97. スヴァルトの流儀には注意しましょう
今世の妹 (腹違い) アーナが、ヘッドスライディングで颯爽と (?) 登場して、泣き叫んでいたので、リトが治癒術を使って治したのですが。
そのアーナが、よけいなことを言ってくれちゃったので、リトが怒りそうになっちゃって。
つい、手を握ったら。
「いま、ユウナといったのだ! そのさくらいろがユウナなのかっ!」
「ええ、確かに聞こえましたね……。行方不明だったのでは……? まさかスヴァルトに流れていたとは……」
すっかりバレてしまったようです!
ど、どうしよ……! こ、困ったなぁー……。
「どうしたのだ! こたえるのだ! おまえっ! むのうひめユウナなのかっ!」
アーナは、なんだかチワワみたいに見えました。
そういえば、この世界では犬って見てないですねー。狼しか見たことないです。
「……ユウナはっ……! 無能なんかじゃありませんっ!」
そして、リトが完全に怒ってしまったみたいで、大きい声を出していました。
「ひぇっ?! た、たびびとなんかがえらそうなのだっ!」
そんなリトの勢いに、アーナはびくっとしていました。
「水色のあなた。アーナ姫を相手に、ずいぶんな態度ですわね?」
お付きのひとの目付きが鋭くなりました。
ちょっと、マズいかもですね……。
「あのー、いちおう、私、ユウナです。でも、別に姫ではないので。」
私は、すっとリトの前に出ながら、仕方がなさそうなので、話すことにしました。
「ん? ユウナだけどひめじゃないのだ? どういうことなのだ?」
「村人で、旅人のユウナですよ」
アーナは首をかしげていました。やっぱりチワワみたいですね。
薄い金髪で、碧眼、線の細い感じの顔立ちは、一般的なアルヴ族って感じです。
お父さんとレーナ王妃の娘って感じですね。
「そうですか。やはりあなたが無能姫ユウナ……何故生きてここへ……」
お付きのひとがそこまで言ったあたりで、タッタと走る足音が聞こえてきました。
「おーい! そこで何をしておる!」
そして、それはとても聞き覚えのある声でした。
「あ、まずいのだ、エリッカ」
アーナがそう言った時にはすでに、お付きのひとがアーナを抱えて立ち上がっていました。
「ん? ユウナではないか。なんだ、一緒にいたのか?」
はぁ……。なんの試練なんでしょうか、これ。
前にはアーナ、後ろにはリーグ王子。ひどいありさまです。
「いや、一緒にいたというか……たまたま偶然ぶつかりそうになっちゃって……」
あんまり話したくはないのですが、しかたありません。いちおうリーグ王子にも事情を話しておかないと、変なふうに伝わるとよくないかもなので……。
と、思っていたら。今度はアーナたちが、そろーっとこの場を離れようとしていました。
「む?どこへ行くのだ、アルヴの者よ。」
「はぁっ?! ま、まずいのだ! きづかれたのだ!」
「アーナ様、ここは諦めましょう……」
飛び上がりそうな声を上げたアーナでしたが、お付きのひとは、少しうなだれているようでした。
お城で何かあったのかな?
うーん……。
気にはなるけど、関わりたくはないし……このまま探検にいこ。
うん。それがいいよね!
「アルヴの者よ。先ほどの無礼は忘れておらぬぞ? 決闘を受けたのではなかったのか? 逃げるとはどういう了見だ?」
え゙っ゙……?!
そんなことしてたのぉー?!
おどろきとともにリトを見たら、すっかりあきれ顔をしていました。
リーグ王子は、いつもより低い声でした。
ヴィスナさんと決闘をしてたときは、もっとムキになってる感じでしたが、なんだか今日は圧があります。
「ふ、ふんっ! おまえっ! おうじのくせに、ひんがないのだっ! けっとうだとかしらんのだっ! ひとりでかってにやってろなのだっ! やばんなスヴァルトめっ! ばーかばーか!」
そんなリーグ王子に、アーナはこんな感じだったんですねー。
いや、いろいろ納得ではあるんですけど……。
「またしても侮辱しおってぇ……! ちょうどよいわ。もう少し歩けば訓練場がある。俺様を侮辱したことを……たっぷり後悔しながら逝くがいい!」
リーグ王子、だいぶ悪役みたいなんですけど……大丈夫ですかね? いちおう美形の第一王子なのに……。
「ひぇっ?! え、エリッカ! な、なんとかするのだっ!」
「ええっ?! そ、そんな……わたくしではさすがに……」
アーナとお付きのひとは、リーグ王子の迫力にすっかり気圧されてしまったようで、青くなっていました。
これは、脱出チャンス……?
「はっ! そ、そうだっ! むのうひめユウナ! おまえがやるのだ!」
……えっ?!
「おまえはむのうひめだから、やられてもいいのだ! すごくいいかんがえなのだ! あたくちのかわりにしんでこいなのだ!」
「さ、さすがアーナ様! 素晴らしいお考え! どうせすぐ寿命の尽きる無能姫ですからね! 最期にアーナ様のお役に立つことこそ名誉というもの!」
なんだかアーナが変なことを言い出したんですけど……? お付きのひともすごいなぁ……。
それを聞いていたリーグ王子が、ぷるぷると小刻みに震えて――
「……な、貴様らぁ……スヴァルトの誇りを汚すに飽き足らずぅ――」
と、言いかけたのですが。
「……何を勝手なことを言うんですかっ!!」
リトが、かき消すように、すごく大きい声を出しました。
「ひぇっ?!」
リーグ王子なんかより、リトの方が怒ってました。
とてもマズイかも。なんだか風が吹き出した気が……
風の象言法……クマさんの首飛ばしたやつだよね?!
「リト! いいから、ね?」
そっとリトを後ろから抱きしめました。
「……ユウナっ……でもっ……! あんな勝手な……! わたしっ……! 許せないよ!」
でも、リトはやっぱり怒ってて。
「こ……これが噂の……」
リトの巻き起こす風が……だんだん強くなってきて、リーグ王子も驚いていました。
「な、なんなのだ?!」
「これは……精力の奔流……?! こんな力……」
そして、アーナとお付きのひとも驚いていました。
「……これは、凄まじい力ですね。」
そこに、もうひとり……現れたみたいでした。
……気配が、分からなかった。
「ミーミル様!」
「む、ミーミルか……」
「アーナ様、そしてエリッカ。スヴァルトに入る前に散々ご説明したでしょう? ご理解頂けておりませんでしたか? スヴァルトの流儀。郷に入っては郷に従え、ですよ。各村にも独自のしきたりがあるんです。国ならなおさらだということです。」
ミーミルさん、言法部隊長でしたっけ。
あの気配の消し方……お母さんみたい。
「ミーミルはえらそうなのだ! きらいなのだ!」
「はぁ。そうですか。それはいいのですがね。だとして、アーナ様とエリッカで、この場を収められると?」
そして、かなり冷静なひとみたいですね。
「水色髪のお嬢さん。どうか力を抑えてもらえませんかね? そのままですと、この場の全員が傷付く……いや、生命を失うことになる……」
ミーミルさんは、リトに向き直って、深々と頭を下げました。
「え、あ……は、はい。」
リトの身体から、フッとりきみが消えました。いつものやわらかいリトです。よかった……。
「して、ユウナ姫ですか……。なるほど……」
うわぁ……ヤバいひとにもバレちゃったかもぉー……。
ミーミルさんは、ガッツリこっちを見ていました。
私、探検に行こうとしただけなのにぃー!?




