黒い怪物と盲目の少女の幸せ
心通じ合ったジェットとジェニファー。
そんな二人が最後の試練を迎えます。
どうぞお楽しみください。
世界の『負』から生まれ、人と出会い、優しさを得た黒い怪物ジェット。
人や物から『負』を吸い取り、怪我や病気を治したり、傷や劣化を直したりする異能を持ち、城に住む事を許された存在。
国王に次ぐ権力を持ち、穏やかで何事にも動じず、城の誰もが敬い畏れる。
それがジェット。
そのジェットが、恐怖に震えていた。
『……ほ、本当にするのかい?』
「はい。お願いします」
『……べ、別に今のままでも不便はないんだし、見えなくても良いじゃないか……』
「駄目です。『目が見えるようになっても、その側を離れない』という評判が必要なんです。そうでないとご主人様は怪物扱いのままです」
『僕はどう思われても平気なんだけど……』
「私が嫌なんです」
『……でも驚くと思うし、後悔するかもしれないよ……?』
「大丈夫です! 私はご主人様がどんなお姿でも、離れたりしません!」
『……わかった。信じるよ』
ジェニファーの言葉に決心がついたのか、ジェットはジェニファーの額に手をかざす。
ジェニファーの中の『負』が吸い取られて、そして……。
『……ゆっくり目を開けてご覧』
「……はい。……あっ」
刷り込み、というものがある。
生まれて初めて見たものに心惹かれる現象。
「何て素敵……」
『えっ』
ジェニファーはうっとりとジェットを見つめる。
ジェットは最悪ジェニファーが失神する可能性まで覚悟していたので、好意的な反応に頭が追いつかない。
『え、あの、ジェニファー?』
「はい……」
『えっと、怖くない?』
「何がですか?」
『えっ』
「えっ」
『いや、ほら僕って普通の人と違うでしょ? 目とか口とかないし』
「はい」
『いや「はい」って……。その、まぁ、怖くないなら良いんだけど……。えぇ……?』
恐怖される事に慣れてしまったがために戸惑うジェットの手を、ジェニファーが優しく握る。
「私、初めて会った時から、ご主人様が普通の人とは違う事、わかってました」
『えっ』
「だって音が返って来ないんですもの。最初は誰もいないところから声だけ聞こえて来るようで怖かったです」
『え、あ、そ、そうだったの? ごめん、全然気がつかなくて……』
「でもいいんです。だからこそご主人様のお優しさや暖かさをより深く感じる事ができたんですから」
『ジェニファー……』
愛おしさからジェニファーを優しく抱きしめるジェット。
ジェニファーはそれに応えるように、ジェットの背に手を回した。
『これからもよろしくねジェニファー』
「はい、ご主人様」
『……あー、その、僕的にはジェニファーは側仕えというより、もっとこう、家族みたいな気持ちでいるから、ご主人様じゃなくて……』
「……では、ジェット様、とお呼びしても……?」
『様もいらないよ。ね? ジェニファー?』
「……はい、ジェット……!」
呼び合うと二人は再び強く抱きしめ合う。
人に拾われ、人を愛し、それでも人から恐れられ続けたジェット。
目が見えないがために、努力を望む形で評価されなかったジェニファー。
二人の運命は重なり、そして長い長い幸せを奏で始めるのであった。
読了ありがとうございます。
刷り込みのくだりをやりたかっただけなのに、全十話になってしまった。
これはジョ◯ョにも言えん秘密よ……。
お楽しみいただけましたら幸いです。
秋月 忍様、素敵な企画をありがとうございます!




