19. 嘘は許されないみたいです。
前回のお話 : すごい圧です。
ついに裁きが始まるようです。
「それでは、裁きの儀を始める。
申裁者は、ヴェル及びヴィンダーの2名。
被裁者は、マリーカ、ユウナ、リトの3名。
相違なければ、祭壇の前へ。」
村長さんが、裁き開始の宣言をしました。
それに従って、名前を呼ばれた全員が、祭壇の前に並びます。
ちょっと緊張してきました。
どうなるんだろう……。
リトちゃんは、やっぱり少し青い顔をして、胸の前でキュッと手を結んでいました。大丈夫かな……。
マリーカさんは、やっぱりいつもと変わらない様子です。
ほんとにかっこいいです。
よし、私も落ちついて、堂々としなきゃ。
村長さんは、私たちが並んだのを見渡すと、手に持っていた木製の杖を、カッカッと二度、地に打ち付けました。
そして、たぶん重要事項かなぁと思うことを話しました。
「これより、詰問に対し、偽りを申した者には罰が下される。
虚偽はその一切が暴かれ、通用することはない。
各々、心して答えるように。」
ちょっと難しい感じの言葉だなぁとは思いましたが、要するに嘘はダメだということだと思います。
正直に話せばいいって、マリーカさんは言ってました。
嘘なんかつくはずないです。私はこくりとうなずきました。
そして、その場にいた人たちもみんな、真剣な顔でうなずいてました。
村長さんは、それをゆっくりと見渡すと言葉を続けました。
「では、申裁者ヴィンダーに問う。
昨日、友と三人で遊んでいた所に、被裁者ユウナ及びリトに、ユウナの使役する化物をけしかけられ、襲われるに至り、友を庇い怪我を負うた。
この申立文言に偽りはないか?」
村長さんの言葉に、ヴィンダーくんはグッと拳を握り締めて、ギッと奥歯を噛み締めます。
そして、身体を震わせながら、叫ぶような感じの大声で一言、
「無い!」
と言いました。
すると……
――ピシャーン!!
その瞬間、なんの前触れもなく雷光が閃き、ヴィンダーくんは光に呑み込まれてしまいました……。
「い……イヤアァアァァァァ!!! ヴィンダー!? ヴィンダー!!」
それを間近で見ていたヴェルさんは、我が家でマリーカさんに怒鳴っていた時よりも大声で、絶叫しました。
そして、頭を両手で抱えて、ボロボロと涙を零しながら、地面に両膝をついて、ぶつぶつとなにか呟いてました。
それは、だんだんと大きくなっていって……
「なんでっ……! そんな……! こんな……こんなの……あの無能と色付きの陰謀よ!! 間違いないわ!!」
――ピシャーン!!
間違いない、と言った途端、ヴェルさんもヴィンダーくんみたいに雷光に呑み込まれてしまいました。
すごく眩しい光でした。
朝の陽の光みたいな優しいものじゃなくて、目も開けてられないような……そんな光。
私が目を開けた時に、そこにいたのは……
黒く焦げた蝙蝠と鼠でした。
その蝙蝠と鼠は、ヒクヒクと痙攣していました。
ヴィンダーくん……ヴェルさん……
嘘をついたら、あんな風になるんですね……。
それが、裁きなんだ……
――
「ふむ……。早々に裁きが下されたか……。
真に改心し、愚行に報いるならば、元の姿にも戻れよう。
では、これにて終着である。」
仰々しく村長は宣言し、祭壇を降りると、振り返る事も無くスタスタと足早に帰って行った。
その様子は、少し苛立っているようでもある。
その姿を無表情に見届けたマリーカが、視線を戻してユウナとリトに話掛けた。
その声色は、慈愛の色を含んだものだった。
「ユウナ様。リトちゃん。帰りましょうか。」
「え……あっ! うん。」
あまりの出来事に、放心していた私は、マリーカさんの言葉で我に返る。
今まで感じていた村のイメージからは想像出来ないような、現実感のない光景だった。
リトちゃんを見ると、まだ呆然としていた。大丈夫かな?
ほんと、びっくりしたよね。
もう終わったみたいだし、帰らないと。
と思って、リトちゃんの肩を掴んで揺すってみる。
「リトちゃん! リトちゃん?」
「……あっ、ユウナちゃん。」
リトちゃんも、気が付いたようで、視線が合った。
「終わったみたいだから、帰ろ?」
ニコッと微笑んで、手を差し出すと、リトちゃんもキュッと握り返してくれた。
「あ、うん。」
「うちでご飯食べてく?」
「え? いいの?!」
私の突然の提案に、リトちゃんはすごく嬉しそうな顔をしてくれました。
「マリーカさん、いいよね?」
「もちろんです。」
そして、マリーカさんも優しく微笑んでくれます。
「じゃあ、フリッカさんに言ってこないとね!
リトちゃん、行こ!」
「うん!」
そうして、手を繋いだまま、リトちゃんの家に向かいました。
――――
――
フリッカさんに、私は、リトちゃんを晩御飯に誘ったことを伝えにきたつもりだったのですが……
「ユウナちゃん、すまなかったねぇ。」
フリッカさんは、裁きになってしまったことを、すごく申し訳なさそうに謝るのです。
「いえ、そんな! 私なんて、何も……」
良く考えなくても、いじめのことも、裁きのことも、びっくりするくらい私は何もしていません。
いじめはナイが助けてくれたし、裁きは何もする前に終わりました。
「そんなことはないよ。リトと仲良くしてくれてありがとうね。
アタシはリトがいじめられてるのを知ってても、何もしてあげられなかった。母親失格だよ。」
「お母さん……」
フリッカさんの言葉に、リトちゃんは少し悲しそうな顔をしました。
それを見て、私は何だか少し歯痒い気持ちになりました。
もやっとするというか……
だからつい……
「フリッカさん……。フリッカさんの作ってくれたバームクーヘン、美味しかったよ! すごく優しい味がした。お仕事 忙しいのに、わざわざ作ってくれて。フリッカさんは立派なお母さんだよ!
それに……リトちゃんは、可愛くて優しくて、お手伝いも頑張ってて、すごく良い子だと思う!
毎日頑張ってる二人が、母親失格とか、いじめられるとか、変だよ! おかしいよ! そんなの間違ってるよ!」
と、一気にまくし立ててしまいました。
話している途中で、段々興奮してしまったのか、最後は少し涙を零してしまいました。
そんな私を、フリッカさんは、優しく撫でてくれました。
「ユウナちゃん……。ありがとうね。
リト……。良かったね。良いお友達が出来て。」
「うん!」
「晩御飯だったね。行っといで。
ああ、そうだ。ウチには大した物はないけど、卵だけはあるからね! 持ってくかい?」
「卵! も、いいけど……。フリッカさんも、一緒に来て!」
「えぇっ?! アタシもかい?」
「リトちゃんも、フリッカさんと一緒がいいよね?」
「うん!」
こうして、三人でマリーカさんの待つ我が家へと向かいました。
外は夕暮れ。
夕陽が赤々と、ルク達を照らしていました。
ふと後ろを見れば、三人の影が伸びて、さっきまでの恐ろしい体験が、まるで幻かのように、静かな村の夜の訪れを告げていました。
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