表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/123

第73話 記憶が語る“化学”の真実と、重なる面影

 翌朝――。

 リュークはゆっくりと椅子から立ち上がり、ベッド横の小さなテーブルに手を伸ばした。そこには、昨夜のうちに数えた金貨が、静かに並べられている。


 ちょうど五十枚。


「……これで条件は満たせる」


 金貨を見つめながら、リュークは小さく息を整えた。

 その瞬間、脳裏に無機質なインターフェースが浮かび上がる。淡く光るその中に、新たな文字列が現れた。


【化学の記憶(初級)開放条件:金貨小50枚】

【開放しますか?】


 リュークは迷いなく、短く告げた。


「――開放する」


 声に応じるように、テーブルの金貨が一斉に**カチ…カチ…**と音を立てて震え、次の瞬間、ふわりと宙へ浮かび上がった。


 五十枚の金貨は青白い光に包まれ、**シュウウ……**という静かな音と共に粒子へと変わっていく。


「っ……!」


 リュークの額へと吸い込まれていく光の流れ。


 同時に、脳の奥深く――まるで今まで閉ざされていた厚い扉が、ギィィ……ンと重く開かれるような感覚が走った。


 それは決して痛みではない。むしろ、忘れていた何かが一気に呼び覚まされるような――奇妙な震えと熱さを伴う衝撃だった。


 意識の奥底に、途切れ途切れの映像が次々と浮かび上がる。


《化学の記憶:暮らしの断片》


 視界が揺らぎ、時間が止まったような感覚に包まれた。

 脳の奥、何かが急激に熱を帯びる。

 意識の中へ、次々と“映像”が流れ込んでくる。


 ──白い机の上、並んだ瓶と器具。

 ガラスのビーカーに注がれる薄い青色の液体。


 それに、ひとしずくの透明な試薬。

 ふわりと立ちのぼる白煙。


「これが中和反応。酸と塩基の、バランス点」


 誰かの声が、記憶の中で響く。


 そして――

 怪我をした腕に、アルコールで湿らせた布を当てる手。


 腐敗しかけた肉に、塩を擦り込んで保存する仕草。

 釘を溶かす酸性液の泡。


 植物から抽出された汁が、炎に色をつける様子。

 蒸留器。ビーカー。アルコールランプ。粉末を測る天秤。

 色とりどりの薬品が混ざり合い、爆発ではなく、安定した変化を生み出す。


「魔力媒介物質」と書かれたラベル。

「エーテル抽出剤」「幻毒の根」などの名称がすべてが、知識というより“体に染みついたやり方”だった。


 目を開けたリュークの手が、ゆっくりと、だが迷いなく動き始めた。

 指先が草の葉をそっと撫で、湿った土をつまみ、空気のわずかな匂いを嗅ぎ取る。


 サラ…


 かすかな草の触感と、しっとりとした土の冷たさが、手のひらに広がる。


 そのすべてが、頭の中で自然に結びついていく。

(この草は……応急処置に使える。これは……毒の中和だ)


 考え込むでも、記憶を探るでもない。


 ただ、体が“知っている”ように動いていた。

 覚えたはずはない。だが、それは疑いようのない確信だった。


 あたかも、過去に何度も繰り返し行ってきた行為のように――。


「……思い出している……」


 リュークは小さく呟き、指先を見つめた。


「誰かから教わったんじゃない……でも、確かに俺の中にある」


 微かな鼓動のように、体の奥で響くその感覚。

 それは根拠ではなく、まぎれもない経験に近い理解だった。


「……これは、“俺の記憶”だ」


 その時、脳髄を焼き尽くすような感覚。視界が乱れ、意識が混濁する。


 H₂O,CO₂,NaCl,CH₄,C₆H₁₂O₆,H₂SO₄,HNO₃,HCl,NaOH,KOH,NH₃

 化学式が、脳内を埋め尽くし、意味の洪水が押し寄せる。


 H,O,Na,Cl,C,N,S,Fe,Cu,Au,Ag,Pt,Hg,Pb,U,Ra,Rn

 元素記号が、フラッシュバックのように現れては消え、脳内で周期表が組み変わる。


 pH,ΔG,E=mc²,C=n/V,log,sin,cos,tan,exp,ln,√,∫,Σ,∂,∇,ℏ,α,β,γ

 数式と記号が、脳内で複雑に絡み合い、幾何学模様を描き出す。


 危険、放射能、生物兵器、原子、雷、実験、温度、顕微鏡、遺伝子、薬、錬金術、知識、鍵、機構、変異、爆発。様々な記号とイメージが、感情とともに脳内を駆け巡る。


 酸化,還元,中和,触媒,重合,分解,置換,沈殿,ろ過,蒸留,抽出,結晶,錬金術,毒物,解毒,薬学,調合,副作用,投与量,致死量,幻覚,暗示,錬成,変成,精製


 化学反応、錬金術、毒物学、薬学。様々な知識が、断片的に脳内を駆け巡り、記憶の断片を形成する。


 モル濃度,イオン結合,共有結合,金属結合,分子間力,ファンデルワールス力,錯体,キレート,賢者の石,ホムンクルス,エリクシル,ラボルトの法則,ヘスの法則,ファラデーの法則,ボイル・シャルルの法則,質量作用の法則,平衡定数,活性化エネルギー,触媒毒,キラル化合物,光学異性体,ラセミ体,酵素,受容体,神経伝達物質,アポトーシス,DNA複製,RNA転写,タンパク質合成


 専門用語が、意味を理解する間もなく、脳内に洪水のように流れ込み、記憶の海を形成する。


 錬金術の道具,毒物の作用機序,薬の投与方法と副作用,混合物の分離方法と応用,錬成反応の制御,毒物による神経伝達阻害,薬による遺伝子発現制御,触媒による反応速度の操作,結晶構造と物性,錯体による金属イオンの分離,キラル化合物による薬効の選択性,酵素反応の阻害と促進,DNAの変異と修復,タンパク質の構造と機能


 具体的なイメージと応用例が、鮮やかな映像となって脳裏に浮かび上がる。

 知識の迷宮。それは組み合わさり、複雑に絡み合い、次々と形を変えていく。


 脳が焼き切れそうな感覚。

 意識が一瞬、崩れ落ちるような錯覚に襲われる――**ズン……**と重く、脳内で響く衝撃。


 それでも、深層には確かに刻まれていくものがあった。

 それは、禁断の領域に触れる知識。


 神々の座に近づくような、危うくも魅惑的な力だった。


 そして――世界の法則すら塗り替える、"創造の知"だった。

 木の根から採れる、乳白色の樹液。

 乾ききった葉の裏にこびりつく、淡い結晶。


 それらを手にした瞬間、扱い方が本能のように理解できる。

 ただ混ぜるのではない。


 分離し、抽出し、濃縮し、そして再合成する――。


 それらは派手でも、壮大でもない。


 しかし、確かに“生きるための技術”だった。

 毒を中和し、薬を作り、罠を解き、味方を癒す。


 静かで、地味で、けれど絶対に必要な力。

(これが……“使える知識”だ)


 その理解は、まるで焼き鏝で刻み込まれるように、確かにリュークの中に定着していった。

 逃れようのない必然として――次々と、記憶が組み上がっていく。



《ルミエル残響の記憶:誰かをなぞる声》


 リュークの手元から、ささやかな“化学の記憶”が光となって収まっていくのを見届けたルミエルは、胸の奥に何かざわつくものを感じていた。


(さっきのあれ――)


 リュークの動き、手順、声の調子。


 まるでどこかで、何度も見たような気がする。

 けれど、それは“このリューク”ではなかった。


 ぼんやりと、頭の中に“重なるような違和感”が浮かぶ。


「……変だな」


 小さく呟いたその声に、リュークが顔を上げる。


「どうかした?」


「ううん、ただ……ちょっと懐かしい感じがしただけ」


 嘘ではない。けれど、真実を言い切るには、曖昧すぎた。


 ──白い光に満ちた空間。

 ──ガラス越しの視線。

 ──何かを操作していた“誰か”。


 ルミエルの記憶の底に、ぼんやりと浮かぶ“あの人”は、

 今のリュークと違う、それとも同じ?・・・・・・


 だが、その胸の奥で、何かが確かに**“繋がりかけて”**いた。

 かつて自分が“閉じられていた場所”で、確かに誰かがいた。

 自分の名前を呼び、ここではないどこかへ繋ごうとしていた“誰か”。


 そして、その名前は――


(……リューク、だった)


 けれど、あの人は目の前の彼とは違っていた気がする。

(じゃあ……誰?)


 その疑問が、記憶の奥で燻っている。


【スキル獲得:化学の記憶(初級)】

【サブスキル解放:基礎調合/簡易錬金/安定剤生成】


 意識を戻したリュークは、ゆっくりと目を開けた。

 視界が、以前とはわずかに違って感じられる。


 ポーションの素材が入った袋へ目を向けると、今まで気付かなかった微細な差異が鮮明に映し出された。乾燥の度合い、粉末の粒の細かさ、光の屈折による純度の違い……直感ではなく、確かな“理解”として頭に流れ込んでくる。


「……すげぇ。頭の中で、調合式が自然に浮かぶ……!」


 驚きと興奮を隠せないリュークの声に、ルミエルがぱっと顔を輝かせる。


「成功したんだね!」


 弾かれるようにリュークへ飛びつき、その腕にしがみつく。

 柔らかな衝撃が伝わり、リュークは少しだけ面食らったが、すぐに笑みを返した。


「これで、明日からポーションの販売を試せるな。 冒険者の広場か、ギルドの露店か……場所は考えないと」


 シャドウファングも低く**グルゥ……**と小さく唸りながら、テーブルに置かれた薬草の袋に鼻先を寄せる。その仕草に、どこか賛同の意志が感じられた。


 リュークは頷き、指先で薬草を軽く弾いた。**サラ……**と乾いた音が広がる。


「よし。まずは『基礎調合』だ。 高品質の回復ポーションが作れれば、それだけで資金源になる。 今後、次の“扉”を開くまでの安定した足場にもなるはずだ。」


「じゃあ、私も手伝うね!」


 ルミエルはふわりと浮き上がり、笑顔を見せる。その頬には嬉しさと少しの誇らしさが滲んでいた。


「成分の見分け方、なんとなく覚えてる気がするから」


「助かる。二人でやれば、調合の精度もぐっと上がるだろう。」


 リュークの言葉に、ルミエルはコクリと頷き、シャドウファングも静かに尻尾を振る。


 三人の間に、穏やかで温かな光が灯った。

 希望と手応え――戦わずして得る力と、次なる量子の扉へと繋がる確かな実感。


 それは、彼らにとって新たな旅路の始まりを告げるものだった。

 リュークは再び金貨の残りを見つめ、静かに決意を固める。


(次こそ……“量子の記憶”を開く。その時までに、もっと強くなってみせる)


 ふと、思い出す。

 あのとき、見えた映像――


“量子記憶”の断片。

 触れかけた知識と記憶。それが現実だったのか夢だったのか、自分でも判別がつかない。


 リュークは小さく息を吐き、ぼそりと呟いた。


「……“選ばれた者”か。何を以って、誰が選ぶんだろうな」


 冗談めかして口にしたその言葉は、しかし自分自身に問いかけるような響きを帯びていた。

 ──“でも本当は、怖いと思ってるんじゃないか?”

 ──“忘れてるだけで、全部……自分が壊したものだったら?”


 一瞬だけ、そんな考えが脳裏をかすめる。

 けれど、答えは出ない。


 だからこそリュークは、改めて強く拳を握る。


(行くしかない。記憶と向き合って、“世界のしくみ”を……暴く)


 限界まで使い込まれた意識はやがて闇に沈み、リュークは自然と深い眠りへと誘われていった。


 そして――新たな朝が、静かに訪れた。





 次回:静かなる錬成、そして揺らぐ自我

 予告:知識”が導いた成果は、希望か、それとも歪みの始まりか――

読んでいただき、本当にありがとうございます。


皆さまからのご感想や応援が、何よりの励みになっています。


もしよろしければ、「ブクマ」、「評価」や「感想」など、お気軽に残していただけると嬉しいです。

一言でも大丈夫です。


今後の執筆の大きな支えになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ