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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

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第76話 知識が拓く商機と研がれる覚悟

 森からの帰り道、リュークはふと思い出したように口を開いた。


「そういえば……先日倒した魔物、少し気になる点があったな」


 隣を歩くルミエルが、小首を傾ける。


「気になる?」


「普通の《コラルウルフ》だった。 けど――倒した後、体内から黒い結晶が出てきた」

「あれは……妙だった。形もいびつで、まるで力がこもったまま腐りかけたような……そんな感じだったんだ」


 その言葉に、シャドウファングが低く「グルル……」と唸り声を漏らした。耳を伏せ、微かに警戒するような仕草。どこかその結晶に覚えがあるようにも見えた。


 宿に戻ると、リュークはすぐさま結晶を袋から取り出した。


 手に持つと、すっと体温を奪われるような冷たさが伝わる。闇色の表面は光を吸い込み、僅かに“ズ……ズ……”と微振動を響かせている。


「……やっぱりただの鉱石じゃないな」


 リュークは額に皺を寄せ、すぐに指先を向けた。


「《鑑定》」


 瞬間、視界が歪む。淡い青白い輪郭が結晶を包み、無機質なデータが頭に流れ込んでくる。


【黒結晶(闇核欠片)】

【分類:未知の魔力結晶体】

【闇の核由来の魔力反応を示すが、完全体ではない。劣化、断片化が進んでいる。】


 リュークは息を呑んだ。


「……やはり、闇の核と似た波長か。けどこれは欠片……完全ではないな」


 ルミエルが隣から身を寄せ、少し緊張した声を出す。


「量子魔法が関係してる可能性も高いかも。 封印された“闇”の力……まだどこかで、流れ出してるのかもね」


「……可能性はあるが、確証はない」


 リュークは結晶を布で包み、懐へしまいながら静かに結論を下した。


「今はこれ以上深入りしない。 だが、いずれ必要になる時が来るだろう。 覚えておくくらいはしておくさ」


 ルミエルは柔らかく頷き、シャドウファングも控えめに鼻を鳴らした。

 そのまま三人は、何事もなかったかのように道具の整理を始め、次なる行動へと静かに歩みを進めた。


 ◆調合と小さな勝利

 鑑定を終えると、リュークはすぐにテーブルへ向かい、調合器具を広げた。


 ルナハーブの茎、セレナ草の抽出液、そして昨日試作した安定剤――これは、揮発と沈殿を抑えるために特別に調合した補助薬だった。

 わずかに青白い光を帯び、液体が滑らかに瓶の内側を流れる。


「よし、素材の状態は理想的だ。これなら、かなりの精度で仕上がる」


 リュークは小声で確認し、慎重に調合を始めた。


 火加減、時間、撹拌の速度――全てが寸分の狂いなく進む。

 脳内に流れ込んだ《化学の記憶》が、まるで自分ではない誰かの手を借りるかのように、自然に指先を導いていく。


 その様子を、ルミエルは息を飲みながら見守っていた。


 彼女はリュークの動きを読み取り、必要な器具を絶妙なタイミングで差し出す。

 まるで長年の相棒のような、息の合った連携だった。


「……ここで安定剤だな」


 リュークは瓶の口から、ほんの数滴を液体に加える。


 混ざり合った瞬間、液体の色がふっと均一になり、まるで息を整えたように、煮立ちも泡立ちも静まった。


 ルミエルが驚いたように声を漏らす。


「……すごい、安定してる」


 リュークは小さく頷く。


「これで雑味や劣化の心配はない。最高品質に仕上がるはずだ」


 仕上げの処理を終えると、ルミエルがふっと息をついた。

 その唇から、不意に旋律が漏れ出す。


「……ララ、ララ……ルス・エテルナ……」


 それは歌とも呪文ともつかない、どこか懐かしくも奇妙な旋律だった。

 リュークは思わず手を止める。

 だが、ルミエル自身は気づかぬまま口ずさみ続けている。


「完成――《回復ポーション・改良型》」


 リュークは小瓶を持ち上げた。淡い桃色の液体が、瓶の中で静かに揺れている。

 見るだけで、品質の高さが伝わってくる。鑑定を起動するまでもない。


 ルミエルはその輝きをじっと見つめ、ぽつりと呟く。


「ねえ、リューク。量子魔法の記憶が開放されたら……私は、きっと、もっと思い出すと思う」


 リュークは少しだけ柔らかく笑い、頷いた。


「その時は……一緒に思い出そう。君の記憶も、俺の真実も」


 ルミエルは照れたように微笑み、先ほどの旋律をもう一度、無意識のうちに口ずさんだ。


「……ララ、ララ……laluzque――……ふふっ、なんだろ、今の……変なの」


「なんだそれ?」


「わかんない。……でも、なんだか懐かしい気がして」


 リュークは思わず肩をすくめた。だが、そのやり取りの中には、確かに新しい絆のようなものが生まれていた。


 朝日が、宿の小さな窓から静かに差し込んでいた。

 リュークはわずかに顔をしかめながら目を覚まし、静かに体を起こす。


 枕元には、昨晩仕上げたポーションの瓶が5本――それらは朝の光を受け、微かに金と桃の入り混じった輝きを放っていた。


(副次効果付きのBランク……これなら十分通用する)


 彼は瓶を手に取り、重みと粘度を確かめるように軽く振った。

 中の液体がとろりと音を立て、瓶の内側を滑っていく。


 視覚だけでなく、感覚でも品質の高さが伝わってきた。


「依頼報告も兼ねて、納品するか」


 そこへ、眠そうな声が聞こえてくる。

 ルミエルが、まだ半分寝ぼけた顔でリュークの横にやってきた。


「ギルドに行くの?」


「依頼品の提出と報酬の受け取り。あと、次の依頼も見ておきたい」


 リュークは言いながら革袋にポーションを詰め、手慣れた様子で肩にかけた。

 シャドウファングも足元で小さくあくびをし、すぐにぴたりと耳を立てた。出発の気配に、すでに体が反応している。


 ――ギルド。


 重い石造りの扉を押し開けると、冒険者たちの賑わいが耳に飛び込んできた。

 受付のエリナが帳簿を整理していたが、リュークに気づくと笑顔で顔を上げた。


「おはよう、リューク。例の採取依頼、進んだの?」


 リュークは無言で革袋を差し出す。


「これが完成品。回復ポーション5本。どれも高品質だ」


 エリナは一本を慎重に取り出し、鑑定装置にそっと載せる。

 カチリ、と音が鳴り、魔力が瓶の中で青く明滅する。数値が浮かび上がると、彼女は思わず目を見開いた。


「……Bランク!?これもすごいわ。報酬は当然、上乗せになるわね」


「助かる」


 リュークの口元が僅かに緩む。

 エリナはさらに言葉を続けた。


「これだけの品質なら、ギルド販売棚に並べるのもありよ。どうする?」


「代行販売で頼む」


「了解。売れた分は、また報告するわね」


 エリナが手際よくポーションを整理していく間、リュークは残る採取依頼の品――ルナハーブとセレナ草――も差し出した。


「これで依頼は完了。報酬はポーションの分と一緒に渡すわ」


 リュークは一つ頷くと、カウンター横の掲示板へ視線を向けた。

 依頼の札が、風に揺れてかすかにパタパタと音を立てている。


(金貨を稼ぎつつ……次の記憶解放に備えないとな)


 彼の視線は、いつのまにか遠く、より高みを目指していた。

 その背中を、ルミエルとシャドウファングが静かに見つめる。


 そして彼らは、また一歩、扉の向こう――新たな未来へと進み始めた。



 次回:仮初めの平穏、光なき伝承

 予告:知らぬ記憶と歌が導く先に

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