59. 風とクマさん
前回のお話:人懐っこい!
スヴァルト王都南門から出発した、ゲイル部隊。
今日の哨戒任務は、街道の見廻りみたいです。
スヴァルトの王都からは、いくつかの道があって、毎日日替わりで見廻っているらしいのです。
今日の街道は、私たちがスヴァルトに来た時に通った道とは違う道でした。
先頭を走るのは、隊長のヒルドルさん。
殿を務めるのは、副隊長のロタさん。
私とリトは、ロタさんの前に並んでいます。
ゲイル部隊は、総勢10名。私たち入れて12名ですね!
街道は固い土のようで、草原を分けるように延びていました。
アルヴ国の街道は、森の中だからか、あまり幅は広くなくて、造ったというより、自然に出来たみたいな感じでした。
でも、スヴァルトの街道は、しっかり整備されているのかな?という見た目です。
見廻りは、見落としを防ぐために、そんなに速度を上げないようで、柔らかな陽射しの中、緑の香る海を、そよ風に乗って進んでいるようです。
そういえば、ムクの乗り心地……普通のルクとは違うなぁ。
トゥレイア山のユニコーンみたいな、ふわりとした感じです。なんでだろ。
「キュアーッ!」
「あ。ムク、ちょっと速いから、みんなと合わせて?」
「クェー。」
ロタさんに、ムクは普通のルクより強靭って聞きましたけど、なんだか張り切っているみたいでした。
走りに来れて嬉しいのかな?
「キュッ?」
「あ、エメ、あんまり動かないでね。落ちちゃうと危ないよ?」
「キュッキュイッ!」
エメ、危ないから置いていこうと思ったんですけど……
なんだか着いて来ちゃったので、一緒に乗せているんです。お留守番嫌いなのかな。
今は、器用にムクの首の後ろ辺りに座りながら、鞍に掴まっています。
「ねぇ、ユウナ。なんか、上手だね?ルク、そんなに慣れてたっけ?」
隣を走るリトは、ロラの色がとても似合ってて、なんだか絵になる感じです。
「んー。スロールさんのお手伝いで少し、くらいかなぁ?でも、ムクはなんか、あんまり揺れないんだよね。なんでだろ。それより、リトはやっぱり慣れてるね。」
リトはなんだか手網捌きが板についてる感じです。
真剣な表情で、ロラを上手に誘導しています。すごいなぁ。
「ムク、やっぱりすごいんだね。わたしは、ルルとシルでここまで来たから。スヴィーウルさんも、色々教えてくれたし。」
スヴィーウルさんかぁ。やっぱり熟練の旅人なんだなぁ。
お母さん……大丈夫かなぁ。スヴィーウルさんと一緒だし、大丈夫だよね。
「あ」
その時、違和感に気付きました。
「ロタさん!足音がする!前方右側、多分大き目の動物だと思う!このまま進むと、多分すぐだと思う!」
「え?ユウナちゃんすごいな。了解。」
ロタさんは兜のバイザーを開けて叫びました。
「隊長!!前方右手方向、接敵!!確認されたし!!」
「了解!!確認する!!総員警戒!!」
ヒルドルさんの号令で、皆槍を構えました。
「敵視認!!すぐ会敵するぞ!!ヴィヨンだ!!」
えっ?!
大きい生き物だとは思ったけど、あの時のクマさん?!
スヴァルトにもいるんだ?!
うわぁ〜……大丈夫かなぁ。
すごい力だし、気をつけないと。
「総員左列より交差斬!私は単騎で右方より抜ける!」
ヒルドルさんの号令が出された時、もうすでにヴィヨンが見える距離まで来ていました。
ヴィヨンは、草の中に顔を入れていました。
餌でも探しているのでしょう。
交差斬は、すれ違いざまに順番に槍の穂先で斬りつけていく戦法のようです。
「"槍"!」
ダーインスレイヴを抜き、槍にして構えます。
穂先は長めで、クリスタルのように輝いています。
「ユ……ユウナ……。ヴィヨンって、あのヴィヨンだよね?」
リトが不安そうな声を出しました。
二年前、ミュルク村に被害を出していたみたいだからリトも知ってるんでしょうね……。
「森にいたクマさんよりは少し小さいみたい。でも、リトは細剣だし、象言法で攻撃した方がいいかも。」
「う……うん。そうだね。そうする。」
と、リトが言った次の瞬間。
「ゴアァァァァァァ!!」
と、ヴィヨンが咆哮を上げました。
「気付かれたぞ!!」
ヒルドルさんが叫びます。
多分、もう50メートルくらいの距離でした。
「散開!!隊列変更!!」
「「「はっ!!」」」
皆、号令に合わせて列を作りました。
水族館の魚の群れみたいな、流れるような美しい動きです。
私も遅れないように、リトの前に出て、縦列になったその瞬間……
――ビュオッ!!
私の後ろから、ものすごく鋭い風斬り音が駆け抜けて……
と、思った時には……
――ブシャーッ!!
「総員、停止!!」
ヴィヨンの首がなくなっていました。
これって……
「え……あれ、リトの象言法?」
「あ、うん。風の刃、かな。」
「リ……リトちゃん、すごい威力だね……。」
ロタさんが驚きの声を上げていました。
リトはなんだか普通な感じでした。落ち着いてるというか。淡々としていました。
リトにしてみたら普通のことなのかな。
すごいと思うんだけどな。
私は毎回驚かされっぱなしというものなんです。
「集合!」
「「「はっ!」」」
ヒルドルさんの号令で、ヒルドルさんの前へと集合しました。
皆揃ったところで一呼吸置いて、ヒルドルさんがバイザーを上げ、リトに話しかけました。
「リト殿。恐るべき威力だったな。私はあまり言法は知らぬが……あんなに威力を持ったものは見た事がない。言法とは、鍛えるなりで、あのような威力になるものなのか?」
「いえ……。わたしの象言法は、異能なので……。普通に言法を使う時より……多分威力が出るんだと思います。」
「象言法とは、なんなのだ?」
「えっと……具体的なイメージが出来れば、その現象を起こせるというか……。」
「な……なんだと?……なるほど。それでか。ヴィヨンなど、我々ゲイル部隊の交差斬で、三巡ほどして倒すような生物だがな。予想を上回る成果だ。」
以前、ミュルク村に被害が出た時は、狩人たちの弓矢では倒せなかったらしいです。
アルヴには言法がありますが、よほど得意な人くらいじゃないと、ゲイル部隊の繰り出す槍の威力ほどは出ないんじゃないかな。
たとえば、お母さんとかみたいな。言法が得意な人。
「え……っ、あ、ありがとうございます……。」
リトは褒められて、少し戸惑っているようでした。
すごい事したのに、得意気になったりしないのはリトらしいけど……。
「フラール!」
「はっ!」
「伝令に走り、回収班を呼んでくれ。」
「はっ!直ちに!」
フラールさんは、急ぎ戻って行きました。
「では、総員、巡回を続ける!隊列を組め!」
「「「はっ!」」」
「出発!」
「「「はっ!」」」
そうして再び、巡回を続けます。
毎日、ゲイル部隊やスレイフ部隊は、こうして頑張ってるんですね。
私も頑張らないと!
と、張り切っていたのですが、まさかこの後あんな事になるなんて、思ってもいませんでした……。
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