46. スヴァルトの王子様はもっとおかしいかも知れないです。
前回のお話:何言ってるんでしょうね。
スヴァルト国へ亡命や移住を希望した民の居住地。
王都の外れにその場所はありました。
王城の聳える山の北側は断崖絶壁になっていて、街は南側に広がっているのですが、移民地区は街の西の端。
私達に与えられた家は、その一角でした。
「わぁー……庭まである! すごいなぁー!」
庭付きの平屋建て和風建築。
田舎のおばあちゃん家みたいな感じで、可愛らしくて懐かしい感じです。
まぁ、私のおばあちゃん家は、海の近くだったので、実際にはこんな風では無かったと思いますが……。
縁側付きの庭には、桜みたいな樹と、桃みたいな樹が植えられていました。
何故か綺麗に満開なので、毎日がお花見日和ですね!
スヴァルト国に抱いていたイメージは、殺伐とした感じだったのですが、想像とは全然違ってものすごく素敵です。
やっぱり変な先入観って良くないですねぇ。
「キュッ! キュキュキュイーッ!」
エメも庭が気に入ったみたいで、走り回っ……暴れてますね。
今日もやたらと元気です。
見た目は可愛い気がするのですが、エメはなんだかヤンチャなのです。
「エメ。汚したらご飯抜きですよ。」
「キュッ?! キュイー……。」
そんなエメを、お母さんが静かに諌めました。
エメは、もう既にお母さんのご飯の虜になっています。
エメに言う事を聞かせるには、"ご飯抜き"は言法よりも魔法の言葉ですね。
しょぼんとしたエメを捕まえて、お引越しのお片付けをしました。
――
翌日。
ヒルドルさんに許可を貰ったので、ゲイル隊の訓練場に早朝からお邪魔しています。
いよいよ私も槍デビューです!
やわらか槍術を身に付けるのです!
ヒルドルさんの槍捌き、とてもカッコよかったので、あんな風なのをマスターしたいところですね!
ゲイル隊の訓練場は、街の南地区にあります。
私達の新居から徒歩30分といったところですかね。
走ると5分は掛からないですけど。
南地区は、王都の入口です。
王都の門は南側一箇所しかないのです。
その門をくぐった南地区は、軍隊のエリアのようでした。
すぐ出動出来るようにって事なのか、変な人が来ても入口で止められるようになのか……分かりませんが、各部隊の宿舎と訓練場が並んでいます。
ゲイル隊の他にも、斧を扱うアクス隊、鈍器を扱うハンマ隊、楯隊などの重装備部隊や、剣類を扱うスレイフ隊、弓隊などの軽装部隊もあります。
そのうち、槍以外も習いに行ってみようかなとは思いますが、斧とか槌はちょっと重た過ぎて、私には無理かも知れませんね……。
短剣を二本扱うとか、剣と楯を扱うとか、そんな感じの方が現実的かも知れません。
でも、聞いていた通りに、スヴァルト族は本当に多様な武器を扱うようで、とっても良いですね!
出来る事が増えるのは嬉しいので、たくさん吸収したいな!
ヒルドルさんを筆頭に、各部隊長さん達とは仲良くなりたいですねー!
「ユウナ殿。さすがに筋が良いな。」
「本当ですか?!」
「ああ、やはり身体の使い方が上手い。基礎がしっかり出来ているな。マリーカ殿の教えが素晴らしいという事か……。要人護衛までこなす補佐官とは、それ程のものか……。」
「お母さん、やっぱりすごいですよね?」
「ああ。対人戦闘に限って言えば、我が槍をもってしても危うかろうな……。もちろん状況にも拠るが。あの略式の言法は凄まじいものがあるからな……。」
お母さんは以前、生命力の強い大きな生物には勝てないと言っていました。
得意のナイフにしろ言法にしろ、攻撃力が足りないという事らしいのですが……。
でも、そんなの私も同じというか、エルフは大体そうなんじゃないかなと思うわけです。
たとえば、いくら鍛えた強い人間だとしても、トラックにぶつかられたら死んじゃう。
多分、エルフは人間よりは強いんだと思います。
でも、エルフもやっぱりそうだということ。
なので、私はもっともっと鍛えなくてはいけないのです。
そういった脅威は、この世界にはたくさんあるようなので。
しっかり生きていけるように。
そして、大切な人たちを守れるように。
そんなわけで、槍を振るいます。
一回一回集中して丁寧に、身体の隅々まで意識を張り巡らせて、動きを、その目的を、理解し、自分のものにしていきます。
出来る事が増える、成長していく実感が持てるので、訓練は楽しいです。
前世では全く味わえなかった快感ですね!
「おい!! ユウナとやらはいるか!!」
ゲイル隊の皆さんと並んで槍を振っていると、突然大きな声で呼ばれました。
誰でしょうか……?
「ユウナは私ですけど。何かご用ですか?」
「うっ……!?」
私を大声で呼んでいたのは、スヴァルト族の……多分若者でした。
褐色の、銀髪銀眼の美青年といった感じです。
高級感のある服を着ています。
返事をしたら、何故か固まってしまったようです。
「あの、ご用が無いようなら、私今忙しいんですけど……」
「な……あ……ゴクッ……!」
「ユウナ殿。その御方は、リーグ様。ラーズ王のご子息だ。」
はあ。つまりこの国の王子様という事ですね。
そんな人が訓練場に何を……
あっ! スヴァルト族は、強さが大事なんでしたっけ。
訓練しに来たという事ですね。なるほど!
「よ……よ……」
「よ?」
挨拶でしょうか。
随分と気さくな挨拶ですね。王子様なのに。
手を上げておいた方がいいのかな?
「余は! リーグ・スヴァルト・アウルヴァング! 偉大なる王、ラーズ・スヴァルト・アウルヴァングの息子だ!」
疑問に思っていると、急に自己紹介が始まりました。
気さくな挨拶では無かったみたいです。
「はい。今、ヒルドルさんから聞きましたけど……
わざわざご紹介ありがとうございます。
ユウナです。先日からこの国にお世話になってます。では、訓練中なので、これで……」
「ま……ま……まてい!」
訓練に戻ろうとすると、引き留められました。
なんなんでしょうね。
用があるなら早くして欲しいのですが……
「お……お前! 余との婚姻を断ったそうだな! 何故だ! 何が不満だ! 余は、王位継承者だぞ!」
えぇー。訓練しにきたんじゃないんですね……。
「あのー。私、旅人になるんですよ。王家とかそういうのはちょっと……。それに、会ったばかりの人とか、会った事も無い人と結婚だとか、意味が分からないんですけど……」
「な……! なんだと?! お前、アルヴの姫だろうが! 王族ならそんな事は当然だろう!」
「私、村人として育ってるので……」
「うるさい! お前は黙って余に嫁げばいいんだ!」
「え……普通に嫌です。」
黙って嫁ぐってワード、初めて聞きました。
なんでしょうか、これ。
え? プロポーズって、こんな感じなんですかね……?
えぇー……。それはすごく嫌だなぁ……。
リトが、男の人苦手って言ってたけれど。これなら納得ですね。
おかしいなぁ……お兄ちゃんはこんな風じゃなかったのに。
「い……い……い……嫌だとぉーー!! ななな何故だぁーー!!」
肌の色で分かりませんが、きっと王子様のお顔は真っ赤なんだろうなぁって感じで、ダンダンと地団駄を踏んでいます。
地団駄……初めて見ました。本当にあるんですね。
「えっと……、ご用って、それだけですか? 私、今……訓練中で忙しいので、失礼します。」
一応、相手は王子様という事なので、一礼して訓練に戻りました。
背中越しに何だか叫んでいるようですが、ちょっと何語か分かりません。
なんというか……昨日の王様よりも変な王子様ですね。
黙って嫁げだなんて。
絶対嫌に決まってるじゃないですか。
何言ってるんでしょうね。
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