表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/101

90. 美味しいものは平和への近道



 会食の会場に移動したアルヴの一行に先回りして、私たち警備部隊は配置につきました。


 

 ここの隠し間も、快適に隠れることができるのですが……ひとつだけ、重大な問題がありました。


 それは、ここが会食の会場の壁の中ということ。そして、裏手にはキッチンがあるのです。


 

 つまり……ものすごく美味しそうな匂いがですね……すごいんですよ!


 私は、この試練に耐えることができるのでしょうか……! お腹が悲鳴を上げそうで怖いっ!



 「こちらでございます。」


 「うむ。案内痛み入る。」



 おっと。ついにお父さんたちが案内されてきたようですね。


 護衛のひとは、ひとり王妃を連れて帰っていってしまったので、ヴェイグさん? ひとりになってしまったようです。


 相変わらず鋭い眼光で、部屋を見渡していますね。さすがに気付かれてはいないと思いますが……。



 「じきにラーズ王も参ります。今しばらくお待ちください。」


 「うむ。」



 お父さんは長ーいテーブルの端に着いています。横にはヴェイグさんが立っていますね。


 

 「お待たせしたかな。」


 ほどなく奥の扉からラーズ王たちがやってきました。

 

 あれ? 衣装を変えてきていますね。さっきまでは赤基調でしたが、黒基調になっていますね。なんでだろ。



 「いや、お気遣い痛み入る。」


 「うむ。では、給仕を。」


 ラーズ王が席に着き、係のひとに声をかけました。


 係の人がすっと扉の奥に下がって、すぐ。料理が運ばれてきました。



 大変です……! すごく美味しそうです!

 私、パーティの時もあんまり食べられなかったんですけど、きょ、今日もなんですかね?!


 あ、あとでもらえたりとか……するかな?



 「前菜にございます」


 すっと上品に並べられた一皿とカトラリー。

 箸は最初から置かれているのですが、お皿ごとに専用のカトラリーが置かれるようですね。


 

 「食前酒にございます」


 ガラスのような透明な細長い足つきグラスに、しゅわしゅわの薄金色の液体が注がれていきました。


 

 「うむ。では両国の発展に!」


 「両国の発展に!」


 ラーズ王がグラスを掲げて、それに合わせてお父さんもグラスを掲げました。


 そして、くいっとグラスを傾けてしゅわしゅわを飲んでいます。

 一口、という感じですね。一気に飲み干さないようですね。そういうマナーなんでしょうか?


 お酒って飲んだことないなぁ……。おいしいのかなぁ……? 前世では死んじゃうからダメって言われてたんですよねー。


 でもいまはお酒なんかよりも、あの前菜の方が気になっています。


 大きなお皿の真ん中にちょこんと盛られたオシャレなお料理……あっちの方が……惹かれます!

 

 スヴァルトのお花と香草で飾られた……あれは貝ですね。ホタテみたいな感じの。アルヴでは手に入らない美味です。


 しかも、目にも美しい盛り付けになっているんですよね。さすがです。

 あ! もしかして、ラーズ王が着替えたのって……これかな?


 そういえばエルフの料理って、アルヴもスヴァルトも、なんだか綺麗な色なんですよね。お花をたくさん使うから。黒い着物なら、確かにカラフルさが目立ちますよねー。

 


 「うむ……毎回スヴァルトの料理は舌を楽しませてくれる……」


 お父さんも、美味しいと感じているようですね。少しだけ表情が柔らかくなっているような気がします。



 「ははは。存分に堪能されるがよい。」


 ラーズ王の声も少しだけ明るくなったようです。


 やっぱり美味しいものは素敵ですよね! 世界を明るくします! 私も明るくなりたいです!


 

 やがて次のお皿がやってきます。


 「温製前菜にございます」


 冷たいものの次は、温かいものですか……! 温野菜的に調理した花々に包まれた、チーズとスモークされたお魚……! 大変です! よだれがでそう!


 

 「ううむ……これもまた……」


 お父さんも唸っていますね。それはそうだと思います。パーティーの時のビュッフェでも見ましたけど、美味しそうだったし! あれは食べてないけど!


 

 「して、フォルセ王よ。貴殿とも長い付き合いであると思うがな。400年ほどか?」


 「そうですな。代替わりのご挨拶の時でしたな……。400年……ほどでしたかな。」


 単位が大きすぎて、2人とも曖昧な記憶みたいですね。少し首を傾げています。



 「ふむ。あのレーナという新王妃、相当な曲者であるように思うが、なぜ娶ったのだね。」


 「これはまた……ずいぶんと明け透けな物言いですな……」


 ラーズ王の言葉に、お父さんは苦笑といった感じでした。


 どうもラーズ王の方が王様の先輩という感じなんでしょうかね? 本当に何歳なんだろう……?


 

 「飾ったとて、仕方なかろう。まさか王妃が戦の火蓋を切ろうとするとはな。我が国としては、仕掛けられたならば当然応戦する。あの場でのあの発言、何か意図でもあるのかと思ったが、どうなのだ?」


 「むう……。それは……」


 お父さんはまた言葉に詰まってしまったようでした。



 「スープにございます」


 そしてタイミングがいいのか悪いのか、スープが運ばれてきました。あれは……キノコのスープですね! ものすごく香りがいいんですよね。お花と合わせて作られているようで、とても華やかな香りになっています。



 スプーンを口に運び、お父さんは少し目を閉じました。


 「レーナの話は、ユウナのことが深く関係しているのですよ。」


 「ふむ。」


 そしてポツポツと語り始めました。

 


 「ユウナは、精力循環障害を持って生まれましてな。アルヴ国の後継ぎとしては不適格と言わざるを得なかったのです。」


 「ほう。」



 「ラーズ王ならば、どうせご存じでしょうが……我が国も一枚岩というわけでもなく、特に高位の者たちは権力闘争に明け暮れておりましてな。そんな中でルーナが障害児を産んでしまった。それは、付け入る隙でしかなかったのですよ。」


 「アルヴ国は相も変わらずであるな。」


 ラーズ王はまたも憐れんだような声でした。


 

 「それについては返す言葉もない。2000年以上をそうしてきておりますからな。今更変えられるものでも……」


 「はっはっ。変えるつもりがあるならば、そもそもそのユウナ姫を廃嫡したことが間違いよ。因習を変えたいのであれば、その者こそがうってつけであったろうに。」


 ラーズ王の乾いた笑い声でした。


 でも、私は別に……村人になってから、すごく楽しくて幸せな2年間だったし……

 スヴァルトに来てからの半年だって、不幸だなんて思ったことないから、全然これでよかったんですけどね。


 「……なるほど。ラーズ王はそのようにお考えか……」


 お父さんは、少し俯いてしまいました。何か思うことでもあるんですかね?



 「で、権力争いの影響で、ユウナ姫もルーナ妃も追放となったわけかね?」


 「有態に申せばそうですな。」



 「して、その件とレーナ妃が、どう関わるのだね。」


 「……レーナを宛がってきたのは、反乱を仄めかすにまで膨れ上がった一派なのですよ。国を割らないための措置として受け入れたのです。」



 「ふむ。なるほどな……。全くもって愚策であるな。それでは時間稼ぎどころか、早々に国が割れるぞ。現にあの調子だ。」


 「そのようですね……」


 力ない返事をしながら、お父さんの手が止まりました。


 

 「鮮魚にございます。」


 そこにお魚料理が運ばれてきました。


 せっかくあんなに美味しそうなんだから、しっかり味わって欲しいですね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ