99. ミーミルさんとお話
立って見るお庭の風景と、座って見るお庭の風景は、少し違って見えました。
白い砂利に、いろいろな模様が描いてあるその先に、植え込みや岩があったのですが……
低い位置から見ると、ちょうど目線の高さくらいに、桃色の花が見えるようになっていました。
すごいですね! 工夫がこらされていますね!
「ぬふふ……ユウナ。見事だろう? 俺様が選んだ場所は」
リーグ王子が、ものすごく胸を張っていました。得意げです。ドヤ顔というのですかね?
でも……お城勤めのひとがお手入れとかしてる気がするんですけどね……? 王子はたぶん……そんなことしそうにないんですよねぇ……。
「……すてきなお庭ですね」
「うむうむ! そうだろう、そうだろう! はっはっはっ!」
うーん。お庭の感想を伝えてみたら、なんだか機嫌よさそうにしてるし、これでいいのかな?
それにしても、ミーミルさんはいつ来るんでしょうか……。
私は何を聞かれるんですかね?
むー。やだなぁ。景色でも見ておちつこう……。
あ……!
「あ、ねえ、リト! あれ見て! リトの色だよ!」
「……あ、ほんとだ」
お庭の一角に、水色の花を咲かせている木がありました。
濃い緑に囲まれていたその花は、かわいらしいサイズ感です。
なんだか控えめな感じですが、とても綺麗に咲いていて、リトの雰囲気にピッタリでした。
「お、おい。ユウナよ。俺様が目の前に座っておるぞ? 庭などもうよいだろ? 俺様と話そうではないか。今茶をだな……」
リーグ王子はそう言って、パンパンと手を叩きました。
すると、スッと女性が現れました。毎回毎回、なんでこんな登場なんですかね……。忍者みたいです。忍者、見たことはないんですけど。
その女性は、音もなく現れたわりに、ワゴンみたいなものを押していました。
ワゴンにはなんだか色々と乗っているようですね。ポットとか、お茶菓子とか……色々あるみたいです。
「ご用意いたします」
給仕の係のひとが、机にいろいろと並べていきました。
まるいカラフルなお菓子? とか、ふわふわした感じのお菓子? とか、パンみたいなものに、お肉みたいなのとかがいろいろはさまった軽食まであります。
おいしそうですね……!
「おい。ユウナの好みそうなものは、ちゃんと用意したのか?」
「いえ、予測の範疇を超えておらず……といったところです」
「調査不足だぞ! 何をしておった!」
「王子こそ、直接お話する機会もあったでしょうに」
「なっ……!? そ、それを言うなぁ!」
「そういうところでございますよ」
腕をブンブン振り回して怒っているリーグ王子に、給仕のひとは冷静につっこみを入れていました。
なかなかハッキリいいますねぇ。もしかしたら、給仕のひとのほうが王子より強いのかも。
「ま、まぁよい。ユウナよ、足りぬものがあれば遠慮せずに言うがよいぞ! すぐに作らせよう!」
いいこと思いついた! みたいな顔をして、リーグ王子はこっちを見てきました。
あんまり見ないで欲しいなぁ……。
と、ちょっと困っていたんですけど。そんな時に誰か近付いてる気配がしました。
「はぁ……お待たせしまして……申し訳ありません」
ミーミルさんが……ちょっと疲れた顔をしながらやってきました。どうしたんだろ。
「む、ミーミルだったか? 我がユウナに用だったな。話があるなら早くしろ」
リーグ王子は、ちょっと不機嫌そうにプイっとしていました。
私、王子のものではないんですけどね? 変なこと言わないで欲しいです。
「ええ、せっかくの席をご用意いただきましたしね、王子のお邪魔はなるべくいたしませんよ」
ミーミルさんは王子に一礼すると、疲れた感じの笑顔を浮かべて、こちらを向きました。
「ユウナ姫様。改めまして、私はミーミル。アルヴ国言法部隊隊長です」
「あ、はい。ミーミルさん。えっと、姫ではないですけど……ユウナです。それで……お話ってなんですか? あと、なんか疲れてます? だいじょうぶですか?」
ミーミルさんも、年齢不詳な感じで、しゅっと整った顔立ち、アルヴ族らしく金髪碧眼です。
あまり筋肉質という感じでもなく、すらっとしています。
でも、身体のラインを隠すように、ふわりとした緑色を基調にしたマントみたいなものを羽織っていました。
おしゃれな感じもあるデザインですが、たぶん、戦闘を考慮しての装備なんだろうな……。
そんなミーミルさん。げんなりした様子が隠しきれていないのです。
「ははは……。お気遣いいただきありがとうございます。アーナ様には手を焼かされましてね……。それで……少々遅くなりました」
ミーミルさんは苦笑していました。
うーん。アーナたち、あれからまだ暴れてたのかなぁ……。レーナ王妃みたいに言法で捕まっちゃったのかなー。
「お聞きしたかったことですが……ユウナ姫様の追放の件は、伝え聞いております。ただ、その後のお話が……どうやら私の把握していることとずいぶん食い違っているようでして……まずは姫様からお話いただけないかと思いましてね」
えっと……それはどっちの話なのかな? 生まれたときかな? それとも、亡命のとき? んー……両方かなぁ?
「えっと……その後って? どういうことですか? 村での生活?」
「ああ、そうですね。ユウナ姫様の視点で、そこからお話いただいても……」
ミーミルさんは、ふわっとした笑顔でした。うーん。これぐらいのことを話すだけなら、別にいいのかなぁ?
ちらっとリトを見たら、コクリと小さくうなづいていました。
「あ、じゃあ、村での生活から……リトと仲良くなったところとかも話しますね!」
「はい。お願いいたします」
――――
――
それから、しばらく時間をかけて……村での出来事、そして、リトの樹拝の時の話、その直後に王家の兵に追われて殺されそうになった話なんかもしました。
ミーミルさんは、ときどき頭を抱えたり、眉間に手を当てたりしながら聞いていました。
「……お話いただきありがとうございました。しかし……ファーヴニルか……ヤツが王妃側だというのは薄々感じてはいたが……暴れる事だけが目的とは……これはずいぶんと厄介だな……」
ミーミルさんは、私たちの話を聞き終えると、すっかりと考え込んでブツブツと呟いていました。
でも……ファーヴニル副長、すごく嫌な名前です。
私も、話しながらあの時の思い……恐怖や、悔しさや、なんだか分からない感情が、ぐるぐると……ふつふつと……込み上げてきてしまいました。
「ユウナ姫様、ひとまず貴女の存在は秘匿いたします。現状で、あちら側へ伝われば……スヴァルトをも戦火に巻き込むことになりましょう。それは、最悪の事態。避けねばなりません」
「あ、え? いいんですか?」
なんだか、ミーミルさんはとても真面目な顔をしていました。
私は居場所がバレちゃって、大変なことになるんだと思ってましたけど、ちょっとちがったみたいです。
「ふぅ……。まさか、ラーズ王……ここまで考えた上での対応だったのだろうか……深謀遠慮……はかりしれぬお方だ……」
ミーミルさんは、やっぱり小声で驚いていました。でもほんとにそんなふうに考えていたのなら、ラーズ王ってやっぱりすごいんですねぇ……。
「おい、話は終わったか?」
「ああ、リーグ王子。お待たせいたしました。ひとまず今日のところはこのくらいで……まだ色々とお聞きしたくはありますが、また後日で結構です」
ミーミルさんはそう言って深々と王子に頭を下げました。
後日、後日ですかぁ……。またお城に呼ばれるんですかねぇ……。それはやだなぁ……。
「では、これにて失礼……」
「おう、早く去れ」
ミーミルさんが戻ろうとしたとき、私は閃いたのです!
「あ、待ってください! せっかくだし、ミーミルさんもお茶会していいですよね? 王子?」
「は?! な、なな、なんだとう?!」
「え、ダメなんですか? じゃあ、私もお話すんだし、帰ろっかなぁ……」
「な?! ま、まま、まてまて! よい! よいぞ! ミーミル、座れ、座るのだ!」
「は、はぁ……、では、失礼して……」
そうして、和やかとはちょっとちがうけど、4人でお茶会をしました。お城のお料理もお菓子も美味しかった!




