表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/123

第50話 森の追跡戦──残党を追え

 夜の森は、静寂の中に不穏な気配を孕んでいた。

 月明かりが木々の隙間から差し込み、地面に揺れる影を落とす。


「足元に気をつけろ。奴らはこの辺りに潜んでいるはずだ。」


 ガルドが低い声で囁いた。剣を片手に、慎重に前を進む。


 リュークは短剣を握りしめ、周囲の気配を探る。森の奥からは夜鳴き鳥の声が響くばかりで、人の気配は感じられない。


「シャドウファング、先行して探ってくれ。」

「グルル…」


 シャドウファングは静かに頷き、影のように草むらに溶け込んだ。


 リーナがそっと呪文を唱え、周囲を照らす淡い光を生み出した。森の闇がわずかに後退し、木々の隙間からかすかな道が見える。


「このまま進むのか?」ザックが低い声で問いかける。

「ああ。だが慎重にな。」


 ガルドが答えたその時、シャドウファングが微かなうなり声を上げて戻ってきた。その鼻先は湿っており、警戒の色が滲んでいる。


「見つけたみたいね。」リーナが囁く。

「足音を抑えろ。何かが近い」


 ザックが低く囁き、気配を消して前方の闇に紛れた。まるで空気に溶け込むような動きに、リュークも思わず息を潜める。短剣を静かに構え、草の擦れる音さえ聞き逃すまいと周囲を見渡す。


 ガルドは剣を肩から外し、重さを感じさせない滑らかな動きで腰に構える。


 リーナは口を閉ざし、掌に魔力の静かな流れを灯していた。


 ──そのとき。

 茂みの向こうで、かすかに笑い声と靴音が混ざる。


「……見張りか」


 リュークが唇だけを動かして呟いた。


「二人だな。間を詰めれば気づかれる前にいける」


 ガルドが声を殺して言い、リュークはうなずく。指を二本立てて、シャドウファングに目線を送った。


「回り込め。合図で……一気に」

「グルル……」


 シャドウファングは尾を一度だけ揺らし、濃い夜気に溶け込むように姿を消した。

 茂みの向こうで、盗賊二人が松明を掲げながらだらけた様子で話している。


「……さっさと交代来ねぇかな」

「夜勤はゴメンだぜ。ったく、最近じゃ冒険者のガキにまでやられて……」


 油断していた。それが命取りだった。


「ザック、左を」

「了解」


 ザックは地を這うような足取りで忍び寄り、手にした短剣の刃先を伏せた。反対側、ガルドも気配を押し殺し、獣のような歩法で接近する。


 ——合図。

 リュークが指を鳴らすと同時に、シャドウファングが飛び出した。


「……グルルァッ!!」


 一瞬にして距離を詰め、盗賊の一人に飛びかかる。呻き声が漏れる前に、牙が喉元を塞いだ。


「なっ――がっ……!」


 もう一人の盗賊が振り返る暇もなく、ザックの短剣がその首筋に深く突き立った。動揺で声を上げようとするも、刃が喉を裂き、そのまま崩れ落ちる。


 ガルドも背後から覆いかぶさるように押さえ、無言で仕留めていた。


 倒れた盗賊たちの死体を影へと引きずり、リュークたちは再び気配を断つように奥へ進む。


 草木が静かに揺れ、風が止んだかのような沈黙の中、次の気配を探りながら――。


 リュークはシャドウファングの視線を追い、低く身を屈めた。木々の隙間から、ちらちらと揺れる灯りが見える。焚き火の炎が闇を切り裂き、数人の影を浮かび上がらせていた。


「……いたな。」ガルドが剣を握り直す。

「奴らの人数は?」リュークが問いかける。


「見たところ五人ほどだが、周囲にも潜んでいるかもしれん。」ザックが慎重に答えた。

「どうする?」リーナが緊張した面持ちで尋ねる。

「各自持ち場について、不意打ちを仕掛けよう。」


 ガルドが低く指示を出す。その声に、森の静けさが一層際立った。


「リューク、お前はシャドウファングと一緒に背後から回り込め。」

「わかった。」


 リュークはシャドウファングの背を撫で、そっと合図を送る。漆黒の獣は静かに頷くように身を低くし、リュークと共に闇に溶け込んだ。


 草むらを慎重にかき分けながら、リュークは体中の神経を研ぎ澄ます。盗賊たちは焚き火を囲み、酒瓶を回しながら談笑していた。その間合いに気を取られている今こそ、好機だ。


(あと数歩で背後を取れる……)

 リュークはポーチから煙玉を取り出した。仲間が仕掛けたときに投げれば、混乱を誘えるはずだ。手汗で滑りそうになる指を拭い、さらに進む。


 焚き火の灯りが彼の横顔をかすめた瞬間——


「何だ?」


 盗賊の一人が立ち上がり、周囲を警戒するように目を光らせた。


 リュークは息を呑み、身を低くする――だがその瞬間。


 パキッ。


 背後の枯れ枝を踏み折る、微かな音が静寂を裂いた。


「誰かいるぞ!」


 盗賊の叫びが闇を破る。


「今だ!」


 ガルドの号令が響くと同時に、リュークは反射的に煙玉を地面に叩きつけた。


 ボンッ――!


 瞬く間に白煙があたり一帯を覆い尽くし、盗賊たちは咳き込み混乱する。


 その隙を逃さず、ザックが影のように飛び出し、短剣を盗賊の首筋に突き立てた。


 ズバッ――


 血飛沫が闇夜に散り、一人が音もなく崩れ落ちる。


 リュークも迷いなく駆け出し、懐から投げナイフを抜く。

 狙いすました一撃が敵の足元を捉えた。


「グギャッ!」


 膝をつく盗賊。だが、他の盗賊がすかさず剣を振り上げる。


「くそっ……!」


 間髪入れず、リュークは爆裂玉を盗賊の足元へ放った。


 ドン――!


 小さな爆発が起こり、敵はよろめく。

 リュークは一気に距離を詰め、短剣を振り下ろす。


 だが、その刃は盗賊の剣に弾かれ、バランスを崩してしまった。


 ――絶体絶命。


 その瞬間だった。


「グルルァァァッ!」


 シャドウファングが飛び出し、咄嗟に盗賊の脇腹に食らいつく。


 ガブリ――!


 肉を裂く音と共に、盗賊は悲鳴を上げ、地面に叩き伏せられた。


「っ……!」


 リュークはすかさず体勢を立て直し、短剣を敵の胸元へと突き立てる。

 敵の呻きが消える。


 戦いの終わりを告げるように、静寂が戻った。


「はぁ、はぁ……」


 荒い息を吐きながら立ち尽くすリューク。


 その隣には、血に濡れた牙を光らせるシャドウファングが、まるで誇らしげに佇んでいた。

 後方では、ガルドが剣を振り抜き、最後の盗賊を打ち倒している。


「リューク、大丈夫か!?」

「……何とか、な」


 肩で息をしつつも、リュークは震える手で短剣を握り直す。

 その手に伝わるシャドウファングの温もりが、今の彼を支えていた。


「よくやった。だが、まだ気を抜くな」


 ガルドの言葉に、リュークは静かに頷く。

 胸の内では、戦いの中で得た手応えと確かな自信が、静かに芽吹いていた。


(――これが、今の俺たちだ)

 リュークは仲間たちと共に次なる一歩を踏み出すべく、静かに短剣を見つめた。


 次回:罠と激戦──牙を剥く盗賊の本拠

 予告:勝利の代償は静寂の中に。だが終わりはまだ遠い。

読んでいただき、本当にありがとうございます。

皆さまからのご感想や応援が、何よりの励みになっています。


もしよろしければ、「ブクマ」、「評価」や「感想」など、お気軽に残していただけると嬉しいです。


今後の執筆の大きな支えになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ