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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第2章

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第30話 ギルドの報酬と、戦術の種火

 リュークたちはギルドの受付で、討伐報告を行っていた。


「確かに、ゴブリンの巣を制圧し、ゴブリン・シャーマンとゴブリン・チーフを討伐したんだな?」


 ギルド職員は詳細な報告書に目を通しながら、リュークたちに視線を向けた。


「はい。これが証拠の戦利品です」


 ザックがゴブリンの耳と、ゴブリン・チーフの首飾りを差し出す。リーナもシャーマンの杖をテーブルの上に置いた。


 職員は一つひとつを丁寧に確認しながら、手元で報酬の計算を始めた。


「ゴブリンの巣制圧、通常のゴブリン十数体討伐……これが基本報酬で銀貨小36枚。


 さらに、ゴブリン・シャーマン討伐が金貨小7枚、ゴブリン・チーフ討伐で金貨小10枚。他に、追加報酬と素材分が――」


「おお、なかなかの額じゃねえか!」


 ガルドが満足げに頷き、リーナも思わず息をついたように微笑んだ。

 その顔には、ようやく緊張の糸がほどけたような安堵が滲んでいた。


 さらに職員は、宝箱の中身を丁寧に取り出して机に並べていく。

 そこには数枚の金貨、そして――淡く蒼白い光を放つ【スキルクリスタル】が静かに輝いていた。


「スキルクリスタル」


 思わずリュークは声を漏らす。

 胸の奥がわずかに高鳴った。それは、自身の成長に繋がる――確かな可能性だった。


 だが、その光に手を伸ばす前に、リュークはそっと視線を仲間たちへ向けた。

 これは、皆で得た戦利品だ。勝手に手にすることはできない。


「なあ、ザック、リーナ……俺、このスキルクリスタルが欲しいんだ」


 言葉を選びながらも、リュークの声には迷いはなかった。


「金貨に換えるより、今の自分にとっては――これを持っていた方がきっと意味があると思う」


 真っ直ぐに告げられたその想いに、数秒の静寂が落ちた。


「なるほど……まあ、リュークには必要かもな」


 ガルドが頷きながら顎に手を当てて考え込む。


「確かに。スキルクリスタルって、使い手によって価値が変わるものだし……リュークが持つ方が、今後の役にも立つわね」


 リーナも真剣な眼差しで頷いた。


「だったら、金貨の分配を調整しよう」


 ザックが柔らかく提案する。


「クリスタルの価値を見積もって、その分リュークの取り分を減らせば、皆納得できるだろ」

「いいわね。それなら誰も損しないし」


 リーナも即座に賛同し、ガルドもうんと頷いた。


「……ありがとう。助かる」


 リュークは深く頭を下げ、スキルクリスタルを両手でそっと受け取る。

 淡く脈打つようなその輝きが、指先に確かな重みを伝えてきた。


 ギルド職員が確認を終え、金貨と銀貨、そして戦利品の武具を手渡す。


「これで手続き完了だ。お疲れさま」


 その言葉に、ようやく全員の表情がほどける。

 張り詰めていた空気が和らぎ、ほっとした空気が場に満ちた。


「今日は、ひとまずゆっくり休もう。次の計画は、それからね」


 リーナの柔らかな声に、ガルドが拳を握りしめて笑う。


「よし、今夜は美味い飯でも食おうぜ!」


 ザックの言葉に、リュークも微笑んだ。


 夕暮れの光が、酒場へ向かう一行の背中を穏やかに照らしていた。

(スキルクリスタル……これがどんな力をもたらすのか、確かめる必要があるな)


 ◆酒場へ

 ベルハイムのギルドでの報告を終えたリュークたちは、その夜、街の酒場へと向かった。

 いつもより活気のある店内で、討伐を終えたばかりの冒険者たちが酒を酌み交わしている。


「ふぅー、やっと一息つけるな!」


 ザックが椅子にどかっと腰を下ろし、勢いよくジョッキを掲げた。

 中の琥珀色の液体が小さく揺れ、カシャンとガラスの音が心地よく響く。


 テーブルに置かれた料理皿からは、香ばしい肉の香りがふわりと立ち上る。

 腹を空かせたシャドウファングが、テーブルの下から鼻をひくつかせ、思わず顔を突っ込もうとした。


「こら、ダメだってば」


 リーナが笑いながら、軽くファングの鼻先を押し返す。

 黒狼はしぶしぶ鼻を鳴らし、リュークの足元に丸まって静かに伏せた。


「ふふ、賢い子ね」

 リーナが席に着きながら柔らかく笑う。


「まあね。とはいえ、今日は色々と学ぶことがあったわ」


 リュークも静かに頷いた。

 ガルドは豪快に骨付き肉にかぶりつき、口の端にたっぷりとソースを付けたまま満足そうに噛みしめている。


「……ったく、ほら汚れてるわよ」


 リーナが苦笑しながら、手元のナプキンをガルドに放った。


「へいへい……」


 ガルドは肩をすくめつつ、ナプキンで口元をぬぐいながらニヤリと笑った。

 その何気ないやり取りに、リュークはどこか懐かしさを感じた。


 まるで、ずっと前から共に旅をしてきた仲間たちと、肩を並べて食卓を囲んでいるような――そんな不思議な感覚だった。


(……こういう時間、悪くないな)


 ふっと胸の張りつめが緩み、リュークは静かに息を吐いた。


「しかし……今回の戦い、結構ぎりぎりだったよな」


 誰ともなく漏れたザックの言葉に、テーブルの空気が少しだけ引き締まる。

 ガルドがジョッキをテーブルに置き、腕を組んでうなずいた。


「だな。せっかくだし、ここで一回整理しておくか。次に繋がるようにな」


 その一言に、自然と全員の視線が集まる。

 ガルドは軽く咳払いし、真剣な口調へと切り替えた。


「まず、良かった点からいこう」


 ガルドがリュークに視線を向ける。


「お前の仕掛けた罠、かなり効いてた。特に、シャドウファングとの連携で敵を混乱させたのは見事だったぞ」

「……ありがたいです」


 リュークは静かに礼を述べる。

 リーナも頷いた。


「確かに。戦闘経験が浅いわりに、全体の流れを見て動いてた。そういう戦術的な視点は、リュークの強みね」


 リュークは少しだけ表情を緩めつつも、口を引き結んだ。


「でも、まだまだ改善点も多い。ゴブリン・シャーマンの魔法に対応しきれなかったし、シャーマンの指揮で部隊が整ってると、こっちの陣形が乱された」

「そこは次の課題だな」


 ザックがジョッキを片手に、真剣な眼差しで言葉を継ぐ。


「魔法に対する防御手段と、指揮官クラスを早期に排除するための戦術――どっちも考えておいた方がいい」


 その言葉に、一同が静かに頷いた。

 緊張の中での戦闘、偶然の勝利ではなく、次は確実に勝つために。


 この時間が、確かに彼らを強くしていくと、リュークは思った。


「まず、ゴブリン・シャーマンの魔法攻撃は厄介だったな。あの結界魔法もなかったら、もっと楽に倒せたかもしれない」


 ガルドが苦い表情でジョッキを揺らしながら呟く。

 リーナも頷き、落ち着いた口調で続けた。


「ええ。シャーマンを優先的に倒すべきだったわね。チーフの圧に気を取られてたけど……あれが囮だったのかもしれない」


 リュークは顎に手を添え、じっくりと考え込む。


「次は……遠距離攻撃の手段がもう少し欲しいな。俺も罠をもっと応用すべきだった」


 テーブル下でシャドウファングが小さく唸る。

 その目はどこか真剣で、まるで一緒に戦術を考えているかのようだった。


「それと、道具の使い方も今後の課題ね」


 リーナが手元の小袋を指しながら言った。


「道具?」


 リュークが聞き返すと、彼女は軽く頷いて説明する。


「例えば、ポーション。戦闘中にいちいち探してたら間に合わないわ。取り出しやすいように腰ベルトに固定するなり、配置を工夫するべきよ」


「なるほど……」


 リュークは素直に頷きながらも、内心で静かに驚いていた。


(この世界に、ポーションがあるのか……。

 こういう“標準装備”ですら、俺は何も知らない)


 実戦を経て少しずつ明らかになっていくこの世界の仕組み。

 それは同時に、自身が“何も知らない”ことの証明でもあった。


 次回: 力を求める対話――仲間と世界の輪郭

 予告:強くなるとはどういうことか。“世界の常識”が輪郭を与える。

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