黒い怪物と盲目の少女の出会い
いよいよ出会うジェットとジェニファー。
果たしてジェットの望む、一人の人として接してくれる関係は叶うのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
ジェニファーは父親に連れられて王城へとやって来た。
そこでジェットはにこやかに二人を出迎える。
『ようこそ』
「は、初めましてジェット様! ジェット様が目の見えない者を集めていると聞きまして、娘を連れてまいりました!」
『あぁ、ありがとう。それで彼女の名前は?』
「ジェニファーです! ほら! 挨拶をしろ!」
「……」
父親の言葉に、しかしジェニファーは答えない。
何度も何度も小さく音を出しては、その反射に驚愕する。
(何この人……! 服が浮いているみたい……! 顔や手のあるはずのところから音が返ってこない……! どうして……!?)
そんな態度に父親は慌て出した。
「お、おい! ジェット様に失礼だろ! ちゃんと挨拶をしろ!」
「っ……」
『おいおい、乱暴は良くない。僕は気にしないから、髪の毛を掴んで無理矢理頭を下げさせるような真似はやめてくれ』
「も、申し訳ありません!」
ジェットの言葉に父親は慌てて手を離す。
「あ、あの、ジェニファーは目は見えませんが、口から音を出して物の距離を測るとかで、見えてる人間と変わらない動きができます、へへ……」
『ほう、それは面白い。ジェニファー、僕と握手してくれるかな?』
「……はい……」
得体の知れない存在に怯えながら、ジェニファーはその手を握ろうと手を伸ばした。
しかし服の反射から当たりをつけるもその位置が掴めず、ジェニファーの手は空を切る。
「あ、そ、そんなはずは……! おいジェニファー!」
『まぁ良いよ。ジェニファーも急にお城に来て緊張しているんだろうしね』
「そ、そうですとも! 間違いありません! ……で、側仕えとしてはいかがでしょう……? へへへ……」
卑屈な声で問う父親に、ジェットは機嫌良く答えた。
『あぁ、雇わせてもらうよ。つい最近側仕えが辞めてしまったので丁度良かった』
「で、では支度金は……!」
『勿論支払うとも。後で城の者から支度金を受け取ってくれ』
「は、はい! ありがとうございます! じゃあなジェニファー! しっかり働けよ!」
「……はい……」
逃げるように立ち去る父親。
部屋を出る前にちらりと向けた顔には、ジェットへの恐怖とそこから逃げられた安堵が見られた。
ジェニファーへの心配はかけらもない。
『やれやれ……』
小さく肩をすくめると、ジェットはジェニファーに声をかける。
『それじゃあ今日からよろしくねジェニファー」
「……はい、ご主人様……」
『とりあえず今日は君が使う部屋を案内して、本格的な仕事は明日からにしよう』
「……はい。よろしくお願いいたします」
ジェニファーの表情に力はない。
先程までのジェットに対する驚きも、すでに収まっていた。
(この人が何であっても関係ない……。ただ失礼のないように仕事をして、目を治してもらうだけ……。そしてまたお父さんとお母さんのために働くんだ……)
そんなジェニファーの頭を、ジェットはそっと撫でる。
「!?」
普段なら感じられるはずの、物体の接近を感知できずに触れられ、びくりと身を震わせるジェニファー。
『あぁ、驚かせちゃったね。ごめんごめん』
なるべく優しい声を意識しながら、ジェットは頭を撫で続ける。
「……あの、何を……?」
『頭を撫でてるよ?』
「……いえ、それはそうなのですが……」
『随分と大変な思いをしてきたみたいだね。でももう大丈夫だよ』
「……」
その言葉にジェニファーは身を固くした。
(この人も私が『目の見えない人間』という同情で接してくるんだなぁ……)
その様子にジェットは悩む。
(うーん、やっぱりあんな子どもを売り渡すような親でも、ジェニファーにとっては親だもんなぁ……。辛いよなぁ……。もっと優しくしてあげないと)
お互いにずれた感想を持ちながらも、二人の王城での生活は始まったのだった。
『まずは服だ。好きなのを選んで、と言いたいところだけど、一つ一つ触って選ぶのも大変だろうから、今日は僕の趣味で選ばせてね』
「……はい、ですがその、ここは……」
『女性側仕え用の衣装室。今度暇な時にあれこれ触ってみて、気に入ったのがあれば着ていいからね』
「はぁ……」
音の反射で部屋の広さと服の多さに圧倒され、呆然とするジェニファー。
それをジェットはじっと見つめた。
(服の破れやほつれは完璧に補修されている……。でも糸が白糸だから継ぎが目立つ……。ジェニファーの目が見えないから、染めていない安い糸で直したんだな……)
そんなジェニファーの両親への静かな怒りはお首にも出さず、にこやかに服を勧める。
『とりあえず侍女服で良いかな? 動きやすいし働きやすいと思うけど』
「……はい。あの、少し時間をいただければ、着方はわかると思います……」
『あぁ、着せてあげるよ』
「え?」
言うなりジェットが無数の細い黒い腕を、身体から伸ばした。
音もなく侍女服を分解すると、ジェニファーに纏わせて『負』を吸い取る。
同時にジェニファーの服をばらばらにして抜き取ると、同じように『負』を吸い取り元通りにした。
『はい出来上がり。うん、似合っているよ』
「え、あの、い、今のは……」
『まぁ手品みたいなものだよ。はいジェニファーの服。まぁこれはしまっておいて』
「……はい……」
ジェニファーは絶句する。
内職で鍛えられた指先が、布の状態の変化を一撫でで伝えたからだ。
(布が生き返ったみたい……。これが目を治すっていう不思議な力……!?)
そんなジェニファーの内心の動揺を感じ取り、ジェットは大げさにおどける。
『あぁ、大丈夫。君の肌身はちらりとも見てないからさ』
「いえ、その、ありがとうございます……」
『……?』
目を治す前に自分の異能が気付かれたとはかけらも思わず、身を強張らせるジェニファーにジェットは首を傾げるのであった。
読了ありがとうございます。
ジェットの身体は音を吸収してしまうので、反射音を頼りにしているジェニファーからすると透明人間みたいな扱いになってます。
なので触手うにょうにょも感知できていません。
しかし他の人間と明らかに違う事は気付いたジェニファー。
ジェットの望みはどうなるのか?
次回もよろしくお願いいたします。