第68話 核の破壊と影の消滅
漆黒の霧が空間を満たし、部屋全体が闇に包まれた。リュークたちは身を寄せ合いながら、目の前の黒い核を睨みつけた。
その脈動はますます強くなり、**ドクン、ドクン……!**と耳をつんざく鼓動音が壁や床を震わせるように響き渡る。
次の瞬間――黒い核が爆発するように、ビキィィン!と鋭い音と共に赤黒い閃光を撒き散らした。
その眩さの中から、ゆっくりとズズ……ッと重く浮かび上がる人影。全身を黒い靄で覆われ、輪郭すら曖昧だが、ただ紅く輝く瞳だけが、鋭く闇を切り裂くように光っていた。
「何だ、あれは……?」
ザックが息を呑む。
「ただの魔物じゃない。これは……核そのものが生み出した守護者か」
リーナが震える声で答える。
その異形は、低く、空間を圧するような声で呟いた。
「汝ら……何故、ここに来た……なぜ、抗う」
重く、耳の奥まで直接響く声。その一言が、リュークの頭に焼き付く。
(なぜ……俺は……)
一瞬、リュークの視界が揺れる。自分が誰なのか、何のためにここにいるのか――封じられた記憶の奥底が、一瞬だけノイズのようにざわめいた。
「この闇を止めに来た。お前が何者であろうと関係ない!」
リュークは短剣を握りしめ、意志を込めて一歩踏み出す。
守護者は嗤うように、より低く冷たい声で返した。
「ここは、お前たちの墓だ。……ならば、打ち倒し、核を鎮めてみせよ」
その言葉と共に、守護者が宙に黒い刃を呼び寄せた。ギギ……ギギギ……ッと金属とは異なる不気味な音を立てて、刃が空間を裂く。
空気が一変する。重力そのものが歪み、リュークたちの身体を地面へと強烈に引き寄せた。**ズズ……ッ!**と足元が沈み込む感覚。
「しまった、動きが……!」
リュークは苦しげに叫ぶ。
直後――守護者の腕が**ズバァッ!と闇を裂き、黒い刃が音もなくリュークへと飛来した。
シャドウファングがガゥッ!**と吠え、リュークを庇うように飛び出し、刃の軌道を逸らそうとする。
リュークは咄嗟に転がるように回避し、**ドガァッ!と床へ転げ込む。
その間にも、ガルドがグワァァァッ!**と咆哮を上げ、大剣を振り上げた。
だが――
「ガギィン!!」
衝突音と共に、大剣は影をすり抜け、虚しく空を切る。
守護者はまるで煙のようにその斬撃を躱し、背後へと滑るように移動する。
そして、**ギュオッ!**という音と共に、背後からガルドに鋭い爪を振り下ろした。
「ガルド!」
リーナが叫ぶと同時に、**ズバァッ!という衝撃と共に聖なる光がガルドを包み込んだ。守護者の爪撃はギリギリ……ギチッ!**と光のバリアに弾かれ、床に裂け目を残しながら霧散する。
ガルドは体勢を崩しつつもすぐに踏みとどまり、**ガンッ!**と音を立てて大剣を構え直した。
「やっぱりこいつには普通の攻撃が効かねぇ!どうする、リューク!」
リュークは歯を食いしばり、黒い核を睨みつける。
「核が力を供給しているなら、あれを断てば……!」
だがその時、守護者が再び空間にズズズ……ッと黒い刃を呼び出し、闇の裂け目を生み出した。
生き物のように蠢く影は、次の瞬間――**シュッ!と音を立てて、針のような細い闇の触手をリュークへと射出する。
「くっ……!」リュークは避けきれず、左腕にブスッ!**と深く刺さった影の針を受けた。
激しい痺れと焼けつくような痛みが走る。
「……ぐっ、腕が……!」
さらに、守護者の影刃が横薙ぎに飛び、ガルドにも襲いかかった。
彼は咄嗟に大剣で受け止めるも、**ギギギ……ッ!と刃を伝って闇が侵食し、鎧の一部がジリ……**ジリジリ……**と音を立てて鎧が腐食し始める。
「な、なんだこりゃ……!」
ガルドは驚愕しつつも、剥げ落ちた鎧の隙を晒しながら必死に踏みとどまった。
リュークは焦燥の色を隠せず、息を荒げつつポーチから強化ポーション(初級)を掴み取る。
「こんなの、悠長にしてたらジリ貧だ!」
**カシュッ!**と勢いよく栓を抜き、一気に飲み干した。
体の内側から湧き上がる力が、痺れた腕にじわりと戻ってくる感覚に変わる。
「これを飲め!少しはマシになるはずだ!」
リュークは素早く仲間たちにも手渡す。
ガルドは無言でポーションを煽り、**ゴクンッ!**と喉を鳴らした瞬間――
「おおっ……!身体が軽い!」
疲労と痛みが一気に吹き飛び、彼は再び大剣を握り直す。
ザックも迷わず飲み干し、目を見開いた。「
すげえ……風になったみたいだ!」
そのまま影の群れを縫うように駆け抜け、驚くほど速く敵を翻弄し始める。
シャドウファングも同様にポーションを口にし、闇の守護者に備えて臨戦態勢を整えた。
リュークは一瞬、皆の様子を確認しつつ、静かに目を閉じて呼吸を整える。
頭の奥、断片的な記憶に意識を集中させると、かつての知識が脳裏に蘇ってきた。
「黒き核に宿るは、虚無の力。封じるは緑の命……」
リュークははっと目を開く。
「そうか……魔石草だ!」
閃いたように叫ぶと同時に、仲間たちへ向き直った。
「あの核に魔石草を使えば、封印を弱められるかもしれない!」
「魔石草?」
ガルドが叫ぶ。
「そんなもので何ができるんだ?」
リーナがすぐさま説明を挟む。「
魔石草は、魔力の暴走を抑える力を持っているわ。古代の魔法書には『緑の命は混沌を鎮め、魔の根源に静寂をもたらす』と記されている……でも、こんな状況で使うのは危険よ。」
「危険でも、やるしかねぇ!」
ガルドは剣を構え直し、鋭く守護者を睨み据えた。
「あいつが邪魔してくるのは間違いねぇ。だったら――俺が引きつけてやる!」
リーナも静かにポーションを飲み、その瞬間、魔力の流れが驚くほどクリアに感じられた。
「これなら、もっと精度の高い魔法が使えそう……」
彼女の杖が淡く光を帯び、魔法陣が以前よりも速く、滑らかに展開される。
シャドウファングも低く唸り、リュークの背後に寄り添うように身構えた。
リュークは仲間たちを見渡し、力強く頷く。
「頼む!」
だが――その瞬間だった。
守護者が低く嗤うと同時に、闇が**グワン……グワン……と不気味な渦を描き始める。
空間が歪み、耳鳴りのようなキィィィ……**という音が脳に突き刺さる。
リュークの視界が急激に歪み、仲間たちの姿が**ユラ……ユラ……**と蜃気楼のように霞んでいく。
「幻影……!?」
リュークは頭を振り、意識を必死で繋ぎとめようとする。
しかし――守護者の声が、まるで耳元で囁くように響いた。
『無駄だ……お前に、この闇は断てぬ……ここは汝らの墓となる……』
その言葉がリュークの記憶の奥底を微かに揺らす。
一瞬、意味のない断片的な記憶が脳裏を掠め――だが、彼はすぐに打ち消した。
「負けるかよ……!」
リュークは歯を食いしばり、強く拳を握りしめる。
懐から魔石草を素早く取り出し、震える手でそれを掲げた。
「これが……最後の切り札だ!」
緊迫した空気の中、彼は即座に詠唱を開始する。
長く複雑だったはずの詠唱は、戦場の中で極限まで凝縮されていた。
「闇を裂き、光よ縛れ――影縛り!」
リュークの叫びと同時に、空間が**バチッ!バチチッ!と火花を散らす。
次の瞬間、紫色の鎖がズルズルッ……!**と音を立てながら出現し、獣のように跳ねる。
その鎖は躊躇なく守護者へと飛び掛かり、**ギギギッ……!**という圧倒的な締め付け音と共に、体に巻き付き、動きを封じた。
闇の中、ガルドの雄叫びが轟く。
「今だ、行け!」
直後、リーナの詠唱が完了し、**バシュッ!**と眩い光が闇を断ち切った。
閃光は影を消し飛ばし、一瞬、守護者の動きすら鈍らせる。
その隙を突いて、ザックが影の間隙を縫うように**ザザッ……!と疾走し、守護者の背後へ回り込む。
「ウォー!」
短く声を発しながら、ザックはズグッ!と短剣を突き立てた。闇の身体から紫黒い霧がジュゥ……**と噴き出す。
しかし、その間にも影たちは絶えず湧き出し、リュークとリーナへ襲いかかろうとしていた。
「リューク、後ろだ!」
「任せろ!」
ガルドとザックはすかさず影の群れへ向き直り、リュークとリーナを守る形で**ドガァッ!と剣を振り抜き、影を薙ぎ払った。
ガルドは重い剣撃で影をゴシャッ!と砕き、ザックは素早く罠を踏ませてバチバチッ!**と電撃で牽制する。
その隙に、リュークは全力で核へと駆け寄る。
守護者が鎖を強引に**ギギギ……ッ!**と振りほどき、黒い刃を振り下ろすが――
「させるかよ!」
ガルドが咆哮しながら**ガキィィン!と大剣で受け止めた。
火花が散り、腕がミシッ……**と悲鳴を上げるほどの衝撃が伝わる。
シャドウファングも**ガウッ!**と吠え、横から飛び掛かり守護者の側面へ食らいつく。
守護者は体勢を崩し、刃が止まる。
「今しかない!」
リュークは魔石草を掴み、迷いなく核へと**グッ……!と押し付ける。
緑色の光がジュワァァ……**と広がり、黒い輝きが徐々に弱まっていく。
「封印を鎮めよ!《ディスペル・ヴァイン》!」
リーナの詠唱が重なり、魔石草はさらに輝きを増す。蔓状の光が核に絡みつき、**ギシギシ……**と音を立てて締め上げるように侵食していく。
「今だ!」
ザックが素早く踏み込み、短剣で**ガシュッ!と核を貫いた。
核はビキビキッ……!と激しく脈動し、表面に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
その亀裂はミシミシ……**と拡大し、核そのものが崩壊寸前であることを告げていた。
守護者は核の異変に気づき、初めて明確な動揺を見せる。
紅い瞳が揺らぎ、核へと焦ったように視線を向けた。
その瞬間――
ガルドが叫びながら全身の魔力を解放する。
「消えろォォォォォ!!」
彼の奥義は**ズガァァァン!!と爆音を響かせ、空間ごと闇を薙ぎ払った。
衝撃波は守護者を直撃し、影の身体をバギッ!ゴギャッ!ズシャアァッ!**と次々に砕き散らす。
守護者は断末魔を上げる暇もなく、存在そのものが**ズゥゥ……ン……**と虚無へと消滅していった。
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