表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第7章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/124

第116話 毒霧の坑道、喰霧獣との迎撃戦

 ◆坑道内での迎撃戦――毒性魔獣との遭遇

 さらに数十メートル進んだその地点で、空気の質が一変した。

 湿度は異様に高く、金属を舐めるような酸の臭気が鼻腔を刺す。

 視界の奥では、淡い霧がじわじわと渦を巻いて揺らいでいた。


 リュークが小声で警告する。


「……いる。魔素の流れが濁ってる。近いぞ」


 直後――岩壁の陰から、**ズズッ……**と粘つく音を立て、ぬらりと長い影が現れた。

 四つ脚で這い出た魔獣は、全身をどろりとした毒性粘液に覆い、その背には腫瘍のように膨張した魔素核を浮かべている。


 紫がかった皮膚は、濃度の変化に合わせて不気味に色を変え、まるで生きた毒霧そのものだった。


「……毒ガス耐性種、“喰霧獣”……!」


 ルミエルの声と同時に、**バシュンッ!**と空気が裂け、魔法障壁が展開される。


「――エアーシールド!」


 透明な風の盾が前方に張り巡らされ、毒霧の直撃をかろうじて弾いた。

 しかし、喰霧獣は怯むことなく**ズゥンッ!**と床を踏み砕き、突進してくる。

 岩盤を震わせるほどの質量感に、坑道の空気が一瞬で押し潰される。


(シャドウファング、右から回り込め!)


 リュークが鋭く目配せを送ると、黒狼は即座に反応した。

 **ザッ!**と霧を切り裂き、影のような速度で駆け出す。

 尾を薙ぎ払いながら霧を巻き散らし、喰霧獣の視界と嗅覚をかき乱す。


 黒狼はさらに低く唸り声を上げ、敵の前脚をかすめるように飛び込んだ。

 鋭い爪が甲殻の隙間を擦り、**ギギッ!**と嫌な音を響かせる。


「――ッ!」


 刺激を受けた喰霧獣が耳を裂く咆哮を上げ、身体を大きく膨張させた。

 甲殻の隙間が開き、そこから――**バシュッ!バシャァァッ!**と紫色の腐食性液が高圧で噴出する。


 飛沫が岩壁を叩いた瞬間、**ジュウウッ……ガリッ……!**と音を立てて石が焼け、黒ずみながら溶け崩れた。


「腐食性の液体を避けろ! 甲殻の下に核があるはずだ!」


 跳ねるように後退しながら、リュークは腰のポーチから試験瓶を引き抜いた。

 薬草成分を調合した透明な液体が揺れ、彼は一瞬で角度を測る。


 その間、シャドウファングが霧の中を素早く駆け、敵の正面を横切るようにして低く唸った。

 鋭い視線と動きに喰霧獣が釣られ、甲殻の隙間がわずかに開く。


「……ここだ!」


 振り抜くように投げ放った瓶が、**パリンッ!**と鋭い音を立てて敵の脚部付近で砕けた。

 飛散した薬液が甲殻に染み込み、直撃を受けた部位が淡く発光する。


(“あの部位”は感応しやすい……今なら通る!)


 喰霧獣が咆哮し、尾を振り上げた。

 **ブンッ!と唸りを上げる重い軌道――。


 リュークは床を蹴り、滑るように真横へ転がり込む。直後、岩壁がガギッ!ズズンッ!**と抉れ、石片が雨のように飛び散った。


「援護するわ――エアーシールド!」


 ルミエルの詠唱が重なり、**ドンッ!**と空気が弾ける。霧を裂く透明の風障壁が展開され、毒の濃度が乱れた。揺れる霧は一瞬だけ滞り、喰霧獣の視界を覆い隠す。


(今しかない――!)


 リュークはすかさず腰から小型魔導具を抜き取った。掌サイズの装置を構え、崩れた足場を**ガキンッ!**と踏み越え、敵の腹下へと投げ込む。


「――起爆、パルスショック!」


 バシュゥッ!!


 青白い稲光が迸り、喰霧獣の体内を一瞬で貫いた。甲殻の隙間から火花が弾け、敵は**ビクンッ!ビリビリッ!**と激しく痙攣し、のたうち回る。


 だが、すぐに全身の甲殻が硬直し、耐えるように締まり込む。尾が再び**ブオンッ!**と唸りを上げ、螺旋を描いて襲いかかってきた。


(まずい、弾き飛ばされる――!)


 反射的にリュークは身を低くし、横へ**ゴロッ!**と転がり込む。

 霧の中で息を呑んだ瞬間――裂け目から影が閃いた。


 ガブッ!!


 シャドウファングだ。

 黒い閃光のように側面から飛び込み、その鋭い牙で尾を強引に噛み止める。**ギギギッ!**と骨が軋む音と共に、敵の動きが鈍った。


「――よし、行け!」


 リュークは刹那の隙を逃さず、短剣を構えて地を蹴った。

 **ズンッ!**と足裏に伝わる反発。疾走の勢いをそのままに、裂け目へ一直線に突き込む。


「……決める!」


 同時にルミエルの風が**ゴォッ!**と霧を裂き、視界が一気に拓けた。

 毒霧の壁を突破し、甲殻の隙間――揺れる核を狙い澄ます。


 ガギィンッ!


 刃が硬質の殻を貫き、続けざまに**ズブッ!**と柔らかな核を突き破った。

 瞬間、魔素が爆ぜ、ドォォン――!と光の濁流が周囲へ溢れ出す。


 喰霧獣の咆哮は断末魔に変わり、痙攣しながら毒液を吐き散らし、やがてズズゥ……ッと崩れ落ちた。

 濃霧の壁は音もなく晴れ、ただ焦げた匂いと残滓の波だけが漂う。


 リュークは肩越しに周囲を見回し、数秒の沈黙ののち、短く息を吐いた。


「……終わったな」


 結界を張り続けていたルミエルも、ようやく息を吐き出す。


「はぁ……っ、遮断解除……」


 淡い風の膜がほどけ、彼女の体から緊張が抜けていった。

 その隣では、シャドウファングが音もなく戻り、リュークの足元に寄り添う。

 琥珀の瞳に宿る光は、戦いを経て鋭さを増していた。


「これまでで、随分鍛えられたな……お前も、もうLv16か」


 黒狼は低く**グルゥ……**と喉を鳴らし、尾をひと振りして応えた。

 リューク自身も、すぐに短剣を収めて静かに告げる。


「俺も、Lv13になっていた。反応速度と視界処理が、以前とは段違いだ。確かに……積み重ねが効いてる」


 ルミエルも胸に手を当て、ゆっくりと頷く。


「わたしも今朝確認したら、Lv5になってたわ。まだまだだけど……この霧の環境下で動けるくらいには、対処力が備わってきた気がする」


 リュークは頷き、観測ノートを取り出した。


「そろそろ記録を整理しよう。今回の魔素波形と、喰霧獣の核構造……重要なデータになる」


 彼の筆が走る。空間変質、電撃魔導具の反応、敵の挙動――淡々と記録されていく。

 その傍らでルミエルは魔素の流れを整え、シャドウファングは警戒を解かず主を守るように立っていた。


 敵が強くなるのと同じだけ、自分たちも確実に歩を進めている。

 それは奇跡や加速ではない。

 積み重ねられた戦いと記録が、確かに刻んだ“軌跡”の証だった。


 リュークは荒くなった呼吸を整えながら、周囲の魔素反応を探った。

 床に散らばった核の残骸を慎重に拾い上げ、小瓶へと納める。


 **コトリ……**と瓶の中で欠片が揺れる。

 わずかに紫の光が脈打ち、まだ微弱ながら生命の残滓のような鼓動を刻んでいた。


「……魔素波形、これも記録対象だな。環境変質の“生態的側面”……こいつが証拠になる」


 彼は観測ノートに素早く線を走らせ、核の歪な模様を写し取っていく。

 その足元で、シャドウファングが静かに喉を鳴らした。黒い毛並みはまだ霧に濡れて光り、呼気も荒い。


 リュークはその額に一度手を置き、低く呟く。


「……助かった。ありがとな」


 黒狼は短くウォフッと吠え、尾を振って応じた。その仕草には、仲間としての確かな誇りが滲んでいた。


 ――そして、三人は再び歩き出す。

 戦闘の熱気が消えた坑道は、より一層重苦しい気配を帯びていた。

 奥へ進むほどに空気は澱み、鼻腔を刺す金属臭と湿った酸の匂いが強くなる。


 頭上を見上げれば、崩落した天井の裂け目から錆びた配管が剥き出しになり、そこから**ズズゥ……**と音を立てて、淡い魔素の霧が漏れ出していた。

 それはまるで、空間そのものが“呼吸”しているかのように脈動し、彼らの進む先を不気味に染め上げていた。



 次回:壊れた守護者の祈り──眠り続けるゴーレムと少女

 予告:広間の隅――壊れた守護者は、今も少女を抱いていた。

読んでくださり、本当にありがとうございます!

更新が遅れています。


お待たせしてしまうかもしれませんが、そのぶん丁寧に物語を紡いでいきたいと思っています。


「面白そう」「続きが気になる」と少しでも思っていただけましたら、ぜひ 「ブクマ」や「評価」 をポチッとしていただけると、とても嬉しいです!


感想は一言でも大歓迎です、それだけで物語の未来が大きく変わります。

これからも、さらに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、どうぞ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ