エリナは分厚い帳簿を広げ、得意げに数字を指差した。


「見て、これ。今朝までに共鳴ポーションが7本、強化ポーションが4本売れたわ。


 共鳴ポーションは一本あたり金貨小3枚、強化ポーションは1枚。それで合計……ほら、金貨小20枚近いわよ」


「……そんなに?」


 リュークは思わず眉をひそめた。素材費と手間を考えても、十分すぎる利益だった。


「ええ。 今、魔術系の冒険者たちの間で完全にブームよ。 『魔法との親和性を高める』ってワードが独り歩きしてるみたい。」

「もうすぐ、あなたの名前もギルド中に広まりそうよ」


 エリナは茶目っ気たっぷりに肩をすくめた。


 リュークは苦笑いを浮かべ、肩を軽く落とす。


「……それは、正直あまり嬉しくないな。できれば静かにやっていきたいところだが」


「無理よ、リューク。


 この品質だもの。黙っていても目立つわ。

 おかげで、私も気分はまるで敏腕セールスレディよ」


 エリナは冗談交じりにウィンクし、帳簿をぱたんと閉じた。

 リュークは小さくため息をつきながらも、確かな手応えを感じていた。


「ところで、リューク。このポーションの材料、どこで手に入れたのかしら?」


 エリナは興味津々といった様子で身を乗り出した。その目は、特に共鳴ポーションの瓶をじっと見つめている。


「特に《リュサノミ草》よ。王都でも滅多に見かけない希少な薬草なんだから」


 彼女は言葉を継ぐように、少しだけ声を落とした。


「リュサノミ草……限られた高地でしか育たず、魔力の純度を保ったまま抽出できる唯一の素材なのよ。だから、高価なうえに扱いも難しい」


 リュークは少し肩をすくめ、わざと軽く笑いながら言葉を濁した。


「企業秘密だよ……教えたくないわけじゃないけど、ちょっとな」


 エリナは目を細め、からかうように肩をすくめて引き下がった。

 だがその直後、一瞬だけ視線を逸らし、静かに息を吐く。


「……実は、うちの兄がね。ポーション作りにかけては天才って言われてたの。昔はよく、似たような瓶を並べて、薬草の効果を熱弁してたっけ」


 リュークは言葉を挟まず、静かに耳を傾ける。


「ギルドに所属してて、前線にも立ってたの。 でも、ある任務で……戻ってこなかったの。もう、ずいぶん前のことだけど」


 エリナは微笑んでみせたが、その瞳にはほんのわずかに翳りが差していた。


「だからね……あなたのポーション、最初に見たとき少しだけ、兄の薬に似てる気がしたの。色でも、質感でもなく、雰囲気っていうのかな……妙に懐かしかった」


 小さく間を置き、エリナはふと笑うように目を伏せた。


「あのとき兄が使っていた器具、今も捨てられないの。 使えるものじゃないんだけど、なんとなく……まだ役に立ちそうで」


 リュークはわずかに目を細め、小さく頷いた。


「……そっか」


 エリナはすぐに表情を戻し、明るい口調で言う。


「それだけ質が良かったってことよ。 次の入荷はまだかって聞かれてるから、また作ったら教えてね」


 リュークはそのまま無言で、販売棚に並ぶポーションの瓶へと視線を落とす。

 澄んだ青銀色の液体が、ギルドの照明に揺らぎ、静かに光を跳ね返していた。


(売れているのは、嬉しい……けど)

 心の奥に、僅かな不安が芽生える。


 このまま噂が広まり、注目され続ければ、いずれ誰かが突き止めようとするだろう。


 そして――本来隠しておくべき“目的”まで露見しかねない。

(ルミエルの記憶、量子の記憶、そして……俺自身の過去。 どれも、誰かに知られていいものじゃない)


 張り詰めた沈黙の中、背後から柔らかな声が届いた。


「でも、リューク。 これで“次の扉”に近づいてる気がする」


 ルミエルが笑顔で言った。

 彼女は微笑みながらも、どこか確信に満ちた瞳でリュークを見つめている。


「量子の記憶も、もう遠くない」


 リュークは一度目を閉じ、静かに深呼吸をしたあと、頷いた。


「ああ……準備は、着実に進んでいる」


 心に秘めた決意は、静かだが熱かった。

 金貨も、人脈も、技術も――すべては、その先にある“記憶の核心”へと辿り着くため。


 そのとき、ルミエルが一歩近づき、リュークの肩にそっと手を置いた。

 彼女の声は、今までになく真剣だった。


「量子の記憶は、私たちの未来を大きく左右する。 だからこそ、慎重に、確実に手に入れよう」


 リュークはまっすぐに彼女の眼差しを受け止め、力強く頷く。

 二人の間には、迷いのない静かな覚悟が満ちていた。



 ◆不意の来訪者と“魔導師の眼”

 ギルドホールの夕刻。

 冒険者たちの賑わいも徐々に落ち着き、受付前は静けさを取り戻しつつあった。


 リュークが納品を終え、足取り軽く出口へ向かおうとしたその時――


「そこの君……例の“共鳴ポーション”を作った者ではないか?」


 背後から落ち着いた、だがどこか張り詰めた声が届いた。


 リュークは静かに振り返る。

 そこには、黒衣をまとった中年の男が、いつの間にか立っていた。


 漆黒のローブは重々しくも静かに揺れており、銀縁の眼鏡越しに鋭い視線が注がれていた。

 どこか“浮いている”ような印象――それは存在感が希薄なのではなく、周囲と“噛み合っていない”違和感に近かった。


「……そうだが、あんたは?」


 リュークが一歩、無意識に距離を取る。

 男はすぐに名乗った。


「ヴァルト=グレイン。中央魔術学院の客員研究員で、魔導科学の専門家だ」


 受付の奥にいたエリナが、はっとしたように顔を上げる。

 その反応に、ルミエルも空気の異変を察し、すぐにリュークの傍へと歩み寄った。


「中央学院……」


 ルミエルが低く呟く。名の知れた、魔術理論の頂点。

 だが同時に、実験主義的な過激派も内包する“中枢”でもあった。


 ヴァルトの纏う空気は、なぜか肌の内側に“じわり”と触れてくるような、そんな落ち着かない感覚を孕んでいた。


 彼のローブの裾からは、淡く細かな“光のほつれ”のようなものが揺れており、風もないのにほんの少しだけ布地が揺れている。


 リュークは目を細め、緩やかに警戒心を高めていく。


「“共鳴ポーション”――量子魔法との親和性を高める特異な効果。あれは非常に興味深い。


 その完成度は、偶然などでは決して到達できない域にある」


「独学だよ。ただ、少し……試してみただけさ」


 その言葉に嘘はない。だが、すべてでもなかった。


「そうか。だがな――」


 ヴァルトはごくわずかに口元を緩めながら、懐から小さな黒い結晶を取り出す。

 その仕草は妙に静かで、どこか“場の音”を奪うような空白が生まれる。


「君の調合法には、“体系”がある。そして、既存の錬金術の枠には収まらない、独特な……異質さがある」


 言い終えると、彼は手の中の結晶を軽く傾けた。


 ピチ……ッ


 ごく小さく弾けるような音と共に、結晶が淡い光を放ち始める。

 中から滲むのは、なにかを伝えようとするかのような、かすかな圧。

 リュークの本能が、それを“ただの魔石ではない”と直感していた。


「……それは?」


 リュークの声は、わずかに低く、警戒心を帯びていた。


「“量子干渉結晶”だ。学院でも限られた研究者しか扱わない、非常に特殊な物だよ」


 ヴァルトは淡々と言いながら、指先で結晶を軽く弾いた。

 淡い波紋が空気を震わせ、どこか耳鳴りのような余韻を残す。


「君のポーションと反応するか、少しだけ確かめさせてもらった。もっとも……ちゃんと正規の手続きを踏んでね」


「……まさか、勝手に使ったわけじゃないよな」


 思わずリュークは険しい目で言葉を返す。

 ヴァルトは口元だけで微笑む。


「安心したまえ。一本、正式に購入しただけだ」


 その瞬間、リュークの背後でルミエルがそっと身を寄せ、低く囁いた。


「この人……ただの学者じゃない。 “目的”を持ってる。何かを探している……そんな気配がする」


 リュークは無言で頷き、慎重に相手を見据えた。

 ヴァルトは懐から小さな封筒を取り出し、差し出した。


「君にひとつ提案しよう。これに書かれた場所に、今度来てくれないか。 中央区の外れにある旧魔術塔の一室。もっと突き詰めた話ができるだろう」


 リュークは受け取ることもせず、じっと相手を見たまま尋ねた。


「……断ったらどうする?」


「それなら、それでも構わないよ。ただ――」


 ヴァルトは眼鏡越しにリュークをじっと見つめ、静かに言葉を続けた。


「いずれ、“君が辿る記憶の先”で、私が必要になる瞬間が来るだろう」


 それだけを言い残し、ヴァルトは背を向けた。

 ローブの裾が音もなく揺れ、彼の姿はギルドの夕焼けに溶けるように消えていった。


 リュークは手元の封筒をじっと見つめた。

 中には、地図と、古びた呪文式の断片らしきものが入っている。


 彼はしばらく無言のままそれを指先で弄び、やがてポーション棚のほうへと視線を向けた。

 そこには、すでに売れて空になった瓶が整然と並んでいる。


(……俺の作ったポーションが、ついに誰かを動かした。 それも、“あの世界”と繋がるような存在を……)


 わずかな緊張と、高揚感。胸の奥に、相反する感情が静かに渦巻く。


「ルミエル……行くかもしれない。 あの“魔導師”のところへ」


 言葉をかけると、ルミエルは迷いのない目で頷いた。


「うん。きっと、私の記憶とも繋がっているはず。 ……行こう、リューク」


 そのやり取りを聞いていたシャドウファングも、静かに立ち上がる。まるで、「当然だ」とでも言うように、リュークの足元へ寄り添った。


 こうして、夕暮れのギルドを後にした彼らは、封筒の地図を頼りに、新たな扉へと歩を進めることになる――。



 次回:記憶干渉、揺れる真実

 予告:封印核に秘められた「記憶」とは――

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