第44話 再調査へ――決意と魔物核
宿で封印術の解読を終えた翌朝。
リュークたちはギルドを訪れ、追加依頼の手続きを進めていた。
「……追加依頼は受ける。だが――中級クラスの魔物核を“貸してほしい”だと?」
カウンターの奥、ギルドマスター・ヴォルグが低く問い返す。
その目は鋭く、腕を組んだ姿勢からただならぬ威圧感が滲んでいた。
白い髭を指で撫でながら、重い視線をリュークに向ける。
「魔物核は貴重な戦略資源だ。無制限に貸せるものではないぞ」
リュークは一歩前に出ると、机の上に古文書を広げた。
「この封印術には、“魔力の器”が必要なんです。中級魔物核の安定した魔力なら、術式を成立させられる可能性があります」
言葉に迷いはなかった。その目はまっすぐにヴォルグを見返している。
ヴォルグは無言で古文書を受け取り、視線だけで一行ずつ読み進めていく。
眉間に刻まれる皺が、内容の重さを物語っていた。
「……なるほど。術式の構造は理にかなっている」
唸るような声を漏らすが、すぐに苦々しげに首を横に振った。
「だが、中級核は依頼品でもある。使い道が定まらんまま、軽々しく出せるものではない」
口調は静かだが、含まれた責任の重さが肌を刺すように伝わってくる。
そのとき――カウンターの脇から、控えていたエリナが一歩踏み出した。
「ギルドマスター……」
ヴォルグが視線だけで促すと、エリナは深く頭を下げ、静かに言葉を続ける。
術式のことは、私には分かりません。でも……この依頼の中で、彼が自分を犠牲にしてでも“何かを止めようとしている”のは、私にも伝わります」
「ですから……私からも、お願いします。魔物核の貸し出し、どうか――」
その声は、決して大きくなかった。
けれど、そこには職員としての覚悟と、目の前の命に向ける真摯な思いがあった。
リュークも、静かにエリナを一瞥すると、再び前へと出た。
彼の眼差しには、一切の迷いがなかった。
「お願いします……。このままでは、また誰かがあの“影”に喰われるかもしれない。自分にできることがあるなら、やらせてください!」
声が空気を震わせた。
熱のこもった訴えに、ヴォルグの眉がわずかに動いた。
重い沈黙の後、ギルドマスターは静かに溜息をつき、立ち上がる。
「……全く、手のかかる若造だ」
ぼやくように呟くと、そのまま奥の部屋へ姿を消した。
数分後、小さな木箱を手に戻ってきたヴォルグは、それをそっと机の上に置いた。
箱の蓋が開かれると――淡い紫の光がぼんやりと浮かび上がる。
「ちょうど先日届いた依頼品の一部だ。使い方を誤るなよ」
その言葉とともに、魔物核の入った箱がリュークの前に差し出された。
リュークは静かに息を呑み、手を伸ばす。
指先が核の表面に触れた瞬間――
**ジン……**と微細な振動が手のひらから伝わり、冷たさの中に強烈な魔力の脈動を感じ取る。
「これが……魔物核……」
彼は、これから挑む封印の重責を改めて実感した。
だが――ヴォルグの声が、再び低く、厳しく響く。
「……ただし、条件がある」
その言葉に、リュークは思わず背筋を正す。
「返却は必須だ。それと、封印が成功した場合、術式の情報をギルドへ提出すること。これは組織の規定でもある」
ヴォルグの眼差しは鋭く、揺るぎない信念が宿っていた。
リュークは一瞬だけ迷いを見せたが、すぐに気持ちを切り替える。
「……分かりました。必ず成功させてみせます」
深く、真っすぐに頭を下げた。
魔物核を慎重に受け取ると、その冷たい重みに、責任の重さがさらに加わったように感じた。
その背に、ポンと大きな手が触れる。
「よし、これで準備は整ったな」
ガルドが、いつもの豪快さで励ます。
リーナも落ち着いた声で続けた。
「慎重に行きましょう。今度こそ、終わらせるために」
ザックは無言のまま、一歩前へと進みながらぽつりと呟く。
「……なら、行こう。地下水道の影に決着をつける」
その時、カウンターの奥からエリナが一歩前に出て、静かに言葉をかけた。
「……気をつけてください、皆さん」
声は小さくとも、そこには確かな想いが込められていた。
「無茶はしないで。必ず、無事に帰ってきてください」
その視線は、ほんの少しだけリュークに長く向けられていた。
張り詰めた空気の中、それぞれの瞳に強い決意が灯る。
覚悟を胸に、リュークたちはギルドを後にした。
あの闇へ――再び挑むために。
次回:再潜入──地下水道に蠢く影
予告:頼もしい仲間たち
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