盲目の少女の不安
さて今度はジェニファーサイド。
彼女の不安とは……?
どうぞお楽しみください。
ジェニファーは自室で胸から溢れそうになる不安を押し込めようとするように、寝台に横になると強く胸を押さえた。
「……どうしたらいいの……?」
発端は先程の事。
お茶の時間にジェットに淹れた時の事だった。
『ん、美味しい』
「そ、そうですか?」
『前に飲んだ時より、味が深まってる気がする』
「あ、ありがとうございます……」
ジェニファーが城のお茶を味わい、淹れ方を変えた事による反応。
それは何とも言えない達成感をジェニファーに与えた。
(蒸らす時間を少し長くして良かった……!)
そんなジェニファーに衝撃が走る。
『凄いなジェニファーは。この短期間にお茶の淹れ方がこんなに上達するなんて』
「えっ……」
『前回は香りを中心に、今回は味との両立……。工夫と努力が感じられる。ジェニファーを側仕えにして本当に良かった』
「!」
これまでジェニファーの世界で、努力を褒められたと思った事はなかった。
いや、褒められてはいた。
しかしそこには常に色眼鏡がかけられていた。
「偉いねぇ、目が見えないのに」
「目が見えないのにここまでできるなんて!」
「大変だろうに、目が見えない中頑張っているねぇ」
ジェニファーなりに努力を重ねた事。
あれこれ考えて工夫した事。
その全てが「目が見えない」と言う事実で集約されていた。
一方できる事が当たり前と思っている両親は、
「ふん、お前もっと稼げそうだな」
「あんたは目が見えない分、必死に働かないといけないんだよ!」
そう言って積み重ねた努力よりも、ただただ成果を求めた。
しかしジェットは違った。
ジェニファーの努力に気が付き、それを評価してくれる。
それがジェニファーには新鮮だった。
(嬉しい! 嬉しい嬉しい嬉しい!)
胸を押さえたまま、寝台の上をごろごろと転がるジェニファー。
しかし我に返ると再び不安が押し寄せてくる。
「ご主人様……。私の目をいつ治すつもりなんだろう……」
ジェニファーからすれば、ジェットは道楽で目の見えない人を側仕えにして、飽きたら目を治して追い出す存在。
しかし自分の努力や仕事を望む形で評価してくれるジェットは、ジェニファーにとって両親よりも居心地が良く、離れ難い存在となっていた。
「……ご主人様が私の目を治さなければいいのに……」
口にして、ジェニファーは溜息をつく。
自分だけが例外になるはずがない、そんな諦めの溜息だった。
「……こうしてはいられない。少しでもご主人様の元に長くいられるように、できる事を増やさないと……!」
寝台から起き上がると、ジェニファーはいくつかの瓶から茶葉を取り出す。
「……これは香りは穏やか。味は……、う、はっきりしてる……。こっちは、香りは爽やか。味は……、苦い中にちょっと酸味がある……」
一つ一つ丁寧に匂いを嗅ぎ、口に含むジェニファー。
煮出す前の茶葉は苦味や酸味を多く含んでいる。
それに顔をしかめながらも、ジェニファーは茶葉の匂いと味を記憶していった。
「……ご主人様、また褒めてくれるかな……」
ジェットの声を想像して浮かべたその笑顔は、年相応の女の子のそれであった。
読了ありがとうございます。
ジェニファー、帰るのやめるってよ
と行けばいいのですが、あの両親では……。
次回もよろしくお願いいたします。