脱出計画
「ん、あのまま寝てしまったのか。」
まだ深夜のようだ。城から抜け出す時のためにも、改めて城を見て回ろう。
そっと扉を開け、廊下に出る。
少し廊下を進むと、背中に悪寒を感じた。立ち止まり後ろを振り向いても誰もいない。
なんだろう、気のせいか。
そう思い、そのまま歩き始めようとした。すると突然後ろからレナが俺の肩を叩いた。
「影山様、おはようございます。まだ夜ですけど、フフフ。」
どこにいたのか全く分からなかった。俺は冷や汗をかいた。
「こんな夜中にどちらへ行かれるのですか?」
「目が覚めたから外の空気でも吸おうかと。」
「そうですか、私もお供させていただいてもよろしいですか?」
どうせ断っても付いてくるか、それとも隠れて監視するのだろう。それなら敢えて断るのも不自然か。
「はい、大丈夫ですよ。」
「やったー!って静かにしないとですね。」
レナは無邪気に笑った。しかしそんなレナの笑顔も、俺にとっては胡散臭く感じた。
散歩の最中、レナとたわいもない話をした。レナはそんな会話の中で何かを探っているようで、俺はボロを出さないように必死だった。俺はボロを出す前に自室に戻ることにした。
廊下へ出た時に感じた悪寒は、恐らく危険察知が発動したのだろう。それと改めて考えると、レナとの会話で感じた嫌な予感も危険察知によるものだったのだろう。このスキル、この異世界で生き抜くのにかなり役立つかもしれない。
そんな事を考えながら俺はもう一度寝ることにした。
〜早朝〜
昨晩の一件で夜にこっそりと抜け出すのは厳しいと分かった。レナの監視を逃れるのは今の俺には不可能だろう。
服を着替え廊下へ出ると廊下でレナが待っており、俺はレナに連れられ朝食会場向かった。口には出さないが、レナは少し眠そうに見えた。
朝食会場は昨日とは違う狭い部屋だった。また朝食も前回よりも明らかに質素だった。金髪やオタク達が文句を言うと思ったが、それぞれの案内人との話に夢中で気にしていないらしい。黒川は黙々と食べていた。
あの3人の様子を見るに、情報が漏れるのも時間の問題だろう。いや、もう漏れている可能性すらある。
俺は朝食を食べ終えると、訓練場へ向かった。
訓練場では目に濃いクマを作ったギルが待っていた。
俺が着いた直後に、黒川も到着した。
ギルは周りを確認し、俺たち2人に話を始めた。
「お前らには今日の昼食時間にこの城から抜け出してもらう。それとこれを受け取れ。」
そう言ってギルは俺に手書きの指南書、そして銀貨や銅貨の入った小袋を手渡した。
「地図に印の付けた所に行って、フィルド自治領行きの馬車に乗れ。俺がしてやれるのはここまでだ。その後はお前らでどうにかしろ。」
俺たちは覚悟を決め深く頷いた。
ギルは昨日、寝ずに色々と準備をしてくれたのだろう。どうしてここまでしてくれるのかは分からないが、感謝しなければならない。
少しの沈黙の後、ギルは口を開いた。
「あーそれと、もしバレた時は、お前らが厳しい訓練から逃げたことにする。そのためにキツめにいくぞ。短い時間に色々と教えこまねーといけないしな。まぁ安心しろ、逃げる体力くらいは残してやる。」
体がゾクっとした。また危険察知が発動したのかと思ったが、隣の黒川を見るに、これはスキル関係なく本能的に感じるものだろう。