第57話 ヒールフラワーの輝きと生還
森の奥は、さっきまでとは打って変わって静寂に包まれていた。
風が葉を揺らし、小川のせせらぎが微かに聞こえる。
リュークは慎重に歩を進め、目を凝らして薬草を探す。
「……あれは?」
木の根元に、薄紅色の花が揺れていた。
「また、ヒールフラワーだ!」
リュークはしゃがみ込み、花を丁寧に摘み取った。
根を傷つけないように慎重に扱いながら、鑑定スキルを使う。
【ヒールフラワー】
特徴:淡い紅色の花弁を持つ薬草。
効能:体力回復、止血効果、炎症抑制。
ポーションの主成分に適している。
「これで回復ポーションがもっと作れる……!」
安堵の息を漏らしたその時、シャドウファングが低く唸った。
リュークは即座に身を低くし、周囲を警戒する。
「何か来るのか?」
黒狼の視線の先、茂みが揺れる。
次の瞬間、飛び出してきたのは一匹のスティングウルフだった。
「またか……!」
リュークは短剣を構え、即座に指示を出す。
「シャドウファング、左から回り込め!」
シャドウファングが森の影を滑るように走る。
その動きに気を取られたスティングウルフに、リュークはポーチから煙玉を取り出し、地面に叩きつけた。
パシュッ!
白煙が広がり、視界が遮られる。
その間にリュークは素早く木の陰に隠れた。
煙の中でウルフの影が揺らめく。
「今だ!」
煙が晴れた瞬間、リュークは短剣を振りかざし、ウルフの横腹に突き立てた。
ウルフは苦痛の遠吠えを上げるが、まだ倒れない。
リュークは左手に魔力を込め、詠唱を始めた。
「ファイアボルト!」
赤い光が指先に灯り、炎の矢がウルフの胴体を貫く。
ウルフは断末魔の叫びを上げ、その場に倒れ込んだ。
「はぁ……なんとか倒せたな」
息を整えながら立ち上がり、ウルフの亡骸に手をかざして再び鑑定を使う。
【スティングウルフ】
素材:獣の毛皮、狼の牙
「よし、これも使えるな」
素材を回収したリュークは、ポーチの中の薬草を確認する。
レッドグラス、ヒールフラワー、そしてムーングラス。
これだけあれば、回復ポーションが作れる。
「街に戻ったら、調合に取り掛かろう」
リュークはシャドウファングに微笑みかけた。
黒狼は満足そうに鼻を鳴らし、リュークの隣を歩き始める。
(俺には、まだやるべきことがある)
リュークは森を後にした。
手には新たな素材と、少しだけ自信を握りしめて——。
リュークとシャドウファングは森を抜け、街へと戻ってきた。
夕暮れのベルハイムは活気に満ち、市場からは行商人の掛け声が響いている。
リュークはポーチの中の薬草や魔物素材を確認しながら、ギルドへと足を運んだ。
◆ギルドでの報告
ギルドの扉を開けると、賑やかな喧騒が迎えてくれた。
リュークは真っ直ぐカウンターへ向かい、エリナに声をかける。
「エリナ、戻ったよ」
エリナは顔を上げ、リュークを見るなり微笑んだ。
「お帰りなさい、リューク。今日は何か用?」
リュークは腰のポーチを開き、採取した魔物の素材をカウンターに並べる。
スティングウルフの毛皮と牙が光に照らされ、エリナの目がわずかに見開かれた。
「これは…スティングウルフの素材ね。質も悪くないわ。
ちょっと待って、確認するから」
エリナは手際よく鑑定道具を使い、素材を調べていく。
「うん、どちらも良質ね。毛皮は防具素材に適しているし、牙は武器強化にも使える。
これならギルドで買い取れるわよ」
「助かる。頼むよ」
エリナは素材の買い取り額を計算し、銀貨小10枚をリュークに手渡した。
「それと…前にお願いしたポーションの販売、どうなった?」
リュークが尋ねると、エリナは棚から帳簿を取り出して確認する。
「ああ、魔力回復ポーションね。あれ、驚くほど評判が良かったのよ。市販品よりも効果が高いって噂になって、すぐに売り切れたわ」
「本当か?」
「ええ。これが売上よ」
エリナは銀貨大8枚と銀貨小数枚をリュークの手に渡した。
「すごいな…まさかこんなに売れるとは」
「それだけ質が良かったってことよ。次の入荷はまだかって聞かれてるから、また作ったら教えてね」
少しだけ間を置いて、エリナは帳簿を見つめながら、ぽつりと漏らした。
「……昔、兄が薬師をしててね。子どもの頃は、よく材料を一緒に運んでたの。売上の記録を見ると、あの頃を少し思い出すのよ」
リュークは驚いたように視線を向けたが、エリナは照れたように笑った。
「受付って、地味に思われがちだけど……ちゃんと繋がってるって、最近やっと思えるようになったの」
リュークは頷き、ポーション作りの手応えを感じた。
「ありがとう、エリナ。また持ってくるよ」
シャドウファングが鼻を鳴らし、リュークの足元に寄り添う。
「それじゃ、またな」
リュークはギルドを後にした。
新たな素材を手に入れ、ポーション作りの次の段階に進むことを心に決めながら、夜の街を静かに歩き始めた。
リュークはギルドを後にし、シャドウファングと共に宿へ戻った。
ポーチには採取したレッドグラス、ヒールフラワー、そしてムーングラスが収められている。
部屋に戻ると、彼は机の上に採取した薬草を丁寧に並べた。
すでに市場で購入していたフラスコや濾過器、鉄鍋を用意し、作業の準備に取り掛かる。
「よし、始めるか」
まずはレッドグラスから手をつける。
赤い葉脈が走る細長い葉を一枚ずつ摘み取り、専用の小刀で細かく刻む。
手元に漂う微かな薬草の香りが、彼の集中を高めていった。
「次はヒールフラワーだな」
青白い花弁を慎重に取り外し、すり鉢に入れてすり潰す。
すると、花弁から染み出した液体が淡い光を放ち始めた。
「なるほど…これが回復効果の源か」
今度は鍋に水を張り、火にかける。
沸騰する直前に刻んだレッドグラスを投入すると、鍋の中がじんわりと赤く染まっていく。
リュークは火加減に注意しながら、木の匙で優しくかき混ぜた。
「煮詰めすぎるとダメだったな…」
頃合いを見計らって、すり潰したヒールフラワーを加える。
ふわりと甘い香りが漂い、湯気が部屋を満たしていった。
液体が淡い紅色に染まると、リュークはムーングラスをひとつまみ加える。
「これで仕上げだ」
煮詰まった液体を濾過器に通し、フラスコへ注ぎ込む。
透明な瓶の中で、赤みがかった液体が淡く光っていた。
「これで…完成か?」
リュークは手のひらにフラスコを乗せ、鑑定スキルを発動する。
【回復ポーション(初級)】
効果:体力を回復し、軽度の傷を癒す。
純度:78%。
「やった…成功だ!」
安堵の息を漏らし、机の上に並べられたポーションを見渡す。
試行錯誤の末に作り上げた一本一本が、彼に確かな手応えを感じさせた。
魔力回復ポーションも作って、明日、ギルドに持っていこう
「やったな、シャドウファング!」
黒狼は鼻を鳴らし、リュークの隣に座り込む。
机の上には十数本のポーションが並び、そのすべてに彼の努力が詰まっていた。
シャドウファングが満足そうに鼻を鳴らす。
リュークは彼の頭を撫で、満ち足りた気持ちで静かに夜を迎えた。
夜が更けるころ、リュークは満足感に包まれながら眠りについた。
翌朝、彼は完成したポーションを革袋に詰め、ギルドへと向かった。
ギルドに着くと、エリナがカウンターの奥で作業をしていた。
リュークは真っ直ぐ彼女の元へ向かう。
「おはよう、リューク。今日は何の用?」
リュークは革袋をカウンターに置き、ポーションを取り出して並べた。
エリナの目が驚きに見開かれる。
「これ、全部リュークが作ったの?」
「ああ。市場で材料を手に入れて試してみたんだ。魔力回復に加えて、体力回復ポーションも作ってみた。効果も確認済みだよ」
エリナは試しに一本を手に取り、鑑定道具で確認する。
「すごい…これ、市販品よりずっと質がいいわ!これもギルドで預かって販売するから、売り上げの二割を手数料として引かせてもらうけど、それでいい?」
「もちろん。よろしく頼むよ」
リュークが頷くと、エリナはポーションを丁寧に棚へと運んだ。
その表情には感心の色が浮かんでいる。
「助かるよ、エリナ」
「また作ったら持ってきてね。リュークのポーション、人気が出そうだもの」
「もちろん。またよろしく頼む」
リュークはギルドを後にした。
彼は次の行動を考える。
(ポーション作りで安定した収入が得られそうだ。
これで装備を整えたり、情報を集める余裕ができる…それに、あの影のことも調べなきゃな)
シャドウファングが鼻を鳴らし、リュークを見上げる。
なんだか、ポーション作りが楽しくなって来た。
「行くぞ、シャドウファング。次はもっといいポーションを作ってやる」
次回:修練の日々と強敵ナイトベア
予告:毎日が挑戦。強さは継続の先にある。
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