1章あらすじ(1)
0話 プロローグ:世界の構造外(Out of View)
高度量子魔法文明都市アストラルムで、“ズレ”を正さずにいられない研究者リュークは、観測網から外れた一つの「ずれた星」と向き合っていた。
ある日、共に研究してきた白銀の髪の少女が、世界から「最初から存在しなかった」かのように、記録ごと消し去られる。
リュークは、彼女だけが指摘していた「観測の網目からこぼれる点=ずれた星」が、システムの外への唯一の穴だと悟る。
都市全体の“記憶再構成”が迫る中、自らの記憶を九割失う代償と引き換えに禁忌プロトコル《イグニッション・コード》を起動し、彼女の記録を世界の外側――メモリーバンクへ逃がすことを選ぶ。
コード実行の瞬間、都市の構造は裏返り、記録と存在を測定する“無数の目”が姿を見せる。
リュークは光に呑まれ、ほとんどの自己記憶を失う代わりに、“世界の構造外”へと投げ出されていく。
第1話 恐怖と“生”の境界線
爆光と崩落の中で、リュークは記憶を失った状態で廃墟のような場所に目覚める。
胸の奥に響く謎の声と、断片的に蘇る「崩れ落ちる神殿」と白銀の髪の少女のイメージだけが、失われた何かの存在を示していた。
自分の名前だけをかろうじて思い出し、古びた首飾りの不気味な鼓動と、廃墟に仕掛けられた“間一髪で避けられる罠”から、「誰かに試され、誘導されている」と察するリューク。
やがて「世界は、すべて偽りである」「――神殿へ」と浮かび上がる不自然な文字を目にし、恐怖を抱えながらも「奪われっぱなしは性に合わない」と、神殿へ向かう決意を固めて歩み出す。
第2話 恐怖と"生"の境界線
神殿を目指して草原を進むリュークは、再び謎の紙片を拾い上げ、「君はまだ、自分が“見ている”ものを知らない」という言葉に不穏さを覚える。
その直後、ウルフに不意打ちを受け、初めての本格的な「死の恐怖」にさらされながらも、砂や蔦を利用した悪あがきで必死に反撃する。
追い詰められた瞬間、首飾りが熱を帯び、「メモリーバンク」という言葉が条件反射のように口をついて出ると、リュークの身体は“自分のものではない戦いの技術”に導かれるように動き、ウルフを討ち倒すことに成功する。
恐怖と痛みの中で、「まだ生きている」という実感と、戦いの中で目覚めた“積み上げていける力”の存在を噛みしめるリューク。
足元に残る小さな足跡を見つけた彼は、情報を求めてその先へと進む決意を固めるが、同時に「誰かに見られている」という視線の感覚もはっきりと意識し始める。
こうして、リュークの「記録される物語」が静かに動き出していく。
第3話 異端の村と、歪む扉
草原に残る小さな足跡を追いながら歩くリュークは、遠くに上がる煙を見つけ、人の住むトレント村へ辿り着く。
しかし村の門には「神の恩恵なき者、異端者に警戒せよ」という不穏な文言が刻まれており、一瞬だけ「異端者も家族」と書き換わって見えるなど、最初から“世界の歪み”を感じさせる違和感に包まれる。
村の中は生活の気配こそあるものの、村人たちは皆おびえたように声を潜め、どこか「見られること」を恐れている様子。
露店の古びた魔導装置を見たリュークの手は、記憶がないはずなのに構造欠陥を瞬時に見抜き、自然に修理の手順まで浮かんでしまう。
しかしそれを口にする前に店主から強く制され、「自分は何者なのか」という疑念がより深まる。
金を持たないリュークは、食料の代価として「罠作り」を提案し、即席の鈴付き罠を手際よく組み上げることで村人の信用と、その日の水とパン、そして村外れの寝床を得る。
作業に興味を持って集まってきた子どもたち、とくに少女ミーナとのやりとりの中で、リュークは“今この瞬間”の温かさを感じ、子どもたちとともに村を守る「小さな作戦会議」を楽しむ。
だがその光景を、屋台の陰から冷ややかな眼差しで見つめる老婆の存在が、村の抱える秘密と、リューク自身の「異端性」を暗示する。
水たまりに映る自分の姿が一瞬“別の動き”をするなど、世界のズレもじわじわと表面化し始め、穏やかな村の風景の裏側で、見えない何かが動き出していることを示して第3話は終わる。
4話 神殿への決意――“呼ぶ声”と影の残響
村はずれの小屋に戻ろうとしたリュークは、突如として視界に現れた【個人ステータス】表示から、自分のレベルもスキルも「空白」であることを突きつけられる。
それは「この世界に観測されていない存在」であるかのような寒気を伴う異常であり、その瞬間、意識は強制的に別の光景へと引きずり込まれる。
暗い室内に浮かぶホログラム、石造りの神殿、祈り続ける白銀の髪の少女――
彼女は「リューク」「メモリーバンク」という言葉をかろうじて告げ、ノイズに呑まれて消える。
やがてどこからともなく祈りのような声が響き、「リューク……早く、来て……私……ルミ……」と名を呼ぶが、手を伸ばしても何一つ掴めない。
動揺を抱えたまま池の水面を覗き込んだリュークは、自分の背後に“今とは別の時間”の草原と夕焼けが映り込み、その奥に廃墟で見たのと同質の黒い影を目撃する。
影は『お前と共に』という“声の形”だけを残し、次の瞬間には彼女の残像と重なるようにして消える。
世界の歪み、白銀の少女、黒い影――それらが一本の線でつながっていると確信したリュークは、「この声を失ったら、本当に自分が消える」と直感し、首飾りの激しい熱に制止されながらも、あえて神殿へ向かう決意を固める。
翌朝、村の広場で罠の改良をしつつ、子どもたちやミーナと触れ合う場面では、リュークの中に“ここで生きている手触り”とささやかな温もりが芽生える。
しかしその穏やかな時間の裏で、村人たちの視線やひそひそ声が確かに自分を「異物」として追っていることも感じ取る。
そして罠の評判を口にした露店の店主から、「村長がお前に会いたい」と告げられ、リュークは村の奥にそびえる石造りの屋敷へと案内されていく。
“呼ぶ声”に導かれた神殿への決意と、“異端者”としての疑い――二つの不穏な流れが、同時に動き出したところで第4話は幕を閉じる。
第5話 異端の烙印
村長ロッドに呼び出されたリュークは、「かつてステータス空白の“加護なき者”に村を滅ぼされかけた」という過去を聞かされ、自身のステータスの確認を求められる。拒めば村での居場所を失うと悟ったリュークは、教会での鑑定に応じることを決意し、村中の視線が集まる中、魔導石に手をかざす。
表示されたのは、一瞬だけ浮かんで消えた“空白のステータス”と、それを上書きする〈該当なし〉の一行。
それを目撃した村人たちは十年前の惨劇を思い出し、「あの時と同じだ」「異端者だ」と口々に叫び始める。娘を奪われた老婆の告発で空気は一気に敵意へ傾き、リュークは“何者なのか”“何ができるのか”を証明するよう迫られるが、記憶も肩書きもない彼にはうまく言葉が出てこない。
やがて村長は「証明できぬなら、ここには置けない」と告げ、明朝までに村を出るよう通告する。
「どこにも居場所がないのか」と胸を凍らせながらも、リュークの内側では「ステータスの一行だけで自分の全てを決めつけるな」という怒りが沸騰し、世界そのものの“仕組み”に対する拒絶へと変わっていく。
その怒りが閾値を超えた瞬間、教会の空間に微細なひびが走り、光の粒子が数式と幾何学模様を描きながら渦を巻く。
リュークの意識には「メモリーバンク」という名と共に断片的な映像と声が流れ込み、閉ざされていた“何か”の扉が軋みを上げて開き始める――世界がリュークを「異端」と断じたその場で、逆に世界の方に異常が発生したところで、第5話は幕を閉じる。
第6話 少女の声
教会で「異端」として追放を言い渡された直後、光の数式とノイズに世界が歪みかけたところへ、ミーナが飛び込んでくる。
彼女の乱入で異常な光景は“なかったこと”のように消え、張り詰めた空気の中、ミーナは震えながらも「リュークさんは悪い人じゃない」と村人たちに正面から訴える。
罠作りや看病など、リュークがしてきたことを具体的に挙げ、「何もしていない人を、石ひとつで疑うのは神様じゃない」と言い切る少女の言葉に、村人たちは迷い始める。
その姿に、怒りと絶望で限界だったリュークの心も少しだけ緩み、「守られた」という感覚と、言葉にならない感謝が胸に灯る。
長い沈黙の末、村長ロッドは折衷案として“条件付きの滞在”を提示する。
翌日、村はずれで家畜を襲っている魔物をリュークに退治させ、それに成功すれば滞在と報酬を認める代わり、失敗した場合はそのまま村を去ること――つまり、「外で異端性を試す」試練だった。
勝てる保証もなく、死の危険も承知の上で、それでもリュークは「やります」と応じる。
ここで何もせず追い出されるより、自分の力で“ここにいる”ことを証明したいという思いが恐怖を上回ったからだ。
さらにロッドは、リュークを庇った責任としてミーナを案内役に指名し、彼女はむくれつつも「一緒に頑張ろうね!」と笑って受け入れる。
その笑顔に救われながら、リュークは「この世界がなぜ自分を拒むのかを確かめる」と心に誓い、魔物退治という最初の“存在証明”の戦いへ歩み出すところで第6話は終わる。
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