37. 暴威のファーヴニル
前回のお話:全員集合!
マリーカは、ユウナと国外逃亡の道を選ぶ事に決めた。
だが……
「リトちゃん。」
「は、はい。」
「あなたは、村に帰れるわ。
送ってはあげられないけれど……いいかしら?」
マリーカとしては、突然の事態にリトを巻き込む事は本意では無い。
今回のヴァルの地への旅は、リトの樹拝が主な目的であり、こんな事態は想定していなかった。
このまま巻き込んでしまえば、フリッカに申し訳が立たないのだ。
「えっ……や、わ、わたしも! わたしも行く!
ユウナと……約束したから……!」
「でも……フリッカには何も言ってないでしょう?」
マリーカもフリッカも、リトがユウナと旅に出るつもりだったのは知っている。
だが、これは旅では無いのだ。
突然降って湧いたユウナの危機なのだ。
その危機から逃れるという話なのだ。
「うっ……」
「リトちゃんが来てくれるまで、スヴァルトで待つわ。
リトちゃんまで逃亡者になる事はないの。旅人として、ユウナを助けてあげて?」
「うっ……うぅ……わ、わかり……ました……。
手続きと準備をしたら、すぐ行きます。」
「フリッカや、村の皆に伝言お願いね。事の顛末と、今後、気を付ける様に、と。」
「は、はい! ……ユウナ。」
「えっ……あぁ……リト。」
「ユウナ、わたしもすぐ行くからね? 絶対、逃げ切って!」
バッと両手を拡げて、リトはユウナを抱き締めた。
ユウナは、その温もりを感じて、辛うじて返事をする。
「う……うん。」
「じゃあ、わたし、行くね。」
リトは、言うなり村へと急いだ。文字通り、空を飛んで。
「ユウナ、さ、立って。私達もいきましょう。」
「あ、うん……。」
ユウナは、話の内容にショックを受けている様で、茫然自失といった様子である。
しかし、いつまでもここに居る訳にもいかない。
後続の追手が来るには、おそらく一時間くらいはあるだろう距離ではあるが……。
ふと、マリーカがヴァルの地方向に視線を移した。
その瞬間、視界に掠めた一条の細い光。
「ユウナ!!」
――ブシュッ!!
「お……お母さん!!?」
マリーカは、咄嗟にユウナを庇う。
飛来した物は、一本の矢だった。
マリーカの背……右肩甲骨辺りに突き刺さっている。
「お母さん!! お母さん?! 大丈夫?!」
「ユウナ。大丈夫よ。これくらいなら……治せるから。」
マリーカは、少し引き攣った笑顔を作る。
ユウナは、顔面蒼白となり、腰に着けたバックに手を突っ込んだ。
「水薬……水薬……!」
「おーおー。惜しかったなぁ。庇っちまうとはよぉ。さすが筆頭補佐官ってかぁ〜? やるなァ。」
街道から悠々と姿を現した一人の男。
小馬鹿にするかのように、拍手をしながら近付いてくる。
「……ファーヴニル副長?!」
「マリーカぁ……。お前は生け捕りなんだよ。邪魔すんじゃねぇよ。大人しく退いてろよ。直ぐにそのガキ……
って、二歳児じゃあねぇのか? 随分デケェな。ま、何でもいいさ。始末する事にゃ変わりはねぇ。」
ずいっと、ナイが射線を塞ぐ様に立ちはだかる。
「敵か。」
「なんだぁ? 化物が何でこんなとこにいるんだぁ?
ん〜? お前が、コレやったのか?」
ファーヴニルは、血溜まりを親指で指し示した。
「そうだ。お前も、そうしてやる。」
「ナイ! ファーヴニル副長は、普通のエルフではないわ! 竜の血を飲んだという噂で……」
「くははは! うーわーさぁー? くはははははっ! 噂なら、良いなァー!!」
――グギョッ!!ボゴォッ!!
奇妙な音を立てて、ファーヴニルの腕……脚……胴……そして顔までもが、ボコボコと膨らみ、その形を変えていく。
――ザッ……ガギィッ!!
ナイは、その隙にファーヴニルに噛み付いていた。
「なーんだよ。せっかちな奴だな! くははは! もう終わるよ!」
――グオォアアァァ!!!
勝ち誇ったかのような台詞を吐いて、天を切り裂くかのような咆哮を上げるファーヴニル。
その姿は――竜。
今のナイよりは一回り程小さいが、まさしく竜の姿に変貌を遂げていた。
「え……な、なにあれ……?」
「噂は……本当だったのね。」
「くははは! ま、化物が居たんじゃあな。他の奴らじゃあ無理だろうなぁ。レーナ王妃様々だぜぇ。こーんな獲物にありつけるたぁよ! 近頃はめっきり出番も減ってたからなぁ。くははは! ありがてぇこったぜ!」
茶の混じった様な黒い竜は、獰猛に禍々しく、その瞳は赤々と怪しく輝いているようだ。
首筋にナイの牙が掛かっていても、硬い鱗で肉までは届いていないのか、気にする素振りすらない。
「さぁて。じゃあ、ユウナとやらを始末するとしますかね!」
――ヒュオォォ……!! ゴバァッ!!!
大きく息を吸い込んだファーヴニルは、ピタリと動きを止め、次の瞬間炎を吐き出した。
「水よ! 我が言葉に応え、その力を示せ!」
咄嗟にマリーカは、水をドーム状に展開する。
ナイは、牙が刺さらないとみると、前脚で竜の口を塞ぎに掛かった。
そして、
「マリーカ、ユウナ。逃げろ! ここは、ナイが通さない。」
と、ユウナたちに告げた。
「えっ……そんな?!」
「だめよ、ユウナ! ナイが敵わなければ、どうしようもないわ。逃げるしかないの! 走って!」
「ナイ……! ナイーー!!」
ユウナは、マリーカに引き摺られる様に森の中へ消えていく。
「チッ……化物が……。邪魔しやがって……。
オラァ!! 退けよォ!!」
――ザシュッ!! ズバッ!!
「ナイは、どかない。敵は、通さない。」
「クソがッ!! 何なんだ、てめぇはよ!! 化物のクセによ!! なんのつもりだってんだ!!」
二匹の……まさに怪物とでもいえる者共は、噛み付き合い、殴り合い、その牙を爪を、お互いの身体に突き立てあった。
その戦いの音、そして怒声は、王館までにも響いたという。
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