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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

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第78話 調合と共鳴のレシピ―導かれる響き

 宿の一室。

 テーブルの上には、昼間の素材採取で手に入れた薬草や魔導鉱石の粉末が、無残な残骸と化して散乱していた。


 床には何度も書き直されたレシピの紙片が散らばり、部屋中に焦げ付いたような刺すような臭いが漂っている。


「……くそっ、またダメか」


 リュークは呻くように吐き捨て、フラスコを睨みつけた。

 中の液体はドロリと濁った青灰色。

【ズン……】と重く沈んだその色と、鼻を突く刺激臭は、腐敗した魔獣の体液を思わせる不快さだった。


「何かが……干渉してる。リュサノミ草とエルネ蒸留液の反応が暴走してるな」


 リュークはフラスコを揺らし、だが手応えのない様子で唇をかみしめた。

 背後から、ルミエルがそっと近づく。


「もしかして、混ぜる順番が違うのかも?」


「順番……?」


 リュークはハッとしたように目を見開いた。

 これまで、素材の比率ばかりに意識を向けていたが、工程の順序が反応に与える影響までは――考えが及んでいなかった。


「……まさか」


 彼は焦げた匂いが残る紙片を片手に、魔術書の一節を探った。


「ルミエル、魔術書に“魔力干渉率”に関する記述は?」


「あったわ!」


 ルミエルはページをめくり、指で一文をなぞる。


「『触媒の活性化順序が、反応速度と安定性を大きく左右する』……これね」


「なるほど……試してみる」


 リュークは即座に態勢を立て直した。

 計量スプーンで慎重に薬草を測り、順序と温度に細心の注意を払いながら再び調合を開始する。


【コト、カリッ、スッ――】金属音と共に、器具を手際よく動かすリュークの手は、もはや迷いがなかった。


 フラスコの中で、青と透明の液体が【ゆらり】と混ざり合う。

 やがてそれは、星の瞬きのような蒼銀の輝きを帯び始めた。


「……来た」


 リュークの低く絞り出すような声と共に、液体が【ぽつり……ぽつり】と泡を立て、淡く脈動を始める。


 しかし――その瞬間、突如として泡が【バチバチッ】と弾け、光が勢いよく迸った。


「だめだ……過剰反応だ!光が強すぎる、魔石粉末で抑えるしか――」


 焦ったリュークが手を伸ばしかけた瞬間、ルミエルが強い声で制止した。


「待って!それ、逆に濃すぎるかも!」


「……くそ、仕切り直しだ」


 リュークは渋く顔をしかめ、重く息を吐きながらフラスコをテーブルに戻した。

 作業は振り出しに戻ったが、彼の表情にはさっきまでの苛立ちではなく、確かな「突破口を掴んだ」という手応えが残っていた。



 再度の調合

 リュークは、今度こそ素材の純度、分量、混合速度、魔力伝導率――その全てに極限まで神経を尖らせた。


 ルミエルは魔術書を開いたまま、ページをめくりつつ、要点を素早く探している。


「今、魔石粉末を入れるタイミング。光が呼応し始めてるわ」


「……よし、ここだ!」


 リュークが手元の小瓶を傾けると、細やかな粉末がさらさらと落ち、液体に触れた瞬間――


 ズン……。


 低く鈍い振動と共に、液体が一度膨れ、すぐに静かに収まった。

 まるで眠っていた心臓が穏やかに脈打ち始めるように、淡くやさしい光が容器の中に広がる。


「鑑定……発動」


 視界が淡く色づき、リュークの脳裏に情報が直接流れ込んでくる。


【精神共鳴ポーション・試作型】

 品質:B

 効果:精神集中を一時的に高め、魔法詠唱速度を10%加速。量子魔法との感応率上昇。

 副作用:2時間後に軽い疲労感。連続使用で幻覚のリスクあり。

 備考:素材順序の見直しと魔力干渉制御により、共鳴反応が安定。ルミエルとの共同作業が効果を高めている。


「……やっと、ひとつ形になったな」


 リュークは深く息を吐き、瓶をそっと机に置いた。

 指先には微かな震えが残り、肩は緊張と集中の重みでわずかに固まっていた。


「すごいよ、リューク!」


 ルミエルが満面の笑みで小さな拳を軽くリュークの肩へ当てた。

 コツンと響く音が、ようやく訪れた成功の証のようだった。


「何度も失敗してたけど、ちゃんと“完成”させたじゃない」


「……ありがとう。君の知識と助言がなければ、きっとここまで辿り着けなかった」


 リュークはノートの隅に“完成版”と記し、調合記録を念入りに書き残していく。

 ペンを走らせる手は、ただ作業的ではなく、この成功を二度と忘れないようにと刻むようだった。


「これは……きっと、次の扉を開く鍵になる」


 ルミエルは瓶を見つめながら、どこか懐かしさを宿した瞳で頷く。


「この“感応の波”、どこかで知ってる気がするの……きっと、この先にわたしの記憶が――夢の続きがある」


 静かな夜の中、言葉にしきれない共鳴が二人の間を満たしていく。

 それは試行錯誤の末に生まれた、ほんのひと雫の輝き。


 だが確かにそれは、量子の扉へと続く、確かな“最初の灯火”となっていた。



 ◆精神共鳴ポーション&強化ポーション、実戦投入

 薄紫の霧が蠢く峡谷の奥、リュークたちは討伐依頼を受けた“夢喰いのバジレウス”の巣にたどり着いていた。


 霧は甘ったるい腐臭と共に肌へ絡みつき、じわりと痺れさせる。

 呼吸をするだけで意識が曇るような錯覚――これは、バジレウスの魔力が瘴気を増幅させ、霧そのものを麻痺と幻惑の罠に変えている証だった。


「……ここが奴の巣か。空気が重すぎる」


 リュークは短剣の柄に手をかけつつ、腰のポーチから銀の瓶を二本取り出した。

 小瓶がぶつかり合い、カチリと硬質な音を立てる。


「ルミエル、これ……昨日作った試作品だ。使うなら今だ」


「うん、わかった」


 ルミエルは迷いなく瓶を受け取り、一気に飲み干した。


 ゴクリ――。


 液体が喉を伝い、体内へ広がると同時に、ルミエルの瞳がわずかに揺らいだ。


「……ふわっと広がった……でも、嫌じゃない。 むしろ、脳の奥がスッキリしていくような……」


「共鳴ポーションだ。魔力感覚が研ぎ澄まされるはずだ。 俺もいく」


 リュークも同様に飲み干すと、周囲の景色が一変した。

 視界が万華鏡のように鮮やかになり、空気中に漂う魔力が糸のように絡み合い、流れる様がはっきりと“視える”。


「……見える、バジレウスの魔力核だ。あそこだ」


 峡谷の奥、霧の向こうで脈打つように輝く光点があった。

 リュークはさらに別の瓶――赤褐色の【身体強化ポーション】を取り出し、シャドウファングの前へ差し出す。


 瓶の中で液体がドロリと揺れ、力強い赤光を放っていた。


「お前の分だ。戦闘が始まったら、タイミングを見て飲め」


「……グルルッ」


 狼は理解したように小さく唸り、瓶を慎重にくわえたまま前脚で踏み留まる。


 ――その瞬間、霧がざわめき始めた。ズズッ……ゴゴゴ……。

 ただの霧ではない、敵意そのものがうねるように辺りを満たしていく。


「来る!」


 リュークが叫ぶと同時に、霧を裂くようにして巨大な影が現れた。

 それは、蠢く芋虫のような異様な姿――《夢喰いのバジレウス》。


 六つの赤黒い瞳が冷酷に輝き、全身を覆う甲殻は霧と同調するようにヌルリ、ヌルリと動いている。

 その異形の体から放たれる瘴気と威圧感は、見るだけで精神を削るようだった。


「……幻影を操るタイプか。厄介だな」


 ルミエルが詠唱を始めた。「量子偏光展開――〈プリズム・ブレイク〉!」


 彼女の詠唱速度はいつも以上に鋭かった。

 共鳴ポーションの効果は、明らかにその魔法行動にも表れていた。


「……今だ、シャドウファング!」


 リュークは短く声を放ちつつ、同時に軽く指で合図を送った。

 狼はすでにその意図を察していたように、強化ポーションを一気に嚥下し、首を大きく振ると瞳に鋭い光を宿す。


 バギッ――


 一瞬の爆発的な筋力増加。その巨体が黒い稲妻のように地をえぐり、ズンッ!と重い足音を響かせながらバジレウスへと突進する。


 その速度は、まるで空気そのものを引き裂くかのようだった。


 リュークもまた、共鳴ポーションによって研ぎ澄まされた視界の中、敵の魔力核と周囲の霧が僅かに偏流する様子を見逃さなかった。


(見える……これが共鳴の効果。罠の動きまで把握できる……)


 すぐさま体を沈め、無言で呼吸を整えると、迷いなく獣の側面へと滑り込む。


「狙うは一点……!」


 ガギッ――!


 シャドウファングの牙が敵の脚部をバキリと裂き、硬い甲殻を剥ぎ取った。その一撃でバジレウスの巨体が僅かに傾く。


 直後、リュークの短剣が躊躇なく露出した魔力核へと突き刺さる――。


 ズズッ――ン……!


 直撃した核が軋む音と共に、バジレウスの全身が痙攣し、六つの瞳が一斉に光を失う。


 霧の中で、まるで誰かの断末魔のように、**グギャァァアア――**という耳障りな悲鳴が木霊し、やがてその巨躯は崩れ落ちた。


 静寂。

 薄紫の霧が名残惜しげに揺れ、バジレウスの死骸からはねっとりとした瘴気の残滓だけが立ち上っている。


「はぁ……終わった……」


 ルミエルが肩で息をしながら、わずかに額の汗を拭った。


「……あのポーション、すごいね。魔法が、まるで旋律みたいに流れてきた……でも、少し頭がズキズキする」


「共鳴ポーションの副作用だろう。だが十分すぎる効果だった」


 リュークは傍らで戦いを終えたシャドウファングへ目をやる。

 狼は荒い息を吐きつつも、どこか高揚したように尾を大きく振っていた。


「シャドウファング、お前の動きも……まるで別格だったな。ただ少し……興奮しすぎたか」


「ウォゥ……」


 低く満足そうな鳴き声と共に、狼はゆっくりとリュークの足元へ戻る。

 リュークは短剣を収め、改めてポーションの手応えを思い返す。


「これで確信した。あの調合は実戦で通用する。 ただし……持続時間と副作用が今後の課題だな」


「じゃあ次は……“持続性の強化”と“副作用の軽減”、かな?」


 ルミエルは、安堵の笑みを浮かべつつ、冗談めかして言った。


「ああ、間違いなく。 これがあれば――もっと先に行ける。 君の記憶も、その先の真実も……必ず掴む」


 三人の間に、今までの霧が晴れたような静かな光が宿る。

 だが、この勝利は同時に、峡谷に潜むさらなる闇の“序章”に過ぎないことを、彼らはまだ知らなかった。



 次回:ポーションの噂、思わぬ来訪者

 予告:突きつけられた封筒。その中身は、過去への鍵か、未来の導火線か。

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