56. ドワーフの鍛冶屋
前回のお話:え?王子?知らない人ですね
――ガチャ
「お邪魔しまーす!」
「……お……お邪魔します……」
「キュッ!キュイッ!」
扉を開けて中に入ると。
外の空気とは全然違う、皮膚を焦がすような熱い空気が、身体の表面を擦りながらブワッと駆け抜けていきました。
窓から見ていた時よりも、激しい熱気を感じます。
「わぁ……」
「……う」
リトはあんまり慣れてないからか、少したじろいでいました。
扉を開けた正面の一番奥には、外から見える太い煙突に繋がっている炉がありました。
炉の中は、眩しいくらいの朱色です。
色々な形の炎が、くるくると踊るようで生き生きとしてて、パチパチと瞬いて……とても綺麗でした。
「……早く閉めろ。熱が逃げる。」
「あ、はーい!」
パタンとドアを閉めます。
私がよく見学していた窓は、ここから見ると左側ですね。
いつもは正面として見ていた右側の壁には、中央くらいに扉があります。
多分、ブロックルさんのお部屋ですね。生活スペースだと思います。
その右側の壁。
こちらの扉側には、出来上がった剣や数々の武器が置いてあったり、壁に掛けてあります。
飾り気はないけれど、一つ一つの形が実戦的でもあり、とても美しく仕上がっています。
さすがダーインさんのお師匠さんですね。
炉のそばの壁には、槌が数本掛けてあります。
一番大きな物は、私の頭より大きそうですね……。
そしてたくさんの火箸。
炉の少し前辺りには、大きな金床と、少し小さな金床。
いくつかの水の入った桶もあります。
小さめの桶の横には、砥石の山がありますね。
ブロックルさんは、大きな金床の前に座っていました。
こうして、中に入るのは初めてなんですが……
「ダーインさんの工房にそっくりですね。」
「ああん?そりゃあ、あれは儂が造ったからな。」
「え?そうなんですか?!」
ダーインさんの工房は、外観はログハウス風で、中に入るとまずは普通の部屋が一つあって、奥の部屋が工房になってましたけど、工房の中はこことそっくりだったのです。
「ああ。鍛冶を教えろと言うが、鍛冶屋は無かったからな。儂も旅ばかりで、しばらく槌を振るっとらなんだしな。造った。」
「はぇー。なんでも造っちゃうんだ……。」
「儂らドワーフは、そんなもんだ。」
自慢するでもなく、こともなげに、ブロックルさんはそんなことを言いました。
ドワーフってすごい!
「まぁその辺に椅子がある。適当に座れ。」
ブロックルさんが目線を送った先に、いくつか椅子がありました。
木製のものが多いんですけど……
金属に皮を張ってある、キャンプ用品にありそうな形の椅子もあります。
まさか……
「え、この椅子もブロックルさんが?」
「当たり前だ。儂らドワーフは、欲しい物は造る。」
「ええー!武器だけじゃないんですね!すごー!」
ハーナルさんの工房には、木と皮を使った椅子はありましたが、金属と皮の組み合わせは、この世界に来てから初めて見ました!
「いいから早く座れ。話が進まん。」
あ、しまった。ブロックルさんに叱られ……あれ?口角が上がってますね。怒ってはいないのかも。
「はーい!私これ。リトは?」
「……あ、わたしはこれで」
私は金属製、リトは木製を選びました。
「キュッ!キュキュッ!」
エメも木製の椅子を頑張って引っ張っています。
座りたいのかな?いつもあんまり椅子とか座らないけど。
「キュッ!キュイー……」
どうやら運べないようで、落ち込んだみたいに項垂れてますね。
やっぱり座りたいみたいなので、椅子を運んであげました。
「キュッ!キュイッ!」
すると、エメはぴょんぴょん飛び跳ねてて、喜んだみたいなんですけど……
結局私の膝の上に座ってしまいました。もー。
「カーバンクルか……。珍しいもんを連れとるな。」
「そうなんですか?」
「ああ。フェアランドにも、あまり居らん。」
ふぇー。エメって珍しいんだぁ。
確かにトゥレイア山で、たくさんの幻獣に会ったときも、他のカーバンクルはいなかったな。
「フェアランド……ブロックルさんは、フェアランドから来たんですよね?」
「ああ、そうだ。だが、儂らドワーフはそもそもが火の民だ。」
「火の民?」
「火神に生み出された種族、火神の眷属だ。」
「火神……」
「ああ。元々はこの星ではなく、火の星という星の民だ。」
「えっ?!火の……星?!」
「……知らんか。まぁ、エルフには伝わってはおらんのかも知れんな。」
えぇ……?ドワーフって、宇宙人ってこと?
「ふむ……。今儂らがいるこの星はアルヴヘイムだな。」
「は、はい。そうですね。」
「そもそも……そのアルヴヘイムも、巨大惑星ネイドスの中にある星々の一つでしかない。」
「巨大……惑星……ネイドス?」
「ああ。その中に、神族連中がそれぞれ星という形の世界を持っている。」
ブロックルさんの表情が、いつもより更に険しくなりました。
「夜、空にやたらと大きな星があるだろう。あれが……最高神の住まう星、エルヴァルドだ。」
すごく大きな月があるなぁって思ってたけど、あれ月じゃなかったんだ……。
神の星……エルヴァルド……。
「ネイドスはな、それぞれの星が光の道で繋がっている。普通は行き来するには難しいが……。儂らドワーフは、火神から他の神々へ贈与された者たちがおる。儂もその内の一人だ。」
贈与……贈与って。プレゼントみたいな意味だよね。
そんな……物みたいに。やっぱり神様ってひどいのかな。
「そして、このアルヴヘイムに繋がる光の道は、フェアランドにある。フェアランドは、他星への玄関口でもある。」
う……。こんがらがってきた。
チラリとリトを見ると、すごく真剣な顔で聞いているみたい。
入る時のちょっとビクビクしてた感じは、今はないみたい。
私もちゃんと聞かないと。
「で、そのフェアランドだがな。この大陸からすると、遥か海の彼方にある孤島だ。」
「海?!」
そうだ、海。
まだ見たことはないけど、あるんだよね。
って、孤島?!そんなところにどうやって行くのー?!
「ふ、船で行くんですか?」
「ん?嬢ちゃん……エルフなのに船を知っとるのか。」
「えっ?」
「エルフは……船すらも最高神に奪われとるはずだ。」
「えぇぇーーー!?じゃあそんな孤島になんて、どうやって行けば……」
「……嬢ちゃんが、精霊や妖精の類いなら、今すぐにでも行けるがな。」
あ、桜の木の……妖精さん。エメが光ったときの。
「肉体依存であるエルフである以上、別の道しかない。」
「別の道、あるんですね?」
「ああ。トゥレイア山だ。」
「トゥレイア山……」
「ああ。あの場所は、フェアランドからの道が数年に一度、通るんだ。だから、幻獣どもがずいぶんと住み着いておるわ。」
……いた。確かにたくさん。エメも、そこにいたんだし。
じゃあエメもフェアランドから来たんだなぁ。
「……数年に一度、道が通るって……どういうことですか……?次はいつなんですか……?」
私がエメを撫でていたら、リトが口を開きました。
「定期的な周期があるわけじゃないが、夜空に光る橋がかかり出したら、道が開く頃だ。」
「夜空に……光る橋……」
「ああ。時々、山の方の夜空を見ておけばいい。」
その日、ブロックルさんは本当にたくさんの事を教えてくれました。
とてもありがたいです。
今度なにか差し入れしなきゃね!
と、思ったのですが。
フェアランドへの道、あんまりすんなりいかないみたいですね……。
とりあえず、ナイは無事みたいだし、いつになるかも分からないなら……
いつも通り……
ううん。今までよりもっと鍛えておかないとですね!
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