『盲目の少女』ジェニファーの物語
ジェットは自分を人として見てくれる人を探すために、盲目の人を側仕えに雇います。
しかし目を治すと決まって自分の元を去ってしまうジレンマ。
そんなジェットが出会う盲目の少女とは……。
どうぞお楽しみください。
ジェニファーは生まれながらに盲目だった。
そして生まれたその家は貧しかった。
何もできない娘を養う事はできない、と両親は目が見えなくてもできる内職を教えた。
するとジェニファーはあっという間にその仕事を覚え、熟達し、その働きは家計を支えるまでになった。
娘の内職で生計が立つと知った両親は、どんどんジェニファーに仕事をさせた。
それだけではなく、家事も教え、内職の合間に食事の支度や洗濯などもさせるようになった。
「お前は目が見えないんだ! だからいっぱい働かないといけないんだよ!」
「……はい、お父さん……」
ジェニファーは口答えする事もなく、黙々と仕事をこなした。
そのうち、ジェニファーは不思議な事をするようになった。
目が見えないはずなのに、物の位置をわかって避けたり、取ったりする事ができるようになったのだ。
「……お前、目が見えているのか?」
「いえ、口から小さい音を出して、その跳ね返って来る感じで何となく物の場所がわかるようになったんです」
「……そ、そうか……」
薄気味悪いと思いながらも、ジェニファーは家の稼ぎ頭。
両親はこれまで以上に、あれこれ仕事をさせるようになった。
「ジェニファー、買い物に行っておいで」
「……はい、お母さん……」
ジェニファーは、音で物の形や動きはわかっても、文字や値札はわからない。
それでもジェニファーは文句も言わずに買い物に出た。
「あの、お姉さん」
「何だいお嬢ちゃん」
「私、目が見えないんです。八百屋さんに連れて行ってくれませんか? それとお値段も教えてもらえると助かります」
「そりゃ良いけど、じゃあ何で私が女だってわかったんだい?」
「女の人の匂いがしたから……」
こうしてジェニファーは、買い物もこなすようになり、街の人からちょっとした評判となった。
「お、ジェニファーちゃん」
「お肉屋のおじさん、こんにちは」
「今日は何か買っていくかい?」
「はい、じゃあ……、鶏肉をください」
「お! お目が高……、っと、良いのが入ったのわかるんだねぇ。目が見えないのに大したもんだ!」
「いえ、そんな……。おじさんがいつも美味しそうな匂いのするお肉を仕入れてくれているからです……」
「っかー! 嬉しいね! ちょっとおまけしちゃう!」
「ありがとうございます」
そうして優しく接されると、ジェニファーは内心で複雑なものを感じる。
(私が目が見えないから、皆優しくしてくれる。でも私には『見える』という事がわからない。何がそんなに評価されているんだろう……)
明かりのない闇の中、両親の寝息を聞きながら内職を続けるジェニファー。
(お父さんとお母さんは、『お前は目が見えないのだから人より頑張らないといけない』と言う……。でも町の皆さんは『目が見えないのに偉いね』と言う……)
考えながらも手は止まらず、見事な細工を作り上げていく。
(私はどうあるのが正しいのだろう……。頑張って生きるの? 同情されて生きるの? それともそれ以外の生き方があるの……?)
深夜を過ぎてもジェニファーは、ただただ両親の糧の元を作り続けていた。
ある日の事。
「おいジェニファー! お城に行くぞ!」
「え、お、お城に……?」
父親の突然の提案に、ジェニファーは戸惑った。
しかし父親は構わずまくし立てる。
「あぁ! 何でもジェットっていう偉い人が、目の見えない奴を側仕えに雇ってるって話だ!」
「目の見えない人を……?」
「しかも、だ! そいつは不思議な力を持っていて、雇った奴の目を片っ端から治しては、元の家に帰しているらしい!」
「目を、治す……?」
「お偉いさんの道楽はわかりゃしないが、側仕えになるだけで支度金も出るし、その上目を治してもらって帰って来れりゃ得しかないだろ!」
「!」
父親の言葉にジェニファーは息を呑んだ。
恐る恐る、といった様子で父親に問いかけるジェニファー。
「……お父さんは私に目を治してほしいの……?」
「当たり前だろ! そうすればもっと稼ぎの良い仕事ができる! 俺達も楽ができる! 最高だろ!」
「……うん。わかった。私、お城に行く……」
「よーし! そうと決まれば早速行くぞ!」
上機嫌な父親は気が付かなかった。
ジェニファーが何かを諦めたような表情をしている事に……。
読了ありがとうございます。
ジェニファーはフランス語の弟切草を意味するjeune frèreから取りました。
花言葉に『盲目』と入っていたので……。
次回はいよいよ二人の邂逅編になります。
よろしくお願いいたします。