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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第4章

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第69話 封印の果て、少女は目覚

 核が砕け散ると同時に、部屋全体が**ズズゥゥン……**と鈍く震えた。

 闇を覆っていた重苦しい気配は、崩壊とともに急速に薄れていく。


 黒く染まっていた空間は、まるで霧が晴れるように静かに色を失い、残されたのは灰のように舞い落ちる黒霧だけだった。


 リュークたちは肩で息をしながら、その場に立ち尽くしていた。

 剣を地面につき、荒い呼吸を整えるガルドが、緊張の残る声を絞り出す。


「……終わったのか?」


 天井から差し込む淡い光が、ようやく訪れた静寂を穏やかに照らす。

 リーナは杖を下ろし、わずかに震える指先で魔力の余韻を感じ取るように目を細めた。


「ええ……たぶん。」


 囁くように答えた声は、まだ完全に安心しきっていない。

 ザックは短剣をクルリと回し、肩をすくめながらも安堵の笑みを浮かべる。


「まったく……肝が冷えたぜ。でも、何とかやったな。」


 その時――

 シャドウファングが**グルル……**と低く唸り、影の消えた空間を鋭く見渡していた。


 仲間たちが緩みかけた空気の中、彼だけは最後まで油断を許さない。


 リュークはその様子に目を留めつつ、再び崩壊した核へと視線を戻した。

 かつて黒曜石のように脈動していた核は、今やただの砕けた岩片に変わっている。


 その中心――小さな欠片だけが青白い光を宿し、忘れ形見のように静かに転がっていた。


「これが……核の残滓、か。」


 リュークは慎重にその欠片を拾い上げる。

 指先に伝わるのは、ひんやりとした冷たさ。


 忌まわしい鼓動は、もうどこにも感じられない……はずだった。


 だが次の瞬間――

 胸元に、じんわりと温もりが走った。


 リュークは思わず眉をひそめ、視線を下げる。

 首元にわずかな重みを感じる。


 そこには、くすんだ金属片の首飾りが静かに揺れていた。

 表面には、風化しかけた古代の“記録文様”のような刻印が浮かんでいる。


 だがその刻印が――今、淡く光を帯びて脈動しはじめた。

 まるで、心臓の鼓動に呼応するように。


 **スゥ……スゥ……**と、微細な光が脈を打つたびに漏れ出し、

 その光は、ゆっくりと魔核の欠片へと引き寄せられていく。

(これは……)


 リュークが呟くより早く、光が首飾りから溢れ、空気中に浮遊する粒子となって舞い始めた。

 その粒子は、まるで情報の波が“鍵”を求めるかのように、核の欠片へと吸い込まれていく。


 ――そして。

 核の欠片が**パァン……**という鈍い音を立て、震えるように光を放ち始めた。


 それは、まるで長い眠りから目覚めた意識が、再びこの世界に接続されたかのようだった。

 眩い光が辺りを包み込み、微細な粒子が**サラサラ……**と舞い踊る。


 やがて、その中心から、繭が孵化するように、小さな人影が浮かび上がる。


 リュークは、ただその光景を見つめながら、強烈な既視感に囚われていた。


「まさか……!」


 息を呑んだリュークの目の前で、光の中から現れたのは――

 小柄で幼さの残る、まるで妖精のように儚くも神秘的な少女だった。


 光を反射する繊細な鱗粉が、彼女の周囲を柔らかく漂い、

 透き通る羽が**フワ……フワ……**と揺れる。


 万華鏡のように多彩な光を宿す瞳は、感情と共にその色を変え、

 絹糸のような髪は、風がないにもかかわらず**サラ……**と揺れて、光の粒子を零していた。


 少女は、ゆっくりと目を開き、真っ直ぐにリュークを捉える。


「リューク……!」


 その声はどこか懐かしく、まるで長い旅路の果てに再会した旧友のようだった。


 だが、それ以上に――その“響き”が、リュークの奥底を揺さぶった。

(この声……夢の中で、何度も聞いた……)


 白銀の髪。祈る姿。崩れゆく神殿。

 名前を呼ぶ、あの微かで確かな声。


 ぼやけた記憶の残滓が、今この瞬間、現実の中に形を持って現れていた。

(まさか……ずっと見ていた“あの少女”は……)


「ルミ……?」


 リュークは、世界で目覚めたばかりの頃の記憶を呼び覚ましていた。

 ノイズ混じりの夢、その最後に聞こえた声――それは確かに彼の名を呼んでいた。


 そう、ルミエル――。


「そう……?私は、ルミエル……そう、ルミエル……」


 まるで自分の存在を確かめるかのように、少女――ルミエルは、小さく何度もその名を繰り返した。

 その姿に、リュークの胸に染みついた“夢の中の祈り”が、現実と重なっていく。


 そして次の瞬間、ルミエルはリュークに駆け寄り、彼の服を小さな手で掴んだ。

 その目が、傍らにいる黒き獣――シャドウファングへと向けられる。


 驚きと喜びが入り混じった輝きが、一瞬にしてその瞳に満ちた。


「シャドウファング!あなたも一緒なの!?」


 シャドウファングは、その声に即座に反応し、嬉しそうに**ワンッ!**と短く鳴き、尾を力強く振った。


 そして迷いなくルミエルへ歩み寄り、親しげに頬をペロリ……**と舐める。

 その仕草は、かつての絆を思い出したかのようだった。


 リュークは、その微笑ましい光景をただ見つめ、胸の奥に静かに湧き上がる奇妙な感覚を抑えきれなかった。


「ねえ、ここはどこ?私は、どうしてここにいるの?リューク、あなたは何か知ってるの?」


 ルミエルの声は、どこか頼りなく震えていた。

 その瞳は万華鏡のように多彩な光を宿し、**キラ……キラ……**と細やかに輝きながら、感情によって微妙に色を変えている。


 その表情には、幼さと無邪気さ、そしてリュークとシャドウファングへの絶対的な信頼が入り混じっていた。


「君は、この核に封印されていたんだ。僕たちが、君を解放したんだよ。」


 リュークが静かに説明すると、ルミエルは目を丸くし、**コクリ……**と首を傾げた。

 まるで難しい言葉を理解しようとする子供のような仕草だった。


「封印……?私が……?どうして……?私、何も思い出せない……」


 ルミエルは、不安げに自分の手を見つめ、**スッ……スッ……**とその小さな指先を何度も握りしめる。


 その問いに、リュークは言葉に詰まった。

 自分もまた、なぜルミエルがここにいて、封印されていたのかを知る術がない。


 だが、ただひとつ――彼女が自分にとって大切な存在であるという確信だけが、胸の奥で静かに熱を持っていた。


「わからない。でも、君が俺の仲間なのは……それだけは、はっきりわかる。」


 リュークが微笑むと、ルミエルの表情がぱっと明るくなった。


 彼女は嬉しそうに頷き、**トン……トン……**と軽やかに足音を立てながらリュークに駆け寄る。


「うん!私、リュークと一緒にいたい!リュークとシャドウファングと一緒に!」


 ルミエルの言葉に、場の緊張が一気に解ける。


 ガルドたちは安堵の笑みを交わし、ザックは肩をすくめながらも微笑んだ。

 シャドウファングは嬉しそうに**クゥゥ……**と喉を鳴らし、ルミエルの足元へと寄り添う。


 だがその安堵は、すぐに異変によって打ち破られた。


「これで本当に……終わったんだな。」


 リーナがほっとしたように息をつき、杖を下ろした。


 だが次の瞬間、リーナの声に呼応するかのように、部屋の壁に**ジジ……ジジジ……**という低い音が鳴り響き、古代文字が浮かび上がる。


 文字は淡く光を放ち始め、まるで何かを告げるかのように、壁一面に広がっていく。


「周囲を見て!」


 リーナの緊迫した声が響く。全員が咄嗟に身構え、壁を注視した。


「これって……封印が解けた合図か?」


 ガルドが眉をひそめ、慎重に問いかける。

 リュークは古代文字と文様が静かに輝くのを見つめ、

 どこか遠くを見透かすような目で、静かに答えた。


「いや、まだ何かがある気がする。でも今は……休もう。」


 仲間たちは互いに微笑み合い、静かにその場に腰を下ろした。


 シャドウファングもリュークの足元に寄り添い、ふぅ……と安堵の息を漏らしつつ、穏やかなまどろみに身を任せる。


 しかし、彼らの心の奥底では、新たな戦いへの予感が、燻る火種のように静かに灯っていた。


 ルミエルの出現と、古代文字の浮かび上がり――戸惑いはあったものの、リュークたちは慎重に遺跡を後にする決断を下した。


 崩れかけた石段を**ザリ……ザリ……**と慎重に踏みしめながら上り、長く続く回廊を無言のまま抜けていく。


 やがて、重苦しかった闇は晴れ、彼らの目の前には静寂に包まれた外界が広がっていた。

 空は、既に曙光によってうっすらと朱に染まり、長い戦いの終わりを優しく告げている。


「やっと……戻れたな」


 ガルドが**ガシャン……**と大剣を地面に突き立て、深く息を吐きながら空を見上げた。


「街までの道は覚えてる?」


 ザックが冗談めかして肩をすくめると、リーナは柔らかな笑みを浮かべつつ首を振った。


「これだけの戦いを経て、道に迷ったら……さすがに笑えないわね。」


 リュークは静かにルミエルの小さな手を握り、**ぎゅっ……**と優しく力を込めた。


「大丈夫。シャドウファングがいる。」


 その言葉に呼応するように、シャドウファングはフッ……と鼻を鳴らし、黄金の瞳を前方に向けて先頭に立つ。


 彼らは慎重に森を抜け、夜が明け始めた街道へと足を踏み出した。

 やがて、ぼんやりとした光の中、街の門が姿を現す。

 見張りの兵士が彼らの姿を認めると、驚きに目を見開き、思わず声を上げた。


「おい、あれはリュークたちじゃないか!?無事だったのか!」


 ギルドへ戻ると、夜明けの静寂が支配する中、受付嬢エリナが机に突っ伏して眠っていた。


 扉が**ギイ……**と軋む音と共に開くと、彼女はハッと目を覚まし、リュークたちの姿を認めて目を丸くする。


「みんな無事だったんですね!本当に……心配してたんですよ!」


 リュークは疲れた笑みを浮かべつつ、核の欠片をエリナへと差し出した。


「遺跡でこれを見つけた。闇の核の残滓だ。街を脅かしていた影の正体は、これが元凶だった。」


 エリナは欠片を慎重に受け取り、**じっと……**冷たい輝きを湛えたそれを見つめる。


「これが……。すぐにギルドマスターに報告します!」


 リュークたちはようやく奥の席に腰を落ち着けた。

 スープを口に運ぶ音が、今までの緊張を解くように静かに響く。


 互いに言葉少なに、しかし確かな安堵を共有しながら、彼らは静かに夜明けの余韻に浸っていた。


 シャドウファングが、椅子の脇にぴたりと寄り添い、リュークの膝に頭を乗せる。

 ふっ、と細く息を吐くように、安堵の仕草を見せた。


「……疲れたか?」


 リュークは小さく笑いながら、その黒く滑らかな毛並みをそっと撫でる。

 シャドウファングは気持ちよさそうに目を細め、耳を軽く伏せて応える。


 暖かい魔石ランプの光が、彼の黒い体を優しく照らし、柔らかな影をテーブルの上に映し出していた。


 リーナはその様子に思わず微笑む。


「こうしてると、本当に普通の犬みたいね」


 ザックは頬をかきながら、少しだけ口元を緩めた。


「そこがまた良いんだよ。たぶん、今は俺たちよりよっぽど落ち着いてる。」


 リュークはそのやりとりを耳にしつつ、静かに目を閉じた。

 耳に届くのは、微かなスープを啜る音と、薪の弾ける柔らかな音だけ――。

 束の間の静けさが、戦いの疲れを優しく癒してくれるようだった。


 やがて、ザックが空気を変えるように声を上げる。


「さて、今回の報酬、期待していいんだろうな?」


 リーナは小さく肩をすくめ、冗談交じりに返す。


「それはどうかしら?無事に戻ってこられたことが、何よりの報酬よ。」


 ガルドは重くも安堵に満ちた声で言い、杯をコトン、と卓上に置いてから高く掲げた。


「まあ……生きて帰れたことに、まずは乾杯だ。」


 リュークは隣にいるルミエルへと優しく視線を向ける。


「そして、新たな仲間にも。」


 ルミエルはその言葉に、照れくさそうに笑いながらも嬉しそうに頷き、そっとシャドウファングの体に寄り添う。


 シャドウファングも、それに応じるようにふん……と静かに鼻を鳴らし、ルミエルの肩に頭を寄せた。


 こうして彼らは、杯を交わしながら静かにその夜を迎えた。


 疲労と達成感が心と身体を満たし、やがて訪れる眠りがすぐそこまで来ているのを、誰もが感じていた。


 ――しかしリュークだけは、心の奥底で確信していた。

 闇が消えた今も、物語はまだ終わらない。

 新たな冒険が、すでに静かに幕を開けようとしていることを。



 次回:祝宴の余韻と、封じられた記憶

 予告:もたらされる功績の証と揺らめく過去の片鱗

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