94. え? なんだったんですか?
ラーズ王に呼ばれて色々お話をした日から、2週間くらい経ったその日。
私はいつものように訓練をしていました。
「――あ――な――」
もうすぐ訓練も終わりの時間。なんだか、街の入り口の方が、ちょっと騒がしかったような気がしました。
「ねぇ、リト。なんか聞こえなかった?」
「え? わたし……は……なにも……」
リトは、楯を構えながら、細剣を振っていたので、ちょっと息切れをしてました。
「そっかぁ……」
まぁ、大問題が起こったのなら、ゲイル部隊とかに出動命令出たりしてるだろうし、大丈夫だよね。
と、いうわけで、私も訓練バッチリと続けるのです!
攻撃をされた時を想定しながら、防御姿勢をとりつつ、流し、攻撃に移るという一連の動きの型みたいなのを、ゆっくり反復したり、素早くおこなったりする。
私は、神力の流れなんて分からないけれど、物理的な力の方向、その流れを考えて動くということを、お母さんから教わりました。
なので、得意分野なのです!
「おっし! 本日の訓練はここまで!」
少しして、ヴィスナさんの号令が響きました。
「「ありがとうございました!」」
みんなで気持ちよく挨拶をします。こういうのは、なんだか爽やかな気持ちになれますね!
「じゃ、リト、かえろっかー」 「うん。」
訓練場からリトと2人で歩き始めます。
楯隊は、哨戒任務に出たりはしないので、基本的にここで解散なのです。
なので、お家に帰ってお風呂に入ったら、自由時間みたいな感じなのです。
最近は、おさんぽしたり、ムクとロラの運動がてら、平原の方や河の方まで行ったりもしています。
時々は狩りでもとも思うのですが、私はスヴァルト王都の狩人ではないので、積極的に狩りをするのは控えているのです。
ひとのお仕事を勝手にとってしまうのは、よくないですからね。
今日は何しようかなー。
「ねーリト、今日はどうしよっか?」
「うーん。街の外はまだ何がどこにあるのか覚えてないんだよね……」
リトはなんだか、ぽわんとしていました。
でも、たしかに街の中もだけど、外も全然知らないんですよね。もう半年近くお世話になってるのに。
私にはあんまり時間がないから、それじゃあダメですよね。
「そっかー。そうだよねー。じゃあさ! 探検しようよ!」
「探検かぁ……そうだね! ごはん食べたらいこっか!」
リトはニコッと笑っていました。ものすごくかわいいですね!
訓練場に続く細めの道を抜けて、大きな道まで出ると――
「あ、ロタさん。」
ゲイル部隊のみんなが列になって歩いていました。殿はロタさんでした。
「あ、ユウナちゃんとリトちゃんか。今は楯部隊なんだっけ? 2人とも元気そうだねー」
ロタさんはバイザーを上げて、ニパッと笑ってくれました。
「ロタさん。こんにちは」
「こんにちは! 私は元気ですけどー……ゲイル部隊は訓練じゃなかったんですか?」
こんな時間に鎧を着こんで歩いてるなんて、なんかあったんですかね?
「あー、護送任務だね。しばらく境の待機施設に詰めてたんだ。さっきやっと帰還したんだよ。」
ロタさんは両手を広げていました。
「へー。たいへんでしたねー。おつかれさまでした!」
私はまだ泊まり込みの任務に参加したことはないんですよねー。
というか、そもそも正式な兵士でもなんでもないんですけどね……。
訓練に参加させてもらっているだけなんですよねー。
「いや、まだ王城までいくんだよ。それで今回の任務は終了だねー。」
「そうなんですねー。」
「おっと、みんなに遅れるからもう行くよ! またね!」
「はーい!」 「はい」
ガチャガチャと音を立てながら急ぎ足で、ロタさんは列に戻っていきました。
「なんだろうね? 護送任務って」
「うーん? あ、もしかして……」
と、再び歩き始めた私たちが話していると――
「ユウナ。」
どこから現れたのか、聞き覚えのある声が……
「先日は王城に来ていたそうではないか。なぜ俺様に声を掛けなかったのだ?」
おかしい……おかしいですよ?
私は……真面目に訓練を終えてお家に帰るところだったはずなのに。
なにやら困難が待ち受けていたようです……?!
「ユウナよ。どうした? 俺様話しておるぞ?」
スタスタと歩き出した私たちの横を、スタスタとリーグ王子がついてきて……顔を覗き込んできています。
どうしよう……な、投げ飛ばしとこうかな……?
このまま家までこられたらイヤだなぁ……。
あと、あんまりジロジロ見ないで欲しいな……。
なんだかちょっと気持ち悪いもん。
「……あ、あの……!」
その時リトがリーグ王子に向き合って口を開いたのですが――
「チッ……またしてもこの……」
それに明らかに機嫌を損ねたリーグ王子でした。
「――あ、兄上!」
そこにさらに誰かの声がしました。
「チッ……愚弟めが! 何しにきやがった!」
あー……パーティの時にいた、えーっと……ノーリ王子だ!
そうそう。ノーリ王子。そういえばあれ以来初めて見ますね? というか、街に来たりもするんですね?
中性的で、頼りなさそうな病み系なノーリ王子には、お昼に差し掛かったお日様の光が全然似合ってないですねー。
「なにって……今日は王より厳命されておるではないですか。必ず待機しておるように、と。忘れたのですか?」
「……む。そうだった。」
「それに、先ほどゲイル部隊とすれ違いました。おそらくはもう……」
「……あ! そ、そうか。マズイな……親父殿にまた……」
「兄上……親父殿なんて言うとまた……」
「うるさい! 俺様に指図をするな! この愚弟がっ! ……ユウナ、すまないが俺様は行かねばならんようだ。さみしかろうが、またいずれゆっくりと、だな。」
そう言ってリーグ王子は走っていきました。
「ユウナ姫様。いつもご迷惑をお掛けして申し訳ございません。急ぎますので、これで……」
そしてノーリ王子も早歩きで帰っていきました。
……え? なんだったんですか?
あっけにとられながらリトを見たら、やっぱりぽかんとしていました。
だよね。




