64. 戦勝の痛み
前回のお話:ロープでくるくるした!
ナッビさんから色々とお話を聞いた私たちは、ヒルドルさんの待つ廃村中央広場へと向かいました。
襲ってきたスヴァルト族は、40人ほどいたようでした。
ゲイル部隊は、私とリトを入れても11人。
頑張りましたね! 皆なんとか無事で良かったです!
広場には捕らえたスヴァルト族たちと、助からなかったスヴァルト族たちが集められていました。
今はベイラさんが王都に伝令に走っているそうです。
「で、そのアルヴの者はなんなのだ? ユウナ殿。」
ナッビさんを連れてきたら、ヒルドルさんは何やらジトッとした目をしていました。
「ナッビさんです!」
なので、私はちゃんと紹介しようと思います!
「いや……そういう事では無くな……? 何故そんなに元気なのだ……。」
何だかヒルドルさんはため息混じり。
どうも少し疲れた様子ですね。
眉間辺りを手で押さえて小さく頭を振っていました。
ヒルドルさんは、多い時、1人で10人くらい相手にしていたようなので、疲れても仕方ないですよね!
「ナッビ・グニパと申します。ゲイル部隊隊長とお見受けしますが……」
ナッビさんは、深々と礼をしました。
なんだかいきなり襲ってきた人とは思えませんね。
隠れてたみたいだし、怖かったのかな。
「グニパ……?!」
リトが驚きながら小さく呟きました。
グニパってなんだっけ……?
聞いたことあっ……
あ! 宝飾の村だ!
「ふむ……。で、ナッビとやら。アルヴ族が我がスヴァルトの地で何をしておる?」
ヒルドルさんの視線が鋭くナッビさんを刺しました。
あー……これ、また決闘かなぁ……?
「はい。事情は全てお話いたします。」
「ふむ。一先ずは聞こうか。」
ヒルドルさんは、ナッビさんを睨みつけたまま腕を組みました。
「先ずは確認ですが、こちらのユウナ様のご事情は把握されておられるという認識でよろしいですね?」
ナッビさんは、ヒルドルさんの圧に抗うでもなく、萎縮するでもなく、淡々とした様子でした。
「……無論だ。ユウナ殿は我が国に亡命された。王への繋ぎは私が行ったからな。」
そうそう。ヒルドルさんはスヴァルト国に入った時に初めて会った人でしたね。
それ以来、何かとお世話になってるんですよね。
「私は、ユウナ様の母君であられるルーナ様付き護衛隊の一員でした。」
「……ほう?」
ナッビさんの言葉に、ヒルドルさんの右眉が少し上がりました。
「ご存知かとは思いますが、ルーナ様は王妃の座を追われ……そして、我々護衛隊もまた、粛清や追放の憂き目に遭い……。私もまた、粛清対象として故郷にも帰れず、放浪し……この地へ辿り着きました。」
「ほう……それで?」
「亡命を図ろうと、王都を目指しましたが……疲れと飢えで、行き倒れ……そこの者たちに救われました。そして、王都へ行けば、殺される。彼らに協力すれば生きられる……と。そう言われ、この廃村を拠点に生き長らえておりました。」
「……なるほど。そこに、我々が来てしまった……というわけか?」
「はい。我々のリーダー……そこで首だけになっておる者ですが……彼が、隠れ潜み奇襲を仕掛け、スヴァルト軍を追い出そうと言い出し……」
「ふむ……。頭とか宣っていた奴か。まぁ、文字通り頭にしてやったが。……おお、此奴だ。ふむ。そもそもこやつは何故族などに……」
そう言ってヒルドルさんは、地面に置かれていたスヴァルト族の首を持ち上げて……まじまじと見たのです。
うう……。ちょっとそれは……。
「うっ……」
あ、リトがちょっと吐きそうになってる……。
「詳しくは聞いておりませんが……どうも現王や軍に対して不満を持っていたようです。」
ナッビさんは、やはり淡々としていました。
兵士って……兵士って……
これが……現実なんですよね……
ブロックルさんが言ってた、武器の意味……
きっと……こういう事なんだ……。
ふっとダーインスレイヴを持ち上げて眺めました。
氷のように透明で、美しく輝く刃。
何にでも変化する、不思議な武器。
今回も私は、このダーインスレイヴに救われました。
恐ろしいほどの斬れ味の刃も、棒にしてしまえば……
私は誰の生命も奪わずに済みました。
でも……
それって、キレイゴト……なんでしょうか。
私が生きて今ここにいるのは……
ナイが私の代わりに奪ってくれた生命があったからだ。
いつかは、食料を得るためじゃなくて……
自分やリトやお母さんたちを守るために、この刃を血に濡らす日が来るのかな……
覚悟は……しなきゃいけないんだよね……。
私は、なんとも言えない気分でした。
「で、ナッビとやら。貴様、今後はどうするのだ?」
「……そもそも私は、このスヴァルトの地に亡命をと逃れて来ました。いまだ樹が枯れた気配はない様子。ですので、罪人としてでも構いません。王都へお連れ頂きたい。もし、罪を裁かれ生命を奪われたとしても……理不尽な王妃交代劇の内の粛清より、余程増しというもの……。」
ナッビさんは、寂しげなような、悔しそうなような……
なんだか複雑な顔をしていました。
「そうか……。ああ、そうだ。貴様、異能はなんだ? アルヴ族ならば、持っているのだろう?」
「異能ですか……。」
ナッビさんは、一瞬言いよどみました。
「なんだ? 答えられぬと?」
ズイッとヒルドルさんの圧が増しました。
「いえ……。あまり大したものではないので。"封入"とでも言いましょうか。」
「封入? どんなものだ?」
「私がグニパ出身だからでしょうかね。職人向きの異能ですね。宝飾用の石などに、力を封入出来るというものです。」
え……?
「ええーー?! ナッビさん、なんで兵士なんかしてたんですかぁー?! それってすごい能力でしょ?!」
「お、おぉ……ど、どうしたユウナ殿。急にそんな……」
「だってだって! リトの首飾りとか、私の首飾りとか、グニパの宝飾なんですよ? 多分その封入で造られた感じだと思うんです! ね? リト?」
「う、うん。」
リトもびっくりしているようで、目が丸くなってました。
「ユウナ様、グニパの宝飾をお持ちなのですか。我々グニパの民は、封入の異能を授かりやすくて。なので、必ずしも職人にはならないのですよ。」
「ふむ……。なるほど。」
ヒルドルさんは、何かを納得したように、深く頷きました。
と、ちょうどその時……
「隊長! 輸送隊直に到着予定です!」
ベイラさんが帰ってきました。
「うむ。ご苦労だった。では、連行準備に移るか。」
そうして、私とリトの長い長い初任務が終了したのでした。
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