黒い怪物と盲目の少女の生活
黒い怪物ジェットと盲目の少女ジェニファーの生活が始まりました。
自分を人として見てもらいたいジェットと、既に普通の人間じゃないと気付いてしまっているジェニファー。
二人の関係はどうなるのか?
どうぞお楽しみください。
ジェニファーが来た翌日。
『わ、何これ……』
ジェットは任せた掃除の結果に驚いていた。
「……あの、ご主人様。至らない点がありましたらお教えください……」
『いや、至らないとかじゃなくて……。この部屋、毎日掃除をしてもらっていたはずだけど、まだこんなに埃があったんだ……』
ジェニファーの集めた埃に、心底驚いた声を出すジェット。
それはそうだろう。
ジェットの部屋は城の人々にとって、ある意味国王の部屋よりも価値が高い。
上手くいけばジェットの異能で大切なものを治してもらえるかも知れないとあれば、何としてでも成果を上げたいと思うのが人情だ。
そんな人々が必死に掃除した成果を、ジェニファーはあっさりと上回ったのだった。
「埃の匂いのするところを重点的に掃除しました。家具の下などはまだあると思いますが……」
『へぇ……。なら折角だし取っちゃおうか。はい』
「!? た、箪笥が宙に……!? あ、も、持ち上げてくださって、あ、ありがとうございます……! すぐに掃除いたします……!」
『慌てなくて良いよ。軽いし』
「え、軽、え……?」
目の見えないジェニファーには、音の反射で箪笥が宙に浮いているようにしか感じられない。
実際はジェットが腕を複数出して持ち上げているのだが、音を吸収するその腕は、ジェニファーには感知できないのだ。
『おぉ、ジェニファーの言う通り埃がいっぱいだね。じゃあ頼むよ』
「……はい……」
戸惑いながらもジェニファーは自分の仕事を全うせんと、箒を手にするのだった。
ただ、
(私の仕事を見てくださった……)
その冷えていた心に小さな温もりが灯った事を、ジェニファーはまだ意識していなかった。
お茶の時間。
ジェニファーは細心の注意を払って、ジェットにお茶を入れた。
『うーん、良い香りだ。……うん、味も良い』
「お気に召しましたでしょうか……」
『あぁ、大満足だよ。ジェニファーも一緒に飲もう』
「……よろしいのですか?」
『勿論さ。一人で味わうより二人の方が美味しいからね』
「……では、お言葉に甘えます……」
言われるまま、ジェットの前に座るジェニファー。
自分にもお茶を淹れ、ゆっくりとその香りを楽しむ。
(こんな高級な茶葉、家では、いえ町でも嗅いだ事はないわ……)
そして口をつけてジェニファーは驚いた。
(こんなに美味しいお茶なんだ……! でもこれならもう少し蒸らした方が良かった……? 香りだけではわからない事もあるのね……)
そんなジェニファーに、ジェットは菓子の皿を差し出す。
『ほら、これも食べてご覧。甘くて美味しいよ』
「……いただきます。……!」
口に含んだ途端、ジェニファーは思わず口元を押さえた。
『どうしたんだいジェニファー? 口に合わなかったかな?』
「……いえ、その、お、美味しすぎて……!」
働き詰めだった上に、稼いだお金は全て両親に渡していたジェニファー。
生まれて初めて食べる甘味に、心を奪われても仕方のない事だった。
『そんなに気に入ったのなら、残り全部食べていいよ』
「え、ありが、いえ、そんな、申し訳ないです……!」
『いいのいいの。僕は食べ慣れてるし、ジェニファーが喜ぶ顔が見れる方が嬉しいからね』
「……あ、ありがとうございます……!」
笑顔で受け取り、それでも恐る恐る口に運ぶジェニファーを嬉しそうに見つめるジェット。
(掃除もお茶の淹れ方も申し分ない。目が見えないことによる不自由もあまりないようだし、本人が言い出すまで目は治さなくても良いかな……)
そんな事を考えながら、ジェットはジェニファーの淹れたお茶を楽しむのであった。
読了ありがとうございます。
ジェットにとって自分の異能は、足が速いとか声が綺麗とか、その程度の認識しかありません。
なので隠す気はありません。
さてそれがどういう結果を生んでしまうのか……。
(ヒント:タグ)
次回もよろしくお願いいたします。




