イレギュラー
教会を後にした俺たちは、ギルに連れられ、午前に講義で使った黒板のある部屋へ行った。
部屋に着くとギルは外を確認し、扉を閉めた。
「お前ら全員、さっきの事は他言無用だ。もし知られれば国に命を狙われるぞ。黒髪の子だけじゃねぇ。ここにいる全員だ。」
俺たち5人はあまり状況を理解できていなかった。そんな俺たちにギルは詳しく説明を始めた。
先程のような儀式は、職業選択やクラスアップの時に行う。そしてその際に異世界から召喚された者は、身体が光る。その光の強さはその者の潜在能力によって多少の差異はあれど変わる。そしてこの国は、潜在能力がスキルの数に比例すると考えている。しかし先ほどの黒川の光は明らかに、スキルが2つだけの者の光ではないようだ。そしてそれはこの国のスキル至上主義の考えを根底から覆してしまう可能性がある。そのため、この事実が国にバレてしまえば、口封じに消される可能性があるとギルは言った。
説明を終えると、ギルは金髪とオタクたちをそれぞれの部屋に返した。そして部屋には黒川と俺が残された。なぜ俺も残らされたのだろうか。
「お前ら詳しい事は明日説明をするが、2人には他の3人とは別行動をさせる。俺はこれから神父のとこへ行って話をしてくる。」
黒川は静かに頷いた。
「それと、シーフ君。お前も黒髪の子ほどでは無かったが、光が強かった。おそらく神父は気づいていないだろうが気をつけろよ。」
そう言ってギルは急足で部屋を出た。
俺も光が強かったのか。自分ではわからないものだな。どれくらいの強さだったのだろうか。
「えーと、黒川さん。俺の光ってどのくらいの強さでした?」
少しの沈黙のあと黒川が答えた。
「あの3人の3倍くらい。」
黒川が喋るところなんて初めて見たかもしれない。
「そ、そっか。ありがとう。」
ぎこちない会話を終え、俺たちはそれぞれの部屋へと向かった。
部屋へ向かう途中、どこから現れたのか、案内人であるレナが話かけてきた。
「あれ、訓練は終わったのですか?予定よりも早いですね。」
「あ、あぁ。ギルさんが……。」
何か嫌な予感がした。ギルが早めに切り上げたとでも言って誤魔化そうとしたがやめておこう。
「ギルさんがどうされたんですか?」
「いやなんでもないです。疲れたので部屋に戻ります。夕飯は部屋の外にでも置いておいて下さい。」
「あらそうですか。お疲れ様です!」
そうして俺は自室へと戻った。
一旦状況を整理しよう。
俺たち、いや主に黒川だが、はこの国にとってイレギュラーなのだろう。そしてその事実を知るのはCチームの5人とギルと神父。ギルの様子と、神父のテンパリようから見て、すぐに報告される事はないだろう。しかしそれも時間の問題だ。基礎訓練の終わるのは6日後、それまでにはなんらかの対処がされるだろう。
こんな訳の分からない世界で死ぬなんてごめんだ。状況を見て城から抜け出さなければ。
コンコンッ
「影山様、御夕飯をお持ちしました。」
レナが夕飯を持ってきた。
「ありがとうございます。そこに置いておいて下さい。」
「承知しました。失礼致します。」
城を抜け出すにしても、レナの目がある。さっきもどこから現れたのか分からなかった。もし逃げる途中で捕まれば、ただでは済まないだろう。それにもし今城を出たとして、右も左も分からない中で生き抜くことなど出来ないだろう。さてどうしたものか。
そんなことを考えているうちに、寝てしまった。