第63話 封印の扉と“深淵の核”
リュークは再び古文書の写しを取り出し、そこに書かれた“深淵の魔核”という言葉に目を落とした。
「影月の遺跡には、まだ何か隠されているはずだ……」
「行こう、みんな。影の正体を突き止めるんだ」
リュークたちは影月の遺跡へと足を踏み入れた。
影月の遺跡は、深い森の奥にひっそりと姿を隠していた。
巨石でできた門は長い年月の中で苔に覆われ、ひび割れた表面には古びた文様が闇の中にぼんやりと浮かび上がっている。
時折、風が門を通り抜けるたびに**ズズッ……**と重く鈍い音が鳴り、静寂を一層際立たせた。
「これが……影月の遺跡か」
リュークは息を呑み、短剣を握る手に自然と力がこもる。
ただならぬ気配に、仲間たちも無言で周囲を警戒した。
「……静かすぎるな」
ガルドが低く呟き、剣の柄をギュッと握り直した。
金属のこすれる音が、張り詰めた空気の中で微かに響く。
リーナは遺跡の入口に刻まれた文字へと視線を向けた。
指でなぞりながら、慎重に読み取る。
「これ……古代文字ね。確か『影を封じし光の守り手』と書かれているわ」
彼女の声は小さく、どこか緊張を含んでいた。
ザックは短剣をくるりと回し、即座に前方へと意識を集中させる。
「罠があってもおかしくない場所だな。俺が先行して確認してくる」
その言葉に、ガルドは短く頷く。
「頼む。慎重にな」
ザックは一言も返さず、音もなく影の中へと溶け込んだ。
草を踏む音すら響かず、彼の気配は完全に霧散する。まるで空間そのものが飲み込んだかのようだった。
残されたリュークたちは、入口の前でじっと息を潜める。
沈黙だけが支配するその場に、リュークは低く呼びかけた。
「シャドウファング、どうだ?」
黒狼は鼻をひくつかせた後、突然、耳を伏せて**グルル……**と低く唸った。
明らかに警戒の色を浮かべている。
「……何か、いるわね」
リーナが不安そうに呟き、リュークは短剣をわずかに構え直した。
しばらくして、静寂を破るようにザックが戻ってきた。
彼は足音すら立てずに姿を現し、すぐに報告する。
「罠は見当たらない。ただ……奥に続く階段があった。下から冷たい風が吹いてきていた。……何かがいるかもしれない」
その言葉に、場の緊張が一気に高まる。
リュークは仲間たちを見渡し、短く言い放った。
「……了解だ。行こう」
短剣を握る手に再び力を込め、リュークは一歩を踏み出した。
仲間たちも無言でそれに続く。重い足取りが、影と静寂に包まれた遺跡の入口を越えていく。
◆遺跡内部
内部は想像以上に冷たく、湿った空気が漂っていた。
足を踏み出すたび、石畳の上で靴がズズ……ッと重く擦れる音が響く。
壁には苔むした石碑が整然と並び、天井からはツタが**パキ…パキ…**と時折音を立てて揺れている。
ガルドが松明を掲げると、揺らぐ火が長く続く石畳の道をぼんやりと照らし出した。
「気をつけろ。……何かの気配がする」
リュークは低く、鋭く仲間たちに告げた。
その声に、全員が自然と武器を構える。
進むたびに、空気はさらに重さを増していく。
リーナは壁の古代文字に目を凝らし、慎重に読み上げた。
「『影を封じる光の鎖、深淵の核を貫きし時、闇は再び眠りにつく』……これは、おそらく封印に関する記述ね」
リーナの声が石壁に反響し、妙に耳に残る。
リュークは短剣を少し上げ、呟いた。
「深淵の核……影の正体を暴く鍵になるかもしれないな」
その時だった。
突然、シャドウファングがガルルッ!と鋭く吠えた。
その声は遺跡内にビリビリッと震えるように響き渡る。
「来るぞ!」
ガルドが即座に叫び、剣を構えた。
全員が緊張に包まれ、身構える。だが――周囲には何も現れない。
ただ、奥から吹き抜ける風だけが**ヒュゥゥ……**と冷たく彼らを撫でていく。
耳を澄ませば、どこかで**ポタ……ポタ……**と水滴が落ちる音が聞こえた。
不気味な沈黙が続く中、リュークたちは足音を抑えながら、さらに奥へと進む。
やがて、天井に穿たれた穴から月明かりが差し込む場所へ辿り着いた。
淡い光に照らされた壁の影が、**ユラ……ユラ……**と不気味に揺れる。
「……何かいるな。気をつけろ」
ガルドが低く声を潜めた。
リュークは短剣を握り直し、シャドウファングもその隣で身を低くする。
黒狼の耳はピンと張り詰め、いつでも飛びかかれるように準備を整えていた。
壁の古代文字は月明かりに照らされ、まるで生きているかのように浮かび上がる。
足元の石畳の隙間からは、冷たい霧が**モワァ……**と立ち上り、足首を包む。
そして――どこからともなく聞こえる低いうめき声が、背筋を冷たく撫でた。
「この感じ……間違いない。何かが、いる」
リュークは低く呟き、仲間たちも固唾を飲んで周囲を警戒した。
「……何かが近づいてきている」
リーナが震える声で呟いた瞬間、闇の奥から**ズズッ……ズズズ……**と何かが這うような不気味な音が響いた。
リーナは即座に手をかざし、魔力を集中させる。
「ライトフレア!」
鋭く放たれた詠唱と共に、青白い閃光が遺跡の闇を切り裂く。
その光が奥の空間を照らし出した瞬間――壁一面に張り付いていた黒い影が**ビク……ビクビク……**と蠢き出した。
やがて、影の中から腐食した鎧に包まれたアンデッドの兵士たちが姿を現す。
空洞の眼窩には青白い光が灯り、錆びた剣を**ギギ……ギリリ……**と不気味な音を立てて引きずりながら、じりじりと迫ってきた。
「アンデッドか……!」
リュークは素早く指示を飛ばす。
「シャドウファング、側面から牽制しろ!」
黒狼は低く唸り、地を蹴ってドスッ、ドスッと重い足音を残しながら敵の側面へと回り込んだ。
その動きに合わせ、ガルドは剣を構え、リーナは即座に詠唱に入る。
ザックは影に溶けるように身を低くし、素早く敵の背後へと忍び寄った。
「くそっ、こんなにいるとはな!」
ガルドが叫び、渾身の力で剣を振るった。
鋼の刃がアンデッドの首元を捉え、**ガギッ!という鈍い音と共に鎧ごと叩き斬る。
しかし、アンデッドは倒れ際にビクッ……ビクビク……**と痙攣し、断末魔の呻きと共に崩れ落ちた。
リュークも短剣を構え、正面から迫る敵の隙を冷静に見極める。
一瞬の間に踏み込み、鋭く短剣を突き立てた。
グシャッ!
黒い液体が飛び散り、アンデッドの動きが鈍る。
リュークは息を荒くしながら、周囲を確認した。
「数が多い……!」
焦燥を隠しきれない声に、すかさずガルドが判断を下す。
「無理に戦うな!先に進むぞ!」
「了解!」
「わかった!」
仲間たちは即座に応じ、アンデッドを蹴散らしつつ奥へと駆け出す。
シャドウファングが敵の足元を掻き乱し、リーナが補助魔法を放ちながら道を切り開く。
背後では、倒れたアンデッドたちが**ググ……ガアア……**とうめき声を上げながら、再び立ち上がろうとしていた。
その不気味な気配を振り切るように、リュークたちは更なる闇の奥へと踏み込んでいった。
リュークたちは息を潜め、慎重に遺跡の奥へと足を進めた。
壁に刻まれた古代文字は、松明の揺らめく炎に合わせて**ユラ……ユラ……**と影を作り、不気味に踊っている。
リーナは低く呟きながら、慎重に文字を読み解いていた。
「『影を封じる光の鎖、深淵の核を貫きし時、闇は再び眠りにつく』……やっぱり、この遺跡には何かが封じられていたのね」
彼女の声は緊張のせいか、わずかに震えていた。
さらに読み進めたリーナは、難しい顔をして首を傾げる。
「う……一部は判読不能ね。意味があいまいすぎるわ」
「深淵の核か……黒い影の正体に関係がありそうだな」
リュークは短剣を握り直し、警戒をさらに強めた。
天井から垂れ下がるツタが**パキ……パサ……**と微かな音を立て、空気を不穏に震わせる。
ふと足元に目をやったリュークは、石畳に刻まれた奇妙な跡に気づく。
そこには、何かが引きずられたような痕が**ズズズ……**と続いていた。
「おい、見ろ」
ザックがしゃがみ込み、床の痕跡を指でなぞる。
指先が**ゴリ……ゴリ……**と石畳の凹みに引っかかる音が響いた。
「これは……爪痕か?それに、この埃の薄さ。つい最近、何かが通った痕だな」
言葉を口にするザックの顔にも、緊張の色が濃く浮かぶ。
その時、シャドウファングが低く唸り、リュークの隣へと寄り添った。
黒狼の耳はピンと張り、牙をわずかに剥き出している。
「……来るぞ」
ガルドが剣を抜き、**シュッ……ギィ……**と金属音を響かせた。
リーナも杖を強く握り、魔力の流れを整えるように息を吐いた。
リュークが息を詰め、全員が一瞬静止した――その時。
奥の闇が**モワ……モワ……**と揺らぎ、次の瞬間、**カツン……カツン……**という硬質な音が響き渡った。
それはまるで金属が石畳を叩くような、重く冷たい音だった。
「足音……?」
リュークの声も思わず低くなる。
松明の光が届かない闇の奥から、複数の赤い光点がゆらりと浮かび上がった。
「なんだ、あれ……」
リーナが恐怖を抑えきれず、震える声で呟く。
闇から現れたのは、
次回:闇の回廊と不死の軍勢
予告:大量のアンデッド、リュークの成長が今ここに
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