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残念エルフ姫ってなんですか?! そんなの聞いてませんけど…… 【神世界転生譚】ユウナと不思議な世界  作者: Resetter
三章 : 運命の分かれ道

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39. 亡命の旅路

前回のお話:リト、旅に出る

 

 ナイに逃がされたマリーカとユウナは、街道から逸れ、深い森の中を足早に進んでいた。


 簡単に捕捉されないように、例の如くマリーカの言法(セイズ)を用いて蜃気楼を作り、姿を隠している。


 そして、徒歩での移動ではあるが、そのペースは速い。


 国境まではまだまだあるが、日も傾きかけた頃には、随分と距離を稼いでいた。



「お母さん……。傷、大丈夫?」


「大丈夫よ。水薬も、治癒も、効いてるわ。

 それに……ユウナのくれた指輪が、守ってくれたみたいね。」


「えっ?」


 マリーカは、少し立ち止まると、ユウナに指輪を見せた。


 左手の薬指に()められた指輪は、宝石に亀裂が入ってしまっていた。


「あの時は咄嗟(とっさ)だったから、言法(セイズ)も使わずに矢を受けてしまったけれど、命が無事だったのは、指輪の力だと思うわ。あの矢の威力なら、身体を貫通していてもおかしくないでしょうしね。」


 私は、お母さんのその言葉を聞いて、ものすごく複雑な気持ちでした。


 何と応えていいのかも分かりません。


 あの時、私が放心してしまっていた事が原因で、お母さんが怪我をしてしまった。


 それが、指輪が無かったら危ないところだったって……。


「ユウナ。そんな顔しなくていいの。私はね、ユウナの為なら、なんだってするわ。命だって惜しくないの。」


「お母さん……。そんなのやだよ。絶対やだ。死なないでよ。」


 私は、無力感でいっぱいでした。


 この二年で、身体能力はだいぶ上がったと思っていたのに。


 肝心な所で……あんな……。


 私のせいでお母さんが死んじゃうだなんて、とても耐えられない。


「ふふ。そうね。泣き虫なユウナを残してはいけないわね。」


 そう言って、お母さんは私の涙を拭うと、ふわりと優しく抱き締めて、耳にキスをしてくれました。


 こんなに素敵な人はいない。本当にそう思います。


 でも、私は――今のままじゃ絶対だめだ。


 急な事でも驚いたりしないような精神力というか、動じない強い心を鍛えないと。


 父親の再婚相手に命を狙われるなんて、初めてだけど……


 というか、命を狙われる事自体が初めてだけど。


 そんな事にショックを受けてる場合じゃない。


 この世界で起きる出来事に一々動じてたら、皆を危険に晒しちゃうし、私だって死んじゃうんだ。


 そんなの、絶対嫌だ。


 村での狩りとは違う。


 危険から身を守る術を身に付けないと……。


 私は、逃亡者なんだから……。


 いつもと同じお母さん匂いと温もりに包まれて、護られているだけじゃ駄目だと、思い知りました。



 お母さんのお陰で少し落ち着いてきたけれど、私にはもう一つ気掛かりな事があります。


「……ナイは、大丈夫かな?」


「そうね……。ナイは、強いから……ファーヴニル副長相手でも、逃げ切るくらいは出来るでしょうが……。

 ただ、私達を直接追ってくるのは難しいでしょうね。上手くリトちゃんと合流してくれたら良いのだけど……。」


 確かに、お母さんの言うように、ナイは強いです。


 でも、そのファーヴニル副長には、そんなナイの攻撃が効かないみたいでした。


 ……それはエルフなんですかね?

 すごく疑問です。


「ファーヴニル副長って……?」


「前回の厄災で、生還した一人ね。戦いの内に重傷を負い、竜の血を飲んで命は助かったけれど、呪いを受けてしまった、という噂があったのだけど……。

 どうやら本当だった様ね。」


「……竜の血って、飲むと竜になっちゃうの?」


 あれは、竜だったと思う。


 竜……見た事は無いんだけれど……。


 竜がいるのなら、あんな感じだと思う。


「色々な事が言われているわね。寿命が延びるとか、傷が癒えるとか、竜の様に強くなれるだとか……。

 ただ、ファーヴニル副長は、厄災戦後すっかり性格が変わってしまったわね。強欲で、好戦的で、短絡的になったわ。元々は戦士団の中でも、立派な方だったのだけど……。竜の血を飲んだせいだったのね……。」


 そう言うと、お母さんは身体を離して、


「だいぶ暗くなってきたわね。そろそろ夜営の出来そうな場所を探しましょうか。」


 と、再び歩き出した。


 しばらくすると、


「ここがいいわね。」


 と、お母さんは一際大きな樹の前で立ち止まった。


 お母さんが見付けた場所は、大きな樹の根元に空いた何かの巣穴跡。


 でも、そのままでは少し小さいので、二人で入るのは難しそうかな……。


「土よ。我が言葉に応え、その姿を変えよ!」


 なんということでしょう。


 お母さんは、言法であっさりと解決してしまいました。


 小さかった巣穴は、外からは分かりにくいままに、中は広く、崩れないように補強までされた簡易ハウスに変貌を遂げたのです。


 まさに匠の技。


「わぁ……お母さん、やっぱりすごい……」


「ふふ。器用貧乏なだけの異能のお陰よ。

 さ、食事の準備をしましょうか。」


「うん。」


 そうして、私達はそこで夜を過ごしました。お母さんのお陰で、かなり快適でした。


 ――


 森の中を3日程進むと、突然森が無くなりました。


 目の前には、広い草原が広がっています。


 少し乾いた風が草を揺らしながら、私の頬を(くすぐ)っていきました。


 この世界に生まれて、森から出たのは初めてです。


 すごく不思議な気持ちです。


 話には聞いていましたが、森以外があっただなんて。


 アルヴ国のエルフは、その殆どが森から出ないまま、その長い生を終えるといいます。


 でも、こんな光景を目の当たりにすると、それではなんだかもったいない気がしました。


「ユウナ。この先は(しばら)遮蔽物(しゃへいぶつ)が無いわ。しっかり警戒するのよ。」


「うん。」


 この3日というもの、追手の気配はありませんでしたが、スヴァルトの国境はもう少し先のようです。


 まだまだ安心は出来ません。


 不思議な事に、この草原は、アルヴ国でも無ければスヴァルト国でも無いらしいのです。


 多分、空白地帯という事なのでしょう。


 あんまりピンと来ませんが、そんな事もあるんですね。



 草原をしばらく進んだ時、異変がありました。


「……お母さん。囲まれてる。」


 私の耳に、取り囲むようにして包囲を狭めてくる足音が届いたのです。


 それはとても小さなもので、おそらくは集団の狩りに慣れた野生動物か何か……。


「そう。ユウナ、すごいわね。私にはまだ聞こえないわ。」


「狩りで鍛えたから。」


 こういうのは大丈夫なんだよね……。


 街道では散々だったけど……。


 さてさて。


 とはいえ囲まれてしまっているので、一気に攻撃出来る武器がいいんだけど……


 補給が出来るか分からないから、連弩は使いたくないなぁ。


 うーん……。どうしようかなぁ。


「グルルル」


「あ。」


 考えている間に、先頭の個体はもう10mくらいの所まで近付いて来ていた。


 草の隙間から覗くのは、狼みたいな獣。


 草に隠れるくらいのサイズ感で、あまり大きくは無いみたい。


 食べる予定は無いけれど、食べられる予定も無いので、襲ってくるなら仕方ありません。


「斬!」


 ダーインスレイヴを取り回しやすい剣にします。


 アルヴでは剣はあまり人気がないので、ちゃんとした流派みたいなのを習ったわけではないのですが、師匠はもちろんお母さんです。


「あら、剣にするのね?」


「うん。」


「いいわ。じゃあ、反対側は私がやるわね。

 風よ。我が言葉に応え、刃と成れ!」


 ザァーっと風が背後を吹き抜けていく音に続いて、

「ギャイン!」 という甲高い悲鳴が聞こえた。


 それと同時に、私の眼前にも、狼達が唸り声を上げながら襲いかかってくる。


 連携を取っているようで、少しずつ距離を置いて飛び掛って来た。


 お陰で順番に斬り伏せる事が出来ました。


 5匹を数えた所で、

「アオォーン!」と、多分、ボス狼の声。


 潮が引くように、狼達は離れていきました。


「ふう……。お母さん、これ、どうしよう?」


 私は5匹、お母さんは7匹を仕留めたようで、辺りは凄惨な風景に変わっていました。


 血の臭いも酷いです。


「そうね……。交換に使えるかも知れないわね。」


「バックに、全部は入らないかも。」


「とにかく、解体してしまいましょうか。」


「はーい!」


 狼を12頭、あまり大きくはないけれど、全部解体するのは大変でした。


 スヴァルト国がどんな所かは知らないけれど、せめて奪ってしまった命が、無駄にならないといいな。

お読みいただけまして、ありがとうございました!

今回のお話はいかがでしたか?


並行連載作品がある都合上、不定期連載となっている現状です。ぜひページ左上にございますブックマーク機能をご活用ください!


また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!


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