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51. お気に入りの場所

諸事情により長らく更新が止まっておりましたが、ここから再開です。

よろしくお願いいたします。

 

 ユウナがスヴァルト国で暮らすようになり、二ヶ月が経った。


 その二ヶ月という時間は、主にはリトと共に訓練場と移民地区を行き来し、エメと散歩をするという日々だった。


 幾度となく訪れる迷惑王子という障害を除けば、概ね平穏な日々だったといえよう。


 その平穏な日々のおかげともいうべきか。


 ユウナは移民街の一角にお気に入りの場所を見つけていた。


 そこを見つけたのは、迷惑王子を避ける為の偶然だったといえばそれまでだが、ユウナにとっては、僥倖というものだった。


 スヴァルトの王都は、王城が北側にあり、南側が軍拠点と旅人エリア、西側が移民地区、東側が職人街と農業地区になっている。


 各地区内も、しっかりと区画整理され、その整然とした街並みは、エルフたちの整った見た目を反映しているかのようだ。


 そんな王都中を散策すれば、きっと見所は沢山あるのだろう。


 だが、ユウナはこの二ヶ月あまり、西区と南区の一部を往復しているだけだった。


 それは、北の王城には近付きたくないという意識が働いてしまっている事や、生活物資もラーズ王の命で、自宅まで届けられているという事に起因するといえる。


 これまでの村での暮らしとは異なり、何かしらの職に就く必要も無かったのだ。


 スヴァルト国もまた、アルヴ国と同じくして、通貨が無い。物々交換の文化だ。


 永くの定住民は、各々が何かしらの生業を持ち、生活を営んでいるのは、アルヴ国と変わりない。


 ただ、職人や農家が生産している物が違う。


 それは環境的な問題や、文化的なものからくる違いだろう。


 農家も育てる植物が違うし、職人が造るものは、特に武具に違いが見られる。


 スヴァルト国では、様々な武具を使うからだ。


 それ故に、アルヴ国では見られない大型の武器なども造られているのだ。


 そんなスヴァルト国に見つけた、ユウナのお気に入りの場所。


 そこは、熱が赫々と渦巻き、音が激しく躍る場所だった。


 ――キィン!カァン!キィン!カァン!


 その、音を躍らせている者……


 それは、正に武骨と呼ぶに相応しい容姿。


 浅黒の肌に、体毛は濃く、顔は半分程も針金の様な髭に覆われている。


 厚い胸板、恰幅の良い体躯だが――


 背丈は随分と低いようで、ユウナやリトよりも小さかった。


 地に巨根を張り巡らせた大樹のような両の足で、しっかりと踏ん張り、その足と大差無い長さと太さを誇る腕を存分に振るわせ、人の頭程もありそうな、巨大な槌を軽々と振るい――


 天まで届かんばかりの音を、リズミカルに響かせていた。


「……嬢ちゃんよ。」


 その厳しい顔付きから、想像しやすい嗄れた野太い声。


 赫々と輝く金属を打ち付ける手は止めず、そして視線さえ動かさず、その男は声を発した。


「はい。」


「……飽きないのか?」


「すごく綺麗だから、全然。」


 ユウナは、窓枠に頬杖を付きながら、金属が打ち付けられた瞬間に上がる火花に、うっとりと顔を綻ばせている。


「はっ……綺麗、ね。

 ……こりゃ、殺戮の道具だぞ。」


 そんなユウナに、呆れたように吐き捨てる、皮肉めいた言葉。


 それは、その男の信念なのか。


 だが、一瞬ではあるが、僅かに口角が上がった。


「殺戮……」


 ユウナも、その用途を知らなかったわけではない。


 だが、強い言葉を出されると、その表情は明らかに曇った。


「ああ、そうだ。嬢ちゃんの腰のそれもだ。

 どんなに見た目が良かろうと、だ。」


 そう言われ、ユウナは腰に手をやる。


 それは、もう二度と会う事はない、会う事の出来ないだろう恩人のくれたもの。


 そして幾度も自身の生命、大切な人の生命を護ってくれたもの。


 ユウナにとっては、掛け替えの無いものだった。


「でも……これは……ダーインさんの……」


「……懐かしい名だ。」


 男は、目線は動かさずではあるが、ふと少しだけ目を細めた。


「懐かしい?」


「ああ。そんな名前の腐れ弟子が居た。」


 嗄れた声が、僅かに柔らかみを帯びる。


「えっ……?!」


 驚きの声を上げたユウナを見る事もせず、男は、なおも槌を振るいながら、言葉を続けた。


「……いつ頃だったか。儂がフェアランドから渡ってきたばかりの頃だ。……この地が珍しくてな。旅をした。

 ……長かったのか、短かったのか、ひたすら……歩いた。山、川、森、村……特に村なんてもんは、フェアランドには一つとして無いもんだ。そりゃあ珍しかった。それに儂は、槌を振る事しか知らんかったからな。」


 男は、その情景を思い起こしているのだろう。いつの間にか、目を閉じていた。


 そして、顔を上げると槌を振るう手を止め――


「いくつも村を巡った。スヴァルトも、アルヴも。」


 水を張った巨大な桶に、赫々とした金属を差し入れた。


 その刹那、ジュッという激しい音とともに、視界は白く染る。


「ダーインは、おかしな奴だった。」


 水桶から鉄塊を上げながら、その男は続ける。


「アルヴなんて奴らは、こんな鍛冶なんぞに興味は持たんもんだ。だが……奴は、儂の造った短剣を見せるとな、鍛冶を教えてくれと吐かしよった。」


「ブロックルさんが、ダーインさんの言ってた師匠だったんですね。」


「……まさか嬢ちゃんがあの村出身とはな。道理で変わっとるわけだ。」


 打ち終えた鉄塊に砥石をかけるブロックル。


 そのリズミカルな音は、槌とはまた違った良さがあるのか、ユウナは聞き惚れているようだ。


「……フェアランドへの行き方だったな。」


「え……?あ……はい。」


 ユウナがここへ通い詰めていた理由の一つがそれだった。


 だが、今までは何度聞いても教えてもらえなかったのだ。


 結局、ユウナはその件を余所に、ブロックルの作業をただただ見ているに落ち着いていたのだ。


 そんな矢先の突然の話題に、ユウナは戸惑ってしまった。


「……明日、教えてやる。ついでに水色も連れて来い。」

お読みいただけまして、ありがとうございました!

今回のお話はいかがでしたか?


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