96. アーナ登場
スヴァルト王都の街で、一番大きな交差点。
お出かけを楽しみに歩いていた私たちを襲った、突然の悲劇 (?)
ナゾの幼女突撃事件勃発?!
ズザーっと派手にヘッドスライディングをしていた幼女は、ピタッと止まって動きません。
「あ、だ、だいじょうぶ……?」
と、おそるおそる声をかけたのですが……
「ひっ……姫様ぁー!!」
という大音響でかき消されてしましました。
「「ひめさま?!」」
そして、リトと驚きの声がハモッてしまって、2人顔を見合わせます。
リトも、とてもぽかんとしています。
「ね、ねぇユウナ、いま、ひめさまって……」
「う、うん。きこえた……」
ちょっと……いや、だいぶ嫌な予感がしまくりです。
は、早く逃げたほうがいいかな……?
「姫様っ! ご無事ですかっ!」
アルヴ族の女性が、道に寝たままの幼女に駆け寄りました。
「うう……うああああああああん!!!!! いだいのだぁぁぁぁぁ!!!!!」
そして抱き起された幼女は、泣き叫びました。
ひぇぇ~~~~!? こ、これ私マズいんじゃ……?!
どどどどうしよおおおおおおおお……
「姫様っ! お気を確かにっ! そのようなことではアルヴ国を治めるなど到底適いませぬ。いまこそ王族の威厳を、威光を示す時でございますよっ!」
おそらくお付きのひとなんだろうアルヴ族の女性は、どうにも無茶ぶりをしているようすでした。
「いだいのだぁぁぁぁぁ!!!!! いだいのだぁぁぁぁぁ!!!!!」
当たり前なんでしょうけど、幼女は泣き止みません。
「あ、あのう……わたし、治癒術得意なので……治癒しましょうか……?」
リトがおずおずと幼女たちに近づきながら、声を掛けていました。
うーん、いいのかなぁ……?
まぁ、リトだけなら正式な旅人だし、いいんだろうけど……私は亡命者だし、あんまり関わるとよくないような気がするけど……
でも、ちっちゃい子が怪我してるし……
と、いうか……たぶん、あの子が私の妹なんだよね……?
ものすごーーーくまずい気がするなぁ……。
「え? アルヴ族の方が、なぜここに?」
振り返った女性は、やっぱりな質問をしていました。
「あ、わたしたちは旅人で。ほら、ルクもいます。」
リトはニコニコと、そんなことを言っていました。
「そうなのですか。珍しい髪色ですね。水色ですか……」
「あ、はい。そうなんですよ」
リトの髪色は珍しい……というか、同じ色をしたひとはまだ見たことがないです。
その女のひとはそんなことを言いながら、ふいっとこっちを見ました。
「あら、お連れ様も、ずいぶんと変わった髪色ですね。桜色ですか……」
「あ、はい……私もちょっと珍しい色なんですよねー……あははー……」
……なんとかごまかせたかな?
「え? 桜色? まさか……あなた……」
アルヴの女性が、ものすごーく怪しむような視線を向けてきた、その時……
「いだいのだぁぁぁぁぁ!!!!! いだいのだぁぁぁぁぁ!!!!!」
幼女がうるさくなりました。
「ああ、もう、姫様! すいません、旅の方。治療していただけますか?」
「あ、はい。」
そして、リトの象言法 による治癒術です。手を傷に当てて、ふわっと光ったなーと思ったら、一瞬で擦り傷が消えていました。
相変わらずのすごさ!
ゲイル部隊でも絶賛されてましたからね!
「おお? いたくなくなったのだ! おまえすごいのだ! ほうびをとらすのだ!」
「あ、いや、ほうびとかは大丈夫なので……」
復活した幼女は、なんだか偉そうな感じでした。
「なにをいうのだ! わたくち、アルヴのあととりなるぞ! ちゅうぎにはむくいろと、おとうさまにいわれておるのだぞ!」
幼女、お付きのひとの腕の中で、とても元気そうでした。
見た感じ、人間の2歳児くらいの大きさですかね? 希望の木を植えてすぐだと、普通はこんな感じなんだなぁ……。
「あ、そうなんですね……でも、わたしは別に……」
リトは、とっても遠慮がちにしていました。あの顔は困ってる時の顔ですね……。
助けてあげたいけど、正直私の存在がバレちゃう方がマズイと思うんですよね……。
あの王妃の感じだと、下手したら戦争になるかもだし……。
「まぁまぁ、旅人様。こちらの御方は、アルヴの次期後継のアーナ様ですよ。旅人であるなら、繋いでおきたい縁でございましょう?」
お付きのひとは、そんなことを言いながらニヤッと笑っていました。
リトも、私の事情は全部知ってるので、アルヴの王室については、あんまりいい感情を持ってないような気がするけどなぁ……? あの時も、一緒に追われたわけだし……。
「わたしは旅人ではありますけど、スヴァルト国を中心に回っていますから、だいそれた縁はいらないというか……」
リトはだんだんと声が小さくなってしまいました。知らないひと相手だし、しかたないですね。
「ときに、そちらの方……」
ふぇ?! わ、私……?!
「あなたも、王家とのご縁は貴重だと思いませんか?」
あ、まだバレてない……?
「い、いやぁ? わ、私もちょっと……そんな……普通に暮らせればじゅうぶんなのでー……」
いやほんと! そっとしておいてください! も、もう探検行きたいし!
「んん? さくらいろのかみ……? きいたことがあるような……?」
あああ、なんか幼女まで……?!
「んー……」
幼女が首をかしげていました。コレはチャンスです!
「あ、じゃあ、私たちは街の外に用があるのでー……これでー……」
「あ、わたしも……これで……」
リトとアイコンタクトをしながら、そろーりとその場をあとに……
「む! どこへいくのだ! なまえぐらいなのっていかんか!」
あああ、脱出失敗! 幼女に気付かれてしまいました!
「ああ、アーナ様。桜色の髪と言えば、廃嫡となった姉君ですよ。」
「おお、そうだったのだ! えーと、ユウナだ! むのうひめユウナ!」
あああ、やっぱり知ってるぅー……!
たぶん、あのレーナ王妃だろうなぁー。
ふと、リトをみたら、ちょっとプルプルしていました。
あー……これ、怒ってるなぁ……。別に怒らなくってもいいのに……。
私が欠陥品なのは、変えられない事実なんだし。誰に何を言われたって、毎日がんばって生きればいいだけだし。
私は、リトが一緒にいてくれるから、それで幸せなんだけどな。スヴァルトのひとたちも、よくしてくれるしね。
と、そっとリトの手を握りました。
やっぱり、ちょっと熱くなってた。
「……あ、ユウナ……」
あ。




