88. ゴテゴテギラギラ国王会談
アルヴ国とスヴァルト国の国王会談が始まったのですが……あまりいい雰囲気ではないようでした。
「して、そのご婦人はどなたかな? ルーナ王妃の姿も見当たらぬしなぁ……」
ものすごくとぼけた感じのラーズ王の声が、壁越しでもしっかり響きます。堂々として、いい声をしていますね。
「その件なのだが、レーナ。挨拶を。」
フォルセ王……お父さんが、新王妃を促しました。
そうだった。レーナという名前でしたね。そうでした。最初聞いたとき、ちょっと名前が似ててヤダなぁって思った気がします。
「わたくし、レーナ・アルヴ・ヴァルコイネンと申しますわ。先年、王妃であることを拒否されたルーナ前妃に代わり、王家入りしましたことよ。お見知りおきくださいませ。」
新王妃はふぁーっと立ち上がり、優雅な感じでご挨拶をしているようですが、何と言うか……声質が高くて硬くて、高圧的な感じでした。
「ほう、レーナ妃……か。して、ルーナ妃が王妃を拒否した……とは、どういう事かな?」
レーナ王妃の言葉に、ラーズ王はトーンを下げながら少し抑揚をつけて、ゆっくり目に話しました。
こういうところも駆け引きというやつなのですね……! ラーズ王、すごく迫力があります!
「ラーズ王は、王妃の役割とはどのようなものだとお思いでしょうか?」
おおっ……これが質問に質問で返すという技ですね!
レーナ王妃も、ものすごい気迫ですね……!
基本的に質素なデザインばっかりなエルフの衣装のはずなのに、だてにひとりだけやたらゴテゴテした感じの謎服を着ているわけではなさそうですね……!
特注なんですかね、アレ。動きにくそうだし、派手なだけで可愛くはないですね。
宝飾もチカチカしてて、動くたびにこっちまで光がきたりして、ちょっと眩しいです。
……ん? ま、まさか、隠し兵へのけん制ですかね……? だとしたら、達人なのかも?
「王妃の役割……かね。スヴァルトとアルヴでは文化が違うが、余にそのようなことを聞いて、どうする? スヴァルトの精神を知りたいのかね? ご希望ならもちろんお話いたすが?」
ああ、それもそうですね。スヴァルトの王妃様は、戦場の前線に立って戦死されたと聞いています。
明らかにアルヴの文化とは違いますよね。さすがラーズ王ですね……。
「……っ!」
さすがな感じのラーズ王の返答に、レーナ王妃は、顔の前に何かふさふさしたものがついた棒状のものをあてがいました。あれ、多分悔しい顔を隠してますね。
「レーナ前妃は、お世継ぎを作ることに失敗し、そしてそのお役目自体を拒否されたのですよ。そこでわたくしにお声がけいただいたのです。」
なんとか気を取り直したようで、レーナ王妃のターンです。
「ほーう。失敗とな? どういうことだね?」
ラーズ王、ぐいぐいいきますね……。
それ、私のことですよー。ラーズ王、とっくにお母さんから聞いてるのに……。そんないい声で……。
「それはっ……!」
レーナ王妃が口を開いた瞬間でした。
「その件なのだがな。」
お父さんがレーナ王妃を手で制しながら言葉をかぶせました。
「このスヴァルトの王位継承は、強き者と決まっているのではないか?」
お父さんも、少しゆっくり話していました。
「うむ、強き者。その通りであるな。フォルセ王の言う強さと同じ意味かは分からんがな。」
ラーズ王は、脚を組み替えながら答えているようでした。
「我が国でも、相応の強さが必要なのだ。アルヴらしさ……とも言えるな。」
アルヴ族らしさ……言法ですかね? そんな話だったと思います。私には使えませんからねー。
「ふむ。それが?」
「国の安定には不可欠であろうと思うがね。ルーナにはそれが理解出来なかったようでな……。資格を持たぬ子が生まれたにも関わらず、その子に執着してしまってな。少し国が混乱したのだよ。ルーナはその責任を負わざるを得なかった、という話だな。」
うーん。お父さんも、きっと長生きしてるんだろうなぁ。なんだかふわっと上手に話しますね……。
「ほう。で、その資格を持たぬ子……とやらはどうしたのだ? 星にでも還したのかね?」
いや、私生きてますよ? ここで、元気に!
ラーズ王、絶対にやりとしてそうですね。そんな声色です。私たちにサプライズを仕掛けてきた時と同じだ……!
「……まさか。そんなわけがあるまい。村人として、野に下ってもらっただけだ。だが、旅人になるという話は聞いたのだが、どうも目付け役とともに行方知れずになっておるようでな。もしやスヴァルトにでも来てはおらぬだろうか?」
お父さんは肘を膝にのせて手を組み、少し前のめりで話しました。中々の迫力ですね……!
「目付け役……ねぇ? 2人連れということかな? ……さてなぁ。余も王であるからな。市井の細かい事までとなるとさすがに把握しきれておらぬな。して、いくつの子だ? 名は何と申す? して、情報があったとして、なんとするつもりだね? 探すにしても情報がなければなぁ……」
ラーズ王、やっぱり演技派なんですね。完全に知らないふりをしていますね……。
「……ユウナという。お目付け役はマリーカだ。一度、マリーカが王館に報告をしに来たのだがな、それ以来の消息が不明なのだ。どうも森の街道で何かあったようでな。一帯が焼け野原になってしまった場所があったそうだ。……巻き込まれておらぬか心配でな。」
お父さんも演技派なんですかね……? 本当に心配そうな顔ですね……。あ、お母さんのことは取り戻したいみたいだから、ある意味本当なのかも……?
「ふーむ。ユウナ姫に、目付け役のマリーカとな。そうか。我が国に来ることがあれば、手厚く保護すると約束しよう。」
いや、もう手厚く保護されてますけどね? そりゃ、お仕事もしてますけど。
「いや、それには及ばない。アルヴ国へ送り返して欲しい。」
前のめりのまま、少し上目遣いで凄むようなお父さんは、なんだか嫌な迫力がありますね。
「ん? なぜだ? 先ほど国に混乱が起こったと申しておったではないか。そのような混乱の元は国に必要あるまい。」
聞き返したラーズ王に返事をしたのは、話に突然割って入ったレーナ王妃でした。
「お言葉ではございますが、スヴァルトの君。マリーカは有能でございますの。無能な者にいつまでもかかずらわっていてもらっては困りますわ。もちろん無能な者は好きにしていただいてかまいませんわ。ですが、マリーカはお返しくださいますこと?」
見た目の通り、ずいぶんはっきり言っちゃうタイプなんですね。お母さんから聞いてましたけど、本物はすごいですね!
「……おい、レーナ……!」
お父さんが慌てた感じで止めようとしましたけど、もう遅いですね。
「ふむ。返せ? とな。何故だ? それで何の利が、我が国にあるというのだね? そもそも、与り知らぬ者たちの話ではあるが……我が国は本人たちが真面目に国民として暮らす意思があるならば基本的にはその意思を尊重しておる。移民街もある。もし、その2人が我が国で暮らしたいというならば、尊重するまでよ。そもそも、その2人がアルヴから離れたいという意思を持っていたならば、それはアルヴ国の落ち度であろう?」
ラーズ王が、かっこいいですね! 変な王様だと思ってましたけど、ちゃんと王様でした!
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