第59話 闇の噂と骨董屋の地図
「次は……あの影の正体を突き止める番だ」
リュークは短剣を腰に差し、シャドウファングと共に街方を見据えた。
彼の冒険は、まだ始まったばかりだった。
リュークはシャドウファングと共にギルドへ足を運んだ。
夕暮れに染まる街では、人々の声がどこか遠く、柔らかく響いていた。
ギルドの扉を押し開けると、活気に満ちた冒険者たちのざわめきが出迎えた。
リュークは迷わずカウンターへ向かい、エリナに声をかける。
「エリナ、例の黒い影――何か情報は掴めたか?」
帳簿から顔を上げたエリナは、少し険しい表情で頷いた。
「実は……旧市街だけじゃなく、最近は街の外れでも目撃情報が増えているの。
しかも……」
そこで言葉を区切るエリナ。
その沈んだ声に、リュークの胸がざわつく。
「……影を見た後、行方不明になる人が出始めたのよ」
「行方不明……?」
リュークは思わず顔をしかめた。
「原因は? 共通点はないのか」
エリナは少し戸惑いながらも続ける。
「それが……今のところ、はっきりしたことはわかっていないの。」
「ただ……影を見た人は皆、ひどく体調を崩していたみたい。まるで魔力を吸い取られたような……」
その言葉に、リュークの脳裏に地下水道での戦いが蘇る。
あの時も、あの影は空気すら重く変えて、体の奥底から力を奪おうとしてきた。
「……他に手がかりは?」
低く問うリュークに、エリナはふと思い出したように言葉を紡いだ。
「そういえば……最近、街の北にある『古代遺跡』が、不気味な光を放っているって話を聞いたわ。もしかすると、関係があるのかもしれない」
「古代遺跡……」
その単語を口にした瞬間、リュークの背筋に冷たいものが走る。
思い返すのは、旅の途中で耳にした噂――
(……西の高地に“封印の石碑”と呼ばれる場所がある。記憶やスキルの開放に関わる、特別な場所――だったか)
影、遺跡、そして石碑。
バラバラだった情報が、頭の中で静かに繋がり始めていく。
「……ありがとう、エリナ」
リュークは深く礼を述べ、決意を込めた目でギルドを後にした。
シャドウファングが横に寄り添い、鼻を鳴らす。
その仕草に、リュークは小さく頷いた。
「行こう、シャドウファング。次の答えは……あの遺跡にあるはずだ」
夜の帳が下りる頃、リュークは街を見渡しながら静かに誓った。
「今度こそ、あの影の正体を暴いてやる。」
シャドウファングが低く唸り、彼の決意に応えるかのように闇の中に溶け込んでいった。
リュークは短剣を握りしめ、次なる冒険へと踏み出した。
リュークはギルドからの帰り道、夕暮れに染まるベルハイムの街並みを眺めながら歩いていた。
街の活気に混じって、どこか不穏な空気を感じる。
それは、黒い影の噂が広がり始めてからというもの、日ごとに強まっているように思えた。
「シャドウファング、行くぞ」
黒狼は鼻を鳴らし、リュークの横を歩く。
その頼もしい背に軽く手を添えながら、リュークは街の裏通りへと足を向けた。
◆闇の噂を追って
まず訪れたのは、旧市街にある酒場「朽ちた斧」だった。
この店は、冒険者だけでなく、街の裏事情に通じた者たちが集まる場所だ。
扉を押し開けると、酒と煙草の混じった空気が鼻をついた。
「おや、見慣れない顔だな」
カウンターの奥でグラスを拭いていた壮年の店主が、リュークを一瞥する。
リュークは静かにカウンターへ腰掛けた。
「黒い影の話を聞きたくてな」
その一言に、周囲の客たちが一瞬だけ動きを止めた。
そして、興味なさげにまた酒に戻る。
店主はリュークの顔をじっと見つめ、低く呟いた。
「あんた、命知らずだねぇ。まあいい、酒の一杯くらい奢ってくれりゃ話してやるよ」
リュークは銀貨小を一枚置くと、無言で差し出されたエールを口に運んだ。
ほんのり苦みの残る味わいが、喉を通るたびに疲れた身体を少しだけほぐしてくれる。
店主はグラスを拭きながら、どこか重い口調で話し始めた。
「黒い影の噂が立ち始めたのは、ここ数週間だ。最初に見たのは、街外れの爺さんらしい。」
「夜更けに外を歩いていたら、路地裏を――すうっと、黒い霧みてえなのが通り抜けたってな」
「……黒い霧?」
リュークは思わず眉をひそめた。
店主は頷きつつ、エールの泡をじっと見つめる。
「そうさ。ただの霧じゃねえ、まるで生き物みたいに動いてたらしい。」
「それからだ、家畜がいなくなったり、飼い犬が怯えて逃げ出したりって話が、あちこちで出るようになったのは」
(黒い霧……まさか、地下水道で遭遇したあの影と同じ……?)
リュークの脳裏に、あの時の不気味な存在感が蘇る。
「それで、誰か正体を見た奴は?」
そう問いかけると、店主は首を振り、苦笑した。
「正体までは分からねえよ。けど、古道具屋の親父が妙なことを言ってた。」
「『影が立ち寄ったあと、急に空気が冷たくなった』ってな。
……もし興味があるなら、そいつに話を聞いてみるといい」
リュークは静かに礼を述べ、席を立った。
酒場を出ると、シャドウファングが当然のように隣へ寄り添う。
「行くぞ」
リュークは短く声をかけると、夜の街へと歩を進めた。
闇の中、冷たい風がどこか不穏に吹き抜ける。
新たな影の気配が、静かに彼の背中を押していた。
◆古道具屋の証言
次に向かったのは、街の片隅にひっそりと佇む古道具屋――《月夜の骨董》だった。
扉を開けると、カラン、と控えめな鈴の音が店内に響き渡る。
中は薄暗く、棚には使い込まれたランタン、錆びついた短剣、そして見慣れない魔道具が無造作に並んでいた。
「いらっしゃい。珍しいお客さんだねぇ」
奥から現れたのは小柄な老人だった。
細めた目がリュークを静かに値踏みするように見つめてくる。
リュークは警戒しつつ、単刀直入に切り出した。
「……黒い影の噂を聞いて来た。何か知っているか?」
その言葉に、老人の瞳が一瞬だけ鋭く光る。
だが、すぐに口元を歪め、不気味な笑みを浮かべた。
「ほう……あんたも、あれを追ってる口か。確かに見たとも。夜中にね、裏手の路地を這うようにして動く黒い影を――。」
「冷たい風が吹いた直後、窓の外を“それ”が横切ったんだ。まるで、生きている闇だったよ」
「……生きている闇、か」
リュークは思わず息を呑む。
だが老人は肩をすくめ、少し声を潜めて続けた。
「昔聞いた話だがね。このベルハイムの地下には古い遺跡が眠っているという。
影はそこから湧き出している――そんな言い伝えがあるんだよ」
老人はそう言いながら、埃まみれの古書を店の奥から持ち出してきた。
「これは?」
リュークは身を乗り出した。
「古い地図さ。この街ができるより前の時代、ここには儀式場があったらしい。
もしかしたら、そこが影の出どころかもしれない」
迷うことなくリュークは銅貨を数枚取り出し、地図を購入した。
地図を手にした彼は、外へ出ると夜の帳が降りる街を見上げた。
地図に記されていた場所――《影月の遺跡》。
リュークはそれを睨みつけるように見つめた。
「……やっぱり、遺跡が関係しているのか」
シャドウファングが彼の足元で静かに寄り添う。
リュークはその頭を撫で、息を整えた。
「よし、次は遺跡を調べる。――黒い影の正体を突き止めるために」
決意のこもった低い声とともに、リュークは夜の街を静かに歩き出した。
次回:封印の記録と影月の真実
予告:ギルド依頼と仲間への呼びかけ
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