第45話 再潜入──地下水道に蠢く影
地下水道の入り口に立ち、リュークは息を整えた。背後には、ガルド、リーナ、ザック、そしてシャドウファングが静かに待機している。
「空気が重いな……」
ガルドが剣を握りしめ、辺りを見回す。リーナは杖を構え、魔力を練り始めていた。ザックは黙ったまま、闇に溶け込むように歩を進める。
「行くぞ、シャドウファング。みんな、警戒してくれ」
「グルルッ!」
リュークの合図で、一行は静かに地下水道へ足を踏み入れた。
地下水道に入るとリュークは足元の水面を見た。波紋が揺らめき、不規則に広がっていく。
「……何か、おかしくないか?」
「確かに。水の流れが不自然だな」
ガルドが剣を握り直す。
リーナは壁に残る黒ずんだ爪痕に目を留め、眉をひそめた。
「こんな傷、普通の魔物がつけたものじゃない……」
じっとりとした空気が全身にまとわりつき、リュークの背筋を冷たいものが走った。
◆スライムとの遭遇
地下水道の空気は淀み、湿った悪臭が鼻を突く。足元の水面が静かに波打ち、何かが蠢く音が反響していた。
「何かいるぞ……!」
ガルドが剣を構え、前方を指差す。リュークが目を凝らすと、ぬらりと光る青黒い影が水面に広がり、ゆっくりと蠢いていた。
「スライムか……?」
リュークが呟いた次の瞬間、ぬかるんだ壁からボタッ、ボタッと粘液が滴り落ち、四体のスライムが姿を現した。
「5体か……面倒だな」
ガルドが剣を肩に担ぎ直し、気だるげに言うが、目は鋭く獲物を捉えている。
リーナは静かに詠唱を始め、ザックはすでに姿を消していた。
「シャドウファング、前へ!」
「グルルァッ!」
リュークの合図で、黒狼――シャドウファングが水面を**バシャッ!と激しく裂き、駆け出す。
咆哮と共に飛びかかり、鋭い爪でスライムの一体をズバッ!**と引き裂く。
グジュゥ……ッ!
粘液が飛び散り、ぶよぶよとした肉塊が崩れ、水の中へと溶けていった。
「よし、攻撃は通る!」
リュークは水飛沫を浴びながらも躊躇なく前進し、短剣を逆手に握り直す。
(ただの水塊じゃない……押し込める感触を確かめろ)
短剣を深く突き立てた瞬間、**ズグッ……!という重い手応えが腕に伝わる。
ぐっと押し込むと、スライムの中枢が押し潰されるようにビチャッ、ドロッ……**と崩壊していく。
「粘性が高い……切り裂くより“潰す”が効くか」
次の瞬間、背後で**ズルリ……**と音を立て、別のスライムが飛びかかる。
「リューク、下がれ!」
ガルドの声が響き、大剣が**ズバァッ!**と空気を裂く。
ドゴォッ!
斬撃がスライムを直撃し、弾けた粘液と共に水面が**ズンッ!と波打つ。
吹き飛ばされたスライムはビチャァ……**と崩れ、地に伏した。
「リーナ!」
「いくわよ!」
リーナの詠唱と共に、杖の先から放たれた炎球が**ボフッ!**と音を立ててスライムへ突き刺さる。
**ジュウウ……!**という焼け焦げる音と共に、蒸発した水蒸気が白く立ち昇る。
その瞬間――視界が曇る中、ザックが影のように忍び寄る。
シュッ――ズチャッ!
ナイフが正確に突き刺さり、スライムは**ガクガク……ビチャッ!**と激しく痙攣しながら潰れていく。
「残り一体!」
リュークの声と同時に、シャドウファングが獣の本能剥き出しに**ガッ!と跳躍。
最後のスライムは触手のような粘液をズルリ……**と振り回して迎撃するが――
「グルルッ!」
シャドウファングは素早く側面に回り込み、爪で**ズバッ――ビチャアッ!と真横から斬り裂く。
スライムの粘体はブクブク……**と音を立てて崩壊し、水へと溶け込んだ。
「……終わったな」
リュークは短く息を吐き、息を整え、静かに短剣を収め、辺りを見渡した。
ガルドは剣を肩に担ぎ、リーナは額の汗を拭い、ザックは無言で短剣を拭きつつも、周囲を鋭く警戒している。
「意外と厄介だったな」
ガルドが苦笑まじりに肩をすくめると、リュークは静かに頷き、仲間たちに目を向けた。
(……頼もしいな)
ふと、かつての地下水道での記憶がよみがえる。
あの時は、ただ一人。息も詰まるような孤独と恐怖に押し潰されそうだった。
だが今は違う。
すぐそばには、ガルドたちがいる。互いに背中を預け、支え合える仲間がいる。
その事実が、言葉にできないほどの安堵をリュークの胸に灯していた。
(……前よりも、恐怖はずっと薄い)
さらに、メモリーバンクを開放したことで、自身にも確かな変化があった。
以前のようにがむしゃらに動くだけではない。
状況を見極め、最適な選択を考え、戦いに“余裕”を持てるようになった。
(知識が……行動を支えている)
リュークはそう実感していた。
「……しかし、シャドウファングの奴、的確な動きをするな。人の言葉でもわかってるんじゃないか?」
ザックが冗談めかして言うと、シャドウファングは誇らしげに鼻を鳴らした。
その仕草にリュークも思わず微笑む。
(ああ――本当に、前とは違う)
(この仲間たちとなら、きっともっと先へ進める)
心からそう思えた。
「行こう。これは、まだ序章に過ぎない」
リュークは迷いのない声でそう告げ、短剣を握り直して歩き出す。
ガルドたちも何も言わずにそれに続く。
かつての孤独と恐怖は、確かな信頼と成長へと変わっていた。
リュークは、もう一度闇の奥へと、仲間たちと共に踏み出した。
次回:黒の再来、解析と対峙
予告:恐怖の正体に挑む時、過去が武器となる。
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