44. 本格的な模擬戦は初めてです。
前回のお話:第一スヴァルト発見
風斬槍のヒルドルと名乗った褐色の肌を持つエルフは、その長身――恵まれた体躯を活かした槍術を得意としている。
彼女は、実力主義のスヴァルト国に於いて、部隊長を任される身である。
例えば、少し言法を操れるだけのアルヴ兵などは相手にもならない。
言葉を紡ぐ前に、その身体には鋭い穂先が突立つ事になるだろう。
ヒルドルの愛槍は、突く、斬る、叩くを可能にする造りになっていて、刃渡り50cm程、全長は2.5m程で、特別長い物ではないが、その重量は凄まじい。
柄の部分にまでたっぷりと金属が組み込まれていて、通常なら持ち上げるだけでも難しいものだ。
だが、ユウナと対峙する今構えているのは、槍に見立てた木の棒だ。
普段の得物と比べれば、何も持っていないに等しい。
繰り出す突きの速度は、音を置き去りにする程にも達する。
パァン!!
と、乾いた炸裂音が草原に響く。
それは谺しているかのように、細かく何度も繰り返された。
「どうした? アルヴのユウナ! 良いのは威勢だけか? 早く力を見せてみよ!」
ヒルドルは、愉悦混じりに突きを繰り出す。
スヴァルト族は、戦闘的といわれているが、こういった力試しは事ある毎に行われている。
ヒルドルには、力試しは最早娯楽に近いもので、自然と表情にも現れてしまうのだが、既に隠す気すらない。
連続で繰り出される凄まじい突き。
間合いギリギリに立つユウナの足元が、派手な音を立てて抉れ飛んでいく。
その威力は、得物が木の棒とはいえ、当たりどころが悪ければ、命に関わるだろう。
ユウナがやわらか格闘術と呼ぶものは、マリーカから伝授された、アルヴ国の要人護衛格闘術をベースにしたものだ。
その真髄は、思考力、状況判断力にある。
ユウナはそれに加え、身体の柔軟性、バネを以て攻撃力と防御力、そして瞬発力を高めるのだが――
半身に構えていたユウナは、タイミングを計りヒルドルの突き出しに合わせて、一瞬後ろ足にグッと体重を掛けると、木槍の引き際に合わせて前方に飛び込んだ。
「なにっ?!」
急激な静から動を見せたユウナのその素早さに、僅かな時間ではあるが、ヒルドルは確かに動揺した。
だが、ヒルドルは歴戦の勇士だ。
それしきの僅かな気持ちの揺れなど、すぐに切り替える事が出来る。
一気に間合いを詰めようとするユウナを、横薙ぎに叩き付け――
た……はずだった。
「んっ!」
――パァン!!
引きからの横薙ぎに繰り出した棒は、なんの手応えも無いまま地面を叩いた。
まるで、ユウナをすり抜けてしまったかのようだ。
「なっ?!」
想定外の手応えに、またも一瞬驚くが、地面を叩いた反動を利用して、更に逆に薙ぐ。
ブォン!! と凄まじい風切り音を立てて、木槍は再びユウナに襲い懸かった。
しかし、既にそこにはユウナの姿は無かった。
ヒルドルの槍撃は、虚空を斬り裂くのみだった。
「いない……?!」
その事を認識する刹那、ヒルドルの視界はぐるりと反転した。
青い空が視界を埋めつくした時、ビュッという風切り音と共に、大きな影が不意に視界を塞いだ。
ユウナの拳だった。
「ふぅ~……。どうですか?」
その安堵混じりの声と共に、拳は姿を消し――代わりに覗く――陽に透けた桜色の髪、白く輝く肌、そして、屈託の無い笑顔。
ヒルドルは、理解した。
この可憐な少女に負けたのだ、と。
「うむ……。ユウナ。貴様の実力を認めよう。無論、その技を教えたという母上もな。」
ヒルドルは、満足そうに目を閉じて、そう言った。
風斬槍と呼ばれて久しいが、まだまだ修行が足りないな、と思うと同時に、身体能力のみを武器にする、アルヴ族には珍しい少女に、興味が沸いた。
「わぁーい! やった! お母さーん!」
ヒルドルの宣言を受けたユウナは、ピョンピョンと飛び跳ねて喜びを顕にすると、溢れんばかりの笑顔でマリーカに駆け寄っていった。
「ユウナ……。すごいわ……。頑張ったわね。」
マリーカは、駆け寄ってきたユウナをふわりと抱き寄せると、微笑みながらその耳にキスをする。
その二人の足元には、淡い碧光を放つ不思議な生物が擦り寄っている。
まるで一枚の絵画のようなその光景を、部隊員達は、唖然として見ていた。
――
「我々は、スヴァルト国軍ゲイル部隊だ。この付近の村が、トロルだかゴブリンだかに荒らされたという事でな。調査と討伐に来たのだ。
……貴殿らを見付けたのは偶然だ。
ま、誓いを違える事はせんよ。約束通り王都まで案内しよう。
ただ、少し距離があるからな、先に付近の村に立ち寄ろう。」
ヒルドルさんは、そう言って私達を村に案内してくれました。
その村は、ミュルク村とはずいぶんと様子が違っていて……
まず、その村は草原にあったのです!
森の中では無いのです!
そして、建物がログハウスでもないのです!
石と土と木材で造られた家でした。
同じエルフなのに、ずいぶん違うんですね。
「ここで一晩休み、明日王都を目指そう。宿もあるぞ。我々は、駐屯小屋があるからな。明日の朝、訪ねてくれ。」
ヒルドルさん達は、そう言って軍用の駐屯小屋……というには、ずいぶん大きな施設に入っていきました。
建物の周りには、村を囲う柵より高くて立派な塀があります。
訓練場と思わしき庭も広くて、ルク用の厩舎もあるようです。
軍が常駐している訳では無いという話でしたが、それにしては本当に立派な施設です。
スヴァルト国は、軍備に力を入れているみたいですね。
「さ、ユウナ。宿を探しましょうか。」
「はーい!」
見るもの全て珍しいといった感じでしたが、お母さんに促され、村の奥に入る事にしました。
ついにスヴァルト国! って感じですね!
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