93. ラーズ王の授業……?
お父さんが帰ったあと、私はラーズ王に呼ばれました。
「ユウナ姫よ。どうであったか?」
いつもの執務室で待っていたラーズ王は、少しニヤリとしているような気がしました。真剣な圧感も出してるのですが、イタズラ好きが漏れていますね。
「どう、ってどういうことですか? 料理はおいしそうでしたね……」
料理……結局私たちにはなかったんですよね。お腹が空きました。早く帰ってリトとご飯食べよ……。
「はっはっはっ! そうきたか! ふむ。まぁ順番に聞くとするか。……ヴェイグやミーミルには勝てそうか?」
あ、そういう感じの質問でしたか……。
えっと、兵士長と言法隊長らしい2人でしたね。
身のこなしなどは隙もなく、かなり強そうでした。
言法もあるんだろうし、正直、いままでの武器術・格闘術だけでは無理だったと思いますが……
楯のあるいまなら、勝てないまでも……いい勝負にはなるかもしれません。
「……状況次第だと思います。」
ただ、ヴェイグさんは武力! って感じでしたが……
ミーミルさんは……言法がどれぐらいの威力なのか、どういう使い方をしてくるのか、このあたりがかなり左右しそうですね。
「ふむ。ユウナ姫からはそう見えたか……」
ラーズ王は少し目を閉じて、腕を組みました。
「ずいぶんと励んでいるようだな! はっはっはっ! あやつらも、400年に及ぶ研鑽であろうに。いや……日々励んでいるかは与り知らぬがな。それでもなお、ユウナ姫よ。お主の密度はずいぶんと濃いようだな。……それもまた、短き生の成せることなのだろうかな」
400年! すごく長いですね……!
「その昔、我らエルフがこの星に縛られるよりも前、人間という生命短き種族と、多少関わったことがあったという。脆き生命であったそうだが、日々を懸命に生きていたそうだ。ユウナ姫はそれに近いのやもしれぬな。」
人間! そういえば、転生してから見てないですね……。この星にはいないんでしたっけ。
星のどこかにいるという人間が、どんな感じなのかは知らないですけど……
うーん? でも私、前世は人間ではあったけど、なにも出来ない……ちゃんと動くことも出来ないくらいの身体だったから、鍛えるのがとても楽しいだけなんですよね……
そんなに立派な感じではないような……?
「どうした? そのような……眉間に皺など寄せて。」
「え? あ、すいません……」
ああー!? 変な顔しちゃってたみたい! はずかしぃ……!
「はっはっはっ! して、フォルセ王……レーナ妃はどうであった?」
「え? どうとは……」
ラーズ王は膝を叩きながら笑っていましたが、急にキリッとしました。
「どのように思った? 素直に述べればよい。」
「うーん……? レーナ王妃は初めて見ましたけど……聞いていた通りというか、それよりひどいというか……美人だけど、表情? なんかもったいないなーって。あ、もったいないと言えば、服とか宝飾とかも、やたらとゴテゴテギラギラしててもったいないなーって。」
「……そ……そうか……フォルセ王は……どうだ……?」
ラーズ王、なんだかプルプル小刻みに震えてる? どうしたんだろ。
「えっと……お父さんは、久しぶりに見た……というか、そもそもほとんど話したこともなかったので、あんな感じのひとなんだーっていうくらいで……特には……?」
「……ふむ。そうかね。……もし、アルヴとスヴァルトで争いとなったとしたら、なんとする?」
「ええ?! 戦争するんですか?!」
「仮定の話よ。フォルセ王のやりようが上手くいきさえすれば、起こりはせぬであろうがな。王たるもの、様々な可能性を視野に入れておくべきものよ。」
「はぇー。王様ってすごいんですねー。」
「はっはっはっ! そうでなくては国をまとめるなど出来ようはずもない。残念ではあるが、ここまでのフォルセ王は、見事に失敗しておると言わざるを得ぬ。残念であるがな。」
残念姫のお父さんは、残念王だった……?
ラーズ王、なんだか残念そうな顔です。大事そうに2回も言ったし。残念って。
「して、ユウナ姫よ。戦となれば、どうするのだ?」
「……ひとを殺すのは、嫌だなっておもいます。それと、アルヴの人だって、いいひとはたくさんいるんです。私のいたミュルク村とか……」
「ふむ。それで?」
「でも、スヴァルトにも、いいひとはたくさんいるんです。だから……死んだりしてほしくないです。……だから、攻められるようなことがあるなら、守ります」
「……うむ。そうか。ユウナ姫よ。それを小難しくしたものが、政治というものであり、国の成り立ちなのだ。」
「……政治」
「そうだ。ユウナ姫よ。守る、とはどうすることなのだ? 攻める、とは何だと思う?」
えっと……
ラーズ王の質問が、なんだか段々難しくなってきた気がします……!
「えっと、大事なひとたちが、ひどい目にあわないように、助けたり……? 攻める……? うーん……獲物をとる?」
「ふむ。感覚としては掴んでいるようだな。その個人的な感覚を大きくしたものが国なのだ。」
……なんだか勉強みたいになってきたような?
「国は、外敵から民を護らねばならぬ。飢えからも護らねばならぬ。快適に暮らせるよう、努めねばならぬ。そして、それらが自国で賄えぬ場合は、外に獲物を求めるのだ。その判断を下すのが国王である。」
「……な、なるほど……」
「とはいえ、アルヴヘイムにはエルフの国など、もはや2国しかないのだ。侵略など以ての外だ。それはフォルセ王も分かっておる。だからあのように狼狽えておったのよ。あのレーナ妃は、相当に愚か者であるわ。それに踊らされておったフォルセ王もまた、哀れなものよ。」
ラーズ王は渋い顔をしていました。うんざりしてるんでしょうかね?
レーナ王妃、リーグ王子よりひどかったもんなぁー。そんなひと初めてみましたねー。
ラーズ王もびっくりしたのかなぁ?
「余としても他国のことであるからな。これ以上この問題に立ち入ることは考えてはおらぬ。道理が通らぬ故な。あとはフォルセ王の成功を祈るのみよな。はっはっはっ!」
ん……? ラーズ王、笑ってますけど、あんまり笑いごとじゃないような……?
「じき、2週間もすれば、アーナ姫だったか? 妹姫もこよう。今日はこれにて下がってよいぞ。」
「……え? あ、はい。失礼します」
下がっていいということだったので、私は執務室を後にしました。
アーナ……この世界での妹。
あと2週間で来るんだ? 急いで移動したらそれぐらいで来れるんだ?
そっかぁ。
でも、なんでわざわざそんなことを私に……?
関係ないと思うんですけどね……?
そんなことより、なんだか難しい話だったけど、いっぱい教えてくれたラーズ王って、やっぱり親切なんだなぁ。
明日からも訓練がんばろーっと!




