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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第4章

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第70話 祝宴の余韻と、封じられた記憶

 翌朝、リュークたちはギルドマスターの執務室へと呼ばれた。


 木製の重厚な扉をギィ……ッと押し開けると、そこにはギルドマスター・ヴォルグが腕を組み、窓から差し込む朝日を背にして立っていた。


 銀髪に刻まれた皺と鋭い眼差しが、彼の歴戦の経験と威圧感を物語っている。


「……お前たちが遺跡から持ち帰ったという、闇の核の残滓を見せてみろ。」


 低く、重みのある声が室内を満たす。


 リュークは懐から淡く青白い光を放つ小さな欠片を取り出し、そっと机の上に置いた。

 ヴォルグは目を細め、欠片へと手をかざす。


 **スゥ……**と魔力が僅かに反応し、空気が張り詰める。


「これが……あの遺跡の元凶か。」


 しばし沈黙の後、ヴォルグは唸るように呟いた。


「信じがたいが、確かに邪悪な力の名残が感じられる。」


 リーナが一歩前へ出て、慎重に口を開く。


「遺跡の最奥には魔法陣があり、闇の核が中心で脈動していました。それが影を生み出す元でした。」

「そして戦闘中、古代文字が浮かび上がり、まるで警告のような詩が刻まれていたんです。」


「……古代文字だと?」


 ヴォルグの表情が僅かに険しくなる。


「それを覚えているか。」


 リーナは頷き、記憶を辿るようにそっと言葉を紡いだ。


「――『深淵の闇は、光の意志により束ねられ、虚無の彼方に葬られん』……確か、そう記されていました。」


「……ふむ。」


 ヴォルグは深く息を吐き、重々しく机に肘をつく。


「その文言……古代戦争時代に残された封印詩の一節だ。 おそらく、あの遺跡は光と闇の力を封じるための施設だったのだろう。」

「だが封印は長い年月で弱まり、影が漏れ出していた……そういうことか。」


 ガルドが腕を組み、顔をしかめる。


「ってことは、つまり……俺たちはとんでもないもんをぶっ壊したってことか?」


「いや、むしろ止めたんだ。」


 ヴォルグは断言するように欠片を見つめ返した。


「だが、これをこのままにしておくわけにはいかん。ギルドで厳重に保管する。」


 そこへザックが、待ちきれないといった様子で身を乗り出す。


「で、その――大仕事の報酬ってのは?」


 ヴォルグは一瞬だけ意地悪そうに目を細めたが、やがて柔らかく笑った。


「ふ……安心しろ。お前たちの功績はギルド史に刻まれるほどのものだ。 通常報酬に加え、特別報酬を上乗せし、正式な討伐証明書も授与する。」


「おっしゃ!」


 ザックは満足そうに拳を握り、ガルドとリーナは静かに顔を見合わせた。

 リュークは欠片を見つめながら、まだ拭いきれない不安と、新たな旅の予感を胸に秘めていた――。


 リュークたちは顔を見合わせ、互いの無事を確かめ合うように、安堵の笑みを浮かべた。

 その緊張から解き放たれた空気に、執務室の静けさがじんわりと染み渡る。


「お前たちの働きに感謝する。街を救った英雄として、胸を張れ。」


 ヴォルグは静かに言い、重みのある足取りで席を立つと、リュークたちに深々と頭を下げた。

 その仕草に、長年戦場を渡り歩いてきた男の本気の敬意がにじむ。


 夜――

 ギルドは、リュークたちの偉業を称える宴で賑わっていた。


 杯がぶつかり合い、カラン、カランという音が夜の静けさを彩る。

 笑い声と酒の香りが漂う中、リュークたちもまた、それぞれの想いを胸に杯を交わしていた。


 リュークはふと、酒場の片隅に腰を下ろし、遠く遺跡の方角を静かに見つめる。


 ルミエルが隣にそっと寄り添い、シャドウファングは彼の足元で丸くなり、静かに寝息を立てていた。


 彼の柔らかな毛並みを撫でるリュークの手も、どこか無意識に動いている。


「これで……本当に終わったのかな……」


 リュークの小さな呟きに、隣のルミエルが、微笑みながら答える。


「きっと、これは始まりなんだよ。」


 その声は、あまりにも穏やかで、けれどどこか遠くを見つめるようでもあった。

 リュークは静かに息を吐き、苦笑いを浮かべる。


「……なら、この平和に乾杯だ。」


 カチン――


 仲間たちの杯が静かに音を立て、笑顔と共に夜は深く静かに更けていく。


 ギルドの広間は、冒険者たちの笑い声と談笑で賑わっていた。


 リュークたちは長い戦いを終え、ようやくカウンター前に集まっていた。

 ヴォルグが分厚い帳簿をパタンと開き、重い眼差しをリュークたちに向ける。


「遺跡の守護者討伐、闇の核の残滓回収、さらには古代文字の解読まで……」


 低く響くその声に、周囲の冒険者たちも耳を傾け始める。


「――今回の功績は計り知れん。報酬も相応のものになるだろう。」


 ヴォルグは引き出しから重厚な金袋を取り出すと、**ゴトン――!**と音を立てて机に叩き置いた。


 金袋の口がわずかに開き、**シャラ……シャラ……**と金貨が滑り落ちる鈍い音が響く。

 目映い光を放つ金貨に、ザックが思わず身を乗り出した。


「へへっ……これだけあれば、しばらくは豪遊だな!」


 ザックの口元が緩む。

 ガルドはそんな彼を横目に、腕を組んで頷いた。


「命懸けだったし、これくらいはもらって当然だな。」


 ヴォルグは無言で再度袋をいくつか取り出し、追加の金貨を入れていく。


「これが基本報酬、そして古代遺跡の調査貢献分を加えた特別手当」

「合計――金貨小200枚だ。」


 重々しい言葉と共に、袋が次々と仲間の前に差し出される。


 ガルドが手際よく袋を仕分けし、それぞれの手元に配る。


 リューク、リーナ、ザック、そしてルミエルへも。


「ほら、お前も受け取れ。」


 ルミエルは差し出された小さな袋を見つめ、きょとんとした後、そっと微笑んだ。


「ありがとう……!」


 彼女の素直な礼に、思わず皆が和んだ空気になる。

 その時、カウンターの奥からギルド職員のエリナが足早に姿を現した。


 手には一枚のカードと、簡素な通知書を持っている。


「リュークさん。」


 彼女は真剣な表情で続けた。


「あなた――Dランクに昇格よ。」


 突然の言葉に、リュークはわずかに目を見開いた。


「……俺が?」


 驚きを隠せないリュークに、エリナは柔らかく微笑み、力強く頷いた。

 その言葉に、仲間たちも自然と笑みを浮かべる。


 ほんの少しだけ、確かな“前進”を実感した瞬間だった。


「少し早いけど、今回の功績はギルド史に残るほどの依頼の達成と、あなたの動き、仲間との連携」

「それに……あなたは、十分すぎるほどの功績を見せてくれたわ」


「ギルドマスターも了承してるわ」


 ヴォルグもうなずいた、そして付け加えた。


「だが早すぎるのは事実だ、まだ経験が見合ってないとは思うが……これは報酬のめんが強い」


 ガルドがニヤリと笑った。


「おいおい、こんな早さで昇格する奴、滅多にいねぇぞ?」


 ザックも口笛を吹いてから、肩をすくめた。


「まあ当然だな。あの場面、お前がいなきゃ詰んでたし」


 ルミエルも、そっと頷いた。


「うん。リュークのおかげで助かった。何度も」


 リュークは一言、


「……ありがとう」


 と呟き、渡されたDランクのギルドカードを手の中に収めた。

 重さは変わらないはずなのに、どこか“責任”のようなものが、掌に残った。


「これで、受けられる依頼も増えるわ。少しずつ、できることも広がると思う」


 エリナの言葉に、リュークは小さく頷いた。

 そして、短く深呼吸する。


 ——これで、ようやく“冒険者”として一歩進めた気がする。



 その後、仲間たちはギルドの酒場で遅い夕食を楽しんでいた。ルミエルは窓際に座り、夜空を見上げていた。


 その瞳には、かすかな光が揺れている。

 ルミエルがそっとリュークの袖を引いた。


「リューク……少しだけ、話せる?」


 小さな声だった。リュークは瞬時に真剣な気配を感じ取り、こくりと頷く。

 二人は酒場の賑わいを避けるように、静かな隅へと移動した。


 ルミエルは不安げに辺りを見回し、ためらいがちに切り出す。


「少しだけ……何か、思い出したの。メモリーバンクのこと――解放について。」


 彼女の瞳が淡い光を帯び、万華鏡のように微細に色を変えていく。リュークは息を止めた。


「メモリーバンク……解放……?」


「私の記憶……その一部が封印されているの。 でも、解放が進めば、もっと思い出せる。きっと――影の正体や、遺跡の秘密も。」


 ルミエルは拳を胸元で握りしめ、どこか焦るように言葉を続けた。


「それに……私は“量子魔法”の一部でもあるの。 メモリーバンクは、記憶を保存するための装置……。 上位レベルを開放するには……金貨が必要になる。」


 リュークは静かに目を細め、周囲を警戒した。ガルドたちにはまだ話すべきではない。

 彼らが……これからの戦闘……まだ見極める必要がある。


「解放には、多くの金貨が必要だ」リュークが考える。


「うん。今持っている分じゃ、きっと足りない……。」



 ルミエルは俯き、どこか頼りなさげに声を落とした。リュークはしばらく考え込んだ末、そっと彼女の肩に手を置く。


「分かった。けど、今は……このことは俺たちだけの秘密にしておこう。」


「……うん。」


 ルミエルは不安げに頷いた――が、その視線がふと、リュークの首元へ向かう。


「……まだ、持っていたんだね」


 リュークが戸惑って首を傾げると、彼女は微笑みながら指を伸ばす。


 リュークの胸元、衣の隙間からのぞいたくすんだ金属片の首飾り。風化しかけた記録文様が、かすかに月光を受けて輝いていた。


「それ……私が、昔あなたに……あげたような、気がするの」


 声はあくまで穏やかだったが、どこか“確信”とは違う響きが混じっている。


 思い出そうとしても、細部はまだ霞がかかったまま――けれど、“何か”が繋がっている。そんな曖昧な確信。


 リュークは目を伏せ、そっと首飾りに手を添えた。


「……ルミエルが?」


「うん。でも、いつ、どうやって……までは思い出せないの。ごめんね、こんな曖昧で……」


「いや、ありがとう。……なんとなく、そうなんじゃないかって気はしてた」


 ルミエルは、ふと口元に笑みを浮かべて言った。


「まあ、あげたのが私じゃなかったら……誰か他の女の子の可能性もあったけどね?」


 リュークは即座に真顔で返した。


「……だったら、たぶん今ここで問い詰められてる」


「えっ、問い詰めるのは私なんだ?意外と嫉妬深いタイプ?」


「じゃなきゃ、こんなに用心して一人で動いてない」


「ふふっ、なるほど。言い訳としては合格点あげる」


 くすりと笑ったルミエルの横顔には、いつもの緊張感が少しだけ和らいでいた。

 そして、リュークの手をぎゅっと握り返す。


 その足元で、シャドウファングが**フン……**と鼻を鳴らし、二人の間に割って入るように寄り添う。


「……お前も気になるのか」


 リュークが苦笑する中、シャドウファングはやや誇らしげに尾を揺らしていた。

 リュークは視線を窓の外へ移した。


 静かな夜空。星々は変わらず瞬き続けている――だが、彼の胸中にあるものは違った。


「……これで終わり、じゃない。」


 低く、リュークは呟く。


「必ず手がかりを見つける。まだ……俺たちの戦いは始まったばかりだ。」


 ルミエルは、そんなリュークを見つめ、微笑んだ。彼女の瞳は、どこか決意に満ちた色へと変わっていた。


 静かに、新たな冒険の鼓動が、夜の闇に溶け込んでいった――。



 次回:記憶の扉と、量子に封じられし真実

 予告:開かれるのは、力の記憶か、それとも災いの兆しか。

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