31. リトの異能/王との謁見
前回のお話:エルフはbonsaiしないよ
「ど、どんな感じ? 異能、もらえた?」
恐る恐る、大人びた雰囲気を醸し出しているリトに声を掛ける。
じきに淡い光もフッと消えて、リトは人差し指を顎に当てて、少し考え込んだ。
その仕草が、ものすごく可愛い。
「えと……ん〜……多分象言法、かな?」
異能は、授かる時に名前が浮かぶようなものではなく、漠然と"出来そうな事"がイメージ出来るという感覚らしく、その"出来る事"で名前を決めたりしているそうです。
よくある異能や過去に有名だった異能は、名前が伝わってたりもするそうですが……
「象言法?」
「ん〜……。じゃあ、ちょっと水を出してみるね。」
リトはそう言うと掌を広げた。
すると突然、何も無いところからコポポッと、掌の上に水球が現れる。
「えっ? 何それ?! 言法ってそんなだっけ?!」
今まで何度も見たけれど、言法って 「水よ!我が言葉に~」 みたいに詠唱? してたし、言葉が長ければ長い程威力があるみたいな感じだった気がするけど……?
「えっと、現象のイメージがちゃんと出来てたら、詠唱は要らないみたい。そういう異能……かな?」
「えぇっ! 何それ?! すごくない?! ていうか、もうそれ、言法じゃないよね?!」
「うん。かなり便利そうな異能で良かったぁ……。これなら旅人としても大丈夫そう。本当は停滞とかの方がいいんだろうけどね……。」
「……便利っていうか……すごく強いんじゃないかな?」
好きな時に、思ったところへ任意の現象を起こすだなんて……
リトはあんまり気にしていないようだけれど、ものすごい超能力だと思うんだけれど……
もしこの先、何かと戦うような事になっても、すごく有利な気がするけどなぁ。
「じゃあ樹拝も終わったし、ナイのところ行こっか。」
リトは、やけにあっさりとしているけれど、私は驚きでいっぱいでした。
少なくとも、ミュルク村では見た事のない異能なのに。
欲しかったものと違ったのかな?
不思議です。
――
その頃マリーカは、謁見用の部屋に通されていた。
そこは、スヴァルト族が訪ねて来た時か、各村の村長との謁見に使う程度の、普段はあまり使わない部屋だ。
元使用人としては、何故ここに通されたのか、あまり腑に落ちない。
所詮は元使用人なのだ。執務室などでいいはずだ。
来客扱いというなら、応接室だってこの館にはある。
謁見の間を使う時。
それは、相手に対して権威を示す場合と、警戒をしている場合だ。
前者の場合は、部屋の中にずらりと兵を配置する。
後者の場合は、隠し扉の裏に兵を配置する。
マリーカの訪問に対して、権威を示す必要は無い。
おそらく警戒をしているのだ。
それを物語るかのように、目に付く場所に兵の姿は無い。
何を警戒されるような事があるのか。
マリーカは考えるのだが、答えは出ない。
思案も纏まらないままだったが、謁見の進行役であろう大臣が大扉を開けて入ってきた。
そして、つかつかと玉座のある上座へ向かい歩いていく。
玉座前まで行くと、大臣は礼を取り、くるりと向きを変え、脇に逸れた。
そして、段下より声を上げる。
「フォルセ・アルヴ・ヴァルコイネン王、及び王妃の御目見である。平伏低頭!」
如何な使用人筆頭であったマリーカといえど、こんな場面は体験した事は無かった。
だが、作法は分かる。
瞑目し、膝を付き、頭を垂れ、両の手を組むと、額に当てるように掲げた。
何かに祈るような姿勢だが、これは武器を持っていないという意思表示からきた作法だった。
「マリーカ。息災のようだな。顔を上げるがよい。」
「はい。」
マリーカが顔を上げ、目を開いた瞬間に飛び込んできた映像は、彼女に凄まじい衝撃を与えた。
並の者なら、声を上げてしまっていただろう。
「それで、用件とは何だ?」
「は……はい。旅に出る御許しを頂きたく。」
「旅? 何故だ? 故郷のミュルクで暮らしていたのではなかったか?」
「はい。ですが、ユウナ様が旅に出たいと申されましたので、その旅に同行し、行末を見守りたいと……」
「ほう……ユウナがか……。」
フォルセはそう呟くと、背もたれに身体を預けるようにして瞑目し、考え込む。
そこに、王妃が口を開いた。
「フォルセ様。発言の御許しをいただけますかしら。」
「レーナ。どうした。何かあるのか。」
フォルセの横に王妃として座っていたのは、マリーカの知るルーナではなかったのだ。
「この、マリーカさんは大変優秀だと聞き及んでおります。その様な貴重な人材を、何故遊ばせておくのでしょう?」
「それは……」
「どうせ前王妃とのお約束だとか仰るのでしょう?
ですが、もう居なくなられた方とのお約束などを律儀に守ったところで、種の繁栄に如何程の意味がありましょうか。
それに、王位継承権も剥奪した障害持ちの追放者の行末など、どうでもよろしいではございませんか。
その様な者に、優秀な人材を充てがうなど、愚かしい事ですわ。
優秀な人材ならば、我が娘アーナの為に、一刻も早くお戻しになるのがよろしいかと思いますわ。」
一気に捲し立てたレーナ新王妃の言葉に、マリーカは困惑を極めていた。
このままでは、旅に出る事は疎か、ユウナの帰りを待つ事すら出来ない。
そして、ルーナの事もだ。
ルーナはどうなってしまったのか。
死んでしまったのか。それとも生きているのか。
生きているなら、どうしているのか。
200年に渡るルーナとの想い出が、ふつふつと湧き出てくる。
マリーカが、ユウナを救うと決めた動機には、ルーナへの想いも含まれていたのだ。
ルーナが一緒に居られないなら、せめて自分が……と。
もう、今の状況では、交渉どころでは無い……
と、マリーカは怒りの感情を抑えながらも、そう思った。
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