87. 父きたる
私のこの世界での実のお父さん、フォルセ・アルヴ・ヴァルコイネン。アルヴ国の王様です。
そのフォルセ王がこの国に来るということで、楯部隊長ヴィスナさんと私が王城に呼ばれて、お仕事の依頼を受けることになったのです。
何をしに来るのかなぁという感じなのですが、時々国内で大きなことがあるとお知らせがてら、交流しているそうです。前回は、私の実のお母さんとの結婚報告だったそうです。
ラーズ王の予想としては、新王妃の挨拶と、生まれた子のお披露目ではないか、とのことでした。
もし私が王館を追い出されていなかったら、そういう形でこのお城にきていたのかもしれませんね。
そう考えると、なんだか不思議ですねぇ。運命とでもいうのかな?
障害持ちの残念エルフとして生まれちゃったから、色々あったけど……
でも、お母さんとのミュルク村での暮らしも幸せだったし、リトとも出会えたわけだし、ナイだって、エメだって、それにスヴァルト国のみんなだって大好きだし、むしろよかったかもなぁって思いますね。
そういえば、生まれた子? って、一応妹ってことになるのかな? 私、前世でお兄ちゃんはいたけど、弟や妹はいなかったなぁ。どんな感じなんだろ? と、言っても……関わることはないと思いますけどね!
そもそも、新王妃は私の生命を狙ってるみたいだし、近寄らない方が絶対いいと思います!
そうそう。警護の計画に関しては、あまり大人数は会見場に配置出来ないそうで、ヴィスナさんと副長のベローナさんだけがラーズ王の横に立つみたいです。
私は、いくつかある隠し間で様子を見ていたらいいそうです。ベテランの隊員さんたちも何人か、別の隠し間にいるそうでが、今回はリトはお休みなのです。
というか、外交上不利になることは避けたいから、私も前に出ないようにと言われています。リトもアルヴ族なので、そういうことかもしれませんね。
私が話を聞けるようにする、というのは恩賞のひとつだとラーズ王は言っていました。だったらリトが一緒でもいい気がするんだけどなぁー。変なところでケチなんだから。
「ユウナ……ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だよ! 隠れて話聞いてるだけみたいだし!」
当日の朝、リトはすごく心配そうにしていました。実際に危ない目にあったし、あの時のこと思い出してるのかな……?
リトが可愛いので、ギュッとしておきました。
――――
――
そんなわけで、今日の私は正装です。
ハーナルさんの防具、ブロックルさんの楯、ダーインスレイヴと、抜かりはないです! 気合い十分です!
と、言っても、ファーヴニル副長? だっけ? あんなふうなのが相手だと、どうにもならないと思いますけどね……。
さすがに外交の場所にあんな凶暴なひとは来ない……はず。え……? 来ない……よね?
「んじゃユウナ姫は……この隠し間で待機な? いいかい? 絶対に出てきたらダメだかんね?」
「はーい!」
ヴィスナさんは、今日会った時からずーーっと出たらダメ出たらダメって言ってました。私、別にお父さんに会いたくないけどな……?
お父さーん! 会いたかったよー! とはならないけどな……。前世のお父さんなら会いたいけど。
そんなわけで。ヴィスナさんに指示された隠し間に入ります。
ひとりでいるにはわりと広いですね。多分武器を持ってる前提なんだろうなー。
今日は、覗き穴の前に、ちょうどいい高さの椅子があります。背もたれのないタイプですね。
ここに腰を掛けると、ちょうど向こう側からは見えないぐらいの穴の隙間から、うまいぐあいに覗くことができるというスンポーなのです!
スパイごっこみたいですね! といっても、任務なのでしっかりやらないとなんですけどね。
たしか、まずは会談をしてから、会食という予定だったはずです。いつ始まるのかなぁー。
――コンコンコン
部屋をじーっと見ていたら、ノックが響きました。
和風のお城ですが、ここの部屋は少し洋風です。扉も開き戸ですね。
「ラーズ王。アルヴ国ご一行、ご到着されました。お通しいたしますか?」
案内係のひとが入ってきました。
ラーズ王は、ヴィスナさんとベローナさんを交互に見て返事をしました。
「うむ。通せ。」
「承知いたしました。」
ささっと音もなく案内係のひとは部屋を出て行きました。
やはりスヴァルト国です、ただものではない感じですね……。
しばらくすると。
――コンコンコン
「ラーズ王。アルヴ国ご一行、お連れいたしました。」
「うむ。ご苦労。」
ガチャリと重々しい音を立てながら扉が開かれました。
「ラーズ王。相変わらず壮健そうだ。」
お父さん……ああ、そうだ、あんな感じの顔だったかも? でも笑顔なんて見たことなかったな……。あんな風に笑うんだ……?
「失礼いたしますわ、スヴァルトの君。」
そして、隣にいる女のひとが、多分新王妃……私を殺そうとしたひと……。
あんな感じの人なんだぁ……。すっごい気の強そうな顔ですね。美形だけど、悪そうな感じです。
あと、なんかギラギラしていますね。グニパの宝飾かなぁ? たーくさんつけてます。あんなにつけてたら、可愛くないですね。もっとこう、バランスよく色の配置とか……した方がいいのでは……?
なんだか、もったいないですねぇ。
「うむ、遠路ご足労であったな、フォルセ王よ。して、ルーナ王妃の姿が見えぬようだが……?」
ラーズ王、分かっててあんなこと言ってますね……。ここからだと顔は見えないけど、にやーっとしてるんだろうなぁー。
「ルーナか……。今日はその件もある。」
ラーズ王の言葉に、お父さんは一瞬、少しだけ苦々しい顔をしました。
そして、隣の新王妃は明らかにピクピクしていますね。そしてプルプルしています。
「そうか。まぁ、座ってくれ。」
そんな2人に、ラーズ王は落ち着いたトーンで声を掛けました。
うーん。やっぱり、ただのおかしな王様じゃないみたいですね。
これが外交ということなんですかね……? やっぱり私には無理そうですね! 姫じゃなくなってよかったな。
「ああ、失礼するよ。レーナ。」
「はい。失礼いたしますわ。」
豪華なソファーに腰を下ろす2人。隣にそれぞれ護衛が立ちました。
……ファーブニル副長じゃない!
よかったぁ~~~。あんなひとがきたら、国がめちゃくちゃになるもんね。
とはいえ、片方の鋭い眼光のひと……かなり強そうですね……。勝てるかな……?
私、あの王館に3日しかいなかったから、王家まわりのひとたち全然知らないんだよね……。
お母さんは、昔お供で来たときは、外で待ってたって言ってたっけ。
ということは、あの護衛の2人……お母さんよりも強いのかな。
「ふむ。では、先触れにあった挨拶とやらを聞かせてもらおうじゃないか。」
ラーズ王の言葉で、いよいよ会談が始まるようです……!




