黒い怪物の悩み
四、五話で終わるとキッパリ言ったばかりなのに…‥
スマンありゃウソだった
でも まあ
この企画は三万文字まで良しとするって事だからさ……
ごめんなさい
どうぞお楽しみください。
ジェットは悩んでいた。
『……あれはまずかったなぁ……』
思い出すのは先程の事。
「ご主人様のお仕事ってどんなものなんですか?」
『あ、興味ある? じゃあ一緒に行こう』
そう言ってジェットはジェニファーを城の宝物庫に連れて行った。
『城の中だとこの宝物庫や武器庫の仕事が中心だね。古くなったものや欠けたものを直しているんだ』
「……そうなんですね……」
宝物庫と聞いて緊張の様子を見せるジェニファー。
その肩をジェットはぽんぽんと叩く。
『大丈夫大丈夫。万が一壊れたとしても僕が直すから、遠慮なく触っていいよ』
「は、はい……。ありがとうございます……」
そう言われてもなかなかジェニファーは手を伸ばせない。
(それなら……)
ジェットは腕を伸ばして手近な壺を取ると、それをジェニファーの手に触れさせた。
「!?」
『ほら大丈夫だって。落っことしてもちゃんと拾うし』
「は、はい、あの、あ、ありがとうございます! す、すべすべしてますね!」
『そうなんだよ。前はひび割れてがさがさしててね。この触り心地がたまらないんだよね』
「は、はい」
何度も撫でるジェニファーに気を良くしたジェットは、壺を戻すと額に手をかける。
『僕が修復して一番喜ばれたのは、この絵なんだよね。初代国王の肖像画なんだけど、修復する前は、これ人だよね?って思うくらいにぼろぼろでさ』
「は、はぁ……」
目の前で浮いているようにしか感じられない板の存在に、ジェニファーは曖昧な返事しか返せない。
『でも修復したら、さすが王様って感じの絢爛豪華な金張りで、国の至宝が蘇ったーって大騒ぎだったよ』
「そ、そうなんですね……」
『……? あっ』
ジェニファーの浮かない反応に首を傾げたジェットは、そこで初めて失敗に気付いた。
『ご、ごめんっ。何かジェニファーってあんまり目が見えないって感じがしないから、つい……』
「い、いえ、私こそ気のない返事になってしまってすみません……」
頭を下げるジェニファーに、焦るジェット。
『……じゃ、じゃあ僕の直した庭園の方に行くかい?』
「……はい、喜んで」
『それじゃあ手を……』
手を引こうと黒い手を差し出して、それがジェニファーには必要のない事だと気付いたジェットは、動揺を更に増した。
『あ、あははっ。じゃあ庭に行こう』
そして一通り庭を見て回って今に至る。
休憩させているジェニファーと城の使用人との話し声を聞きながら、ジェットは自室で深々と溜息をついた。
『これでジェニファーが目を治したいって言い出したらどうしようかな……』
ジェットは気付いていない。
自分が何故こんなにも動揺し、落ち込んでいるのか。
両親と離れる時に感じた痛みに似た感情に、ジェットはしばし思い悩むのであった。
読了ありがとうございます。
さぁ甘々の香りがしてまいりました。
次回もよろしくお願いいたします。