41. スヴァルトの領域
前回のお話:気遣いの男
スヴァルト国。
スヴァルト族と呼ばれるエルフ達の暮らす国。
スヴァルト族は、銀髪に褐色の肌を持つ者がその多くを占める。
アルヴ族との見た目の共通点としては、耳が長く尖っている事だろうか。
アルヴ族との違いは、肌の色だけでは無い。
その最大の違いは、言法を使わないという事だろう。
肉体的な優劣で地位が決まる習わしがあるのも特徴だ。
アルヴと違い、多様な武器を駆使する部族でもある。
スヴァルト国の支配領域は、アルヴ国の国土程、森しか無いという訳でもなく、山も川も湖も、更には海に面した場所もある。
マリーカとユウナは、草原を抜けた後、ヴィルム川という川を渡った。
ヴィルム川には橋などはない。
そして対岸まではかなり距離がある。
だが幸いな事に水深は浅かったため、徒歩での渡河が可能だったのだ。
スヴァルト側からは、その川が国境とされている。
二人は遂に、スヴァルトの支配領域に辿り着いたのだった。
川岸は、河川敷のように窪んでいて、どうやら水位が変わるのであろうという事が見て取れた。
「ユウナ。ここからがスヴァルト族の領域のはずよ。私達は、使者でもなく、旅人証も持っていない、非正規入国者という事になるわ。
いきなり攻撃を受ける事もあるでしょうから、注意して進みましょう。」
「う、うん。」
いつかお母さんの授業で習ったスヴァルト国。
好戦的だという話だったので、あまり良い印象は持っていませんでしたが……。
でも、実際に会ってもいないのに、変な先入観を持つのは止めておきます。
アルヴ族だって、好戦的な人も、悪い事をする人もいたわけですしね。
とはいえ、警戒は怠らずにいなくては、です。
これ以上お母さんを危険な目に遭わせるわけにはいきませんからね!
私、視力や聴力は結構いいのです!
広い河川敷を過ぎると、丘の様になっていて、草花が広がっていました。
ミュルクの森にあったのとは違う感じのものです。
チキチキ音がするなぁと思っていたら、大き目のハムスターみたいな動物が、穴からひょこひょこ顔を出していました。どうやら鳴き声みたいですね。
とりあえず襲撃の心配は無さそうです。
丘の先は、またも草原……ですが、遠くには森が見えます。
右手の方は山みたいです。
山がいくつか連なっている感じに見えました。
「お母さん。どこを目指してるの?」
そういえば、スヴァルトの領域を目指して移動してきましたが、その先の話は聞いてませんでした。
既に領域内には入ったようですが、街や村はまだ見えません。
まさか、この辺りに家を建てて住むわけじゃないんだろうし……。
……あれ?住むのかな?
「そういえば言って無かったかしら。一先ずは、スヴァルト王を訪ねて滞在許可をもらわないとね。
それに……おそらくリトちゃんが旅人として訪れるなら、王都を目指すでしょうし。」
「王都……」
そういえば、スヴァルト国も、王国なんでしたっけ。
王……王かぁ……。
何かヤダなぁ……。変な事にならないといいんだけど……。
もう王とか王妃とか王子とか王女とか、そんな人とはあんまり関わりたくないなぁ……。
「確か……ここからだと、あの山の向こう辺りになるのかしらね。」
お母さんが指を差したのは、さっき私が見ていた山でした。
「以前、フォルセ様とルーナ様の御供としてスヴァルトを訪れた時は、山は左手に見えていたのだけれど。
……随分違うルートを通ってきてしまったみたいね。」
お母さんは、何だか懐かしむ様な、少し寂しそうな顔をしていた。
きっと、思う所があるんだろうな。
そりゃ200年以上も王家……私の両親に仕えていたんだから、当たり前だよね……。
行方不明になったという、私の産みの母。
少ししか知らないけれど、優しそうな人だったと思う。
薄緑色の髪をした、すごく綺麗な人。
王館を出たのなら、いつか会えたりするのかな?
でも、もしそんな事になっても……どんな顔をして会えばいいのか、全然分からないんだけどね。
「ちょっとまだ距離がありそうだけれど、今日は山の麓くらいまでは進みましょうか。」
そう言ったお母さんは、もう既にいつもの優しい笑顔だった。
私は、この笑顔にどれだけ救われたんだろう。
まだたった二年だけど、もっと経ってる気がするくらいに、たくさんの幸せをもらった。
私、少しはお返し出来てるのかな……。
もっと頑張らなきゃね。
――
山の麓まで着いた頃には、もう既に辺りは暗くなっていた。
暗い山は危険という事で、今日の移動はここまでという事になったのですが……
私達は、またしても何かに囲まれているようでした。
山側の森林から、得体の知れない気配がしていたのですが、夜営地を探している間にすっかり囲まれてしまったのです。
何故かまだ襲われてはいないのですが……。
「お母さん。囲まれてから結構経つんだけど……
全然襲ってくる感じがしないの。」
「そう……。山狼では無いのかしら?
……もしかして、妖精や幻獣の類い……?」
「幻獣って?」
「妖精に近しいものではあるのだけれど、もう少し動物に近い姿をしたものをそう呼ぶわね。」
「動物に近い妖精……。」
どんなのだろう……?
「とりあえず、襲ってくる気配が無いのなら、私は食事の準備でもするわね。ユウナは、念の為に警戒をしておいてね。」
「はーい!」
得体の知れない気配に囲まれたままで、あんまり気にしないだなんて。
お母さんは、やっぱりすごいなぁ……。
私は、目を閉じて、耳に意識を集中したのですが。
お母さんの作る料理が良い匂いを漂わせ始めたので、気を取られないようにするのが大変でした。
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