98. お茶会……!?
ついに、アーナやお付きのひとだけではなく、言法部隊長ミーミルさんにまで、私の正体がバレてしまったようです!
アルヴ国については詳しく分かりませんが、たぶん、国の重要なひとだと思うんですよね……。
会談の時の感じだと、レーナ王妃側ではないとは思うんですけど……
とはいえ、お父さんだって信じていいものか分からないのに、その側近? のひとなんてもっと危ないかもです。
「……ふぅむ。ラーズ王……やはり侮れない御方ですね……」
ミーミルさんは顎に手を当てて、そんなことを言っていました。
「ユウナ姫。少々お尋ねしたいことがありますので、ご一緒いただけますか?」
そう言ったミーミルさんの表情は、やわらかい笑顔ではありました。
でも、その笑顔の裏に何かあるのかも……?
私が言いよどんでいると、スッとリトが一歩前に出て、
「……ゆ、ユウナに何かする気ですか……?」
と、言いました。
「リト」
「このひと、かなりの力を感じる……ユウナは不利だと思うから……わたしがなんとか……」
リトには、ミーミルさんの実力が、なんだか分かるようでした。
私には精力の流れだとか強さだとかは分からないので、出たとこ勝負だし、詠唱の隙をつく戦法しかないんですよね。
リトの言うように、不利なのかもしれませんね。
「おっと……水色髪のお嬢さん、ユウナ姫に危害を加えるつもりはありませんよ。それに、私もあなたに無傷で勝てる未来が見えませんからね。ご心配ならあなたもご一緒にどうぞ」
ミーミルさんは、スッと両手を上げながらそんなことを言って、フッと頭を下げました。
「おい! 貴様! 俺様を差し置いて勝手に話を進めるな!」
そんなミーミルさんに、リーグ王子は相変わらずな感じの反応です。
「これはリーグ王子、失礼いたしました。せっかくですから、庭園でお茶会でも開かれては? レディがたも喜ばれましょう」
やっぱりミーミルさんは冷静な感じで、変なことを言い出しました。やめてください。
「む……貴様、なかなか良いことを言うな。ん? でも貴様も参加するつもりなのか?」
「いえいえ。私はユウナ姫に聞きたいことがあるだけでございますよ。アーナ様を放置もできませんしね……」
ミーミルさんは、チラリとアーナたちに視線を向けました。
「むっ! ミーミルはなまいきなのだ! えらそうなのだ! きらいなのだ! ばーかばーか!」
暴言を投げつけるアーナに、ミーミルさんは小さく苦笑い。軽く両手を広げました。
「ご覧いただいている通りですよ、リーグ王子」
「う、うむ」
さすがのリーグ王子も、引き気味にあきらめ顔でした。
「まぁ、そういうことならば仕方あるまい。よし、茶会といたそう。さぁユウナ! 行こうではないか!」
でも、なんだか急にやる気に満ちた顔をしていました。すごく嫌ですね……。
「あの、私たちは探検に行くところなんですよ。ほら、ムクとロラもいますよ?」
ムクとロラと、ムクの上にちょこんとエメが乗って、少し離れたところからじーっとこっちを見ています。とてもおさんぽを楽しみにしている犬のようです。
「む? そんなもの、茶会の後にすればよいではないか。ミーミルとやらも話があるそうだぞ? 今後に障るのではないか?」
リーグ王子は、にやぁーっとしながらそんなことを言いました。いつもの脳筋はどうしたんですか! こんな時だけラーズ王っぽくしないでください!
「ふふ。ユウナ姫。御身に害することはありませんよ。ご安心ください」
ご安心くださいと言われましても……ミーミルさんはアルヴ国の王家に仕えるひとですからね……?
「ユウナ……どうするの?」
「むー。行くしかないっぽいよね……すごーくヤだけど……」
ダメだとは思ってるんですけど、大きなため息が……。
「ムクたちも一緒でいいですよね?」
「む、まぁよかろう」
なんだかリーグ王子はしぶしぶといった顔でした。なんでですか。
――――
――
南に向かうはずだった私たちは仕方なく、本当に仕方なく……交差点を右ではなく左に曲がって、北の王城へ向かいました。
そして、お庭に案内されました。
「……わぁー! すごー! 見て見てリト! すごいよ!」
「……ちょ、ゆ、ユウナ、そんなはしゃいだら……」
「キュアー!」 「キュッ! キュイッ!」 「クエーッ!」
緑のフカフカした地面に、整えられた背の低い木、色とりどりの花壇、広くてとっても素敵なお庭でした!
ムクたちも喜んでます! とてとて走って嬉しそうですね!
「ユウナ姫様、お席はあちらにご用意してございますが……」
お城勤めのスヴァルトの女性が、案内してくれるようです。
今、リーグ王子はなんだか係のひとに任せてどこかに行ってしまいました。
そしてミーミルさんは、アーナたちを逃がさないようにしてくるとか言って、やっぱりお城の中に行ってしまいました。
なので! つかの間の自由なのです!
とはいえ、呼ばれてしまったので、ついていかないと案内係のひとに迷惑をかけてしまいますからね。
しぶしぶついて行くのです……!
広いお庭を奥に進むと、さっきまでの洋風に近いお庭の風景からガラッと変わって……
和風庭園みたいな、お城の見た目にピッタリなお庭がありました。
空気まで変わったみたいに、しんと澄んでいるようでした。
「あちらで王子がお待ちです。ルクたちはお預かりいたしますので、どうぞお進み下さい」
「あ、はい。ありがとうございます。……リト、いこっか」
「う、うん……」
真っ白な砂利がしきつめられたお庭に、黒い石の足場が造ってありました。
その上をとことこ歩いて進むと、赤い大きな傘が立っていて、その下に木製のテーブルとベンチのようなものが。
ベンチは、上に布のようなものが敷いてあるようです。
奥側のベンチに、リーグ王子が座っていました。
「おお、ユウナ。来たか。」
リーグ王子、何しに行ったんだろうと思ったら、着替えてきてたんですね。
いつもは高そうな服を着ていることが多いのですが、さっきもそうだったんですけど、今は和服姿です。
「さぁさぁ、座るがよい!」
リーグ王子は、なんだか嬉しそうなんですが……
ミーミルさんはまだですか?
私は、ミーミルさんに強引に連れてこられたんですよ!
リーグ王子に用はないんですけど?!
とはいえ、立ったまま遠巻きに待っているのも、なんだかおかしい気もするので、リトとアイコンタクトして、大人しく座ることにしました。




