16. リトちゃんとお出かけ
前回のあらすじ:柔らか格闘武器エルフに、私はなる！
「ユウナ。朝だ。」
「ん……。ナイ……おはよう……」
爽やかな朝日が創り出す木漏れ日。澄んだ空気。
ミュルク村の朝は、いつもこんな感じ。
微睡む意識も、すぐに呼び起こされるようです。
私が村に来てから、１ヶ月が経ちました。
生後１ヶ月ですね！
とはいえ、身体の方は１ヶ月前とあまり変わらないのですが……。
――コンコンコン
「ユウナ様。おはようございます。
お召し換えいたしましょうか。」
「マリーカさん。おはよう！」
今日もマリーカさんが着替えさせてくれます。
自分で出来る服もあるんだけれど、自分でやろうとすると、なんだかマリーカさんが少し悲しそうな顔をしていたので、やってもらっているのです。
午前中は、運動に適した感じの服で、パンツルックのような格好が多いかな？
わりと伸び縮みする素材だけど、結構丈夫な感じ。
何で出来てるんだろう？
お兄ちゃんのジャージより全然丈夫い感じ。
「さ、朝食といたしましょうか。」
「はーい！ あ、マリーカさん！ この服何で出来てるの？」
「ああ。そちらは、南の花畑で育てている服用の花ですね。」
「えぇー？！ 花が……こんなに伸びる布になるの？！」
「それはハーナルの異能ですよ。」
マリーカさんは少し微笑みながら答えてくれました。
ハーナルさんってほんとにすごいですね！
――
「あ、そうだ。マリーカさん。今日、お昼からリトちゃんとお出かけして来てもいいかなぁ？」
朝食の後片付けをお手伝いしながら、マリーカさんに訊ねる。
「はい。もちろん構いませんが、暗くなる前にはお戻りくださいね。」
「わーい！ やった！ マリーカさん！ 大好き！」
私は、マリーカさんに飛び付いた。
マリーカさんは、そんな私の頭を優しく撫でてくれるのです。
――
お昼寝から醒めた後。
念のためにと装備一式をマリーカさんに着せてもらい、鳥小屋まで走る。
ナイもその後をタッタとついてきてくれる。
「リトちゃーん！」
「ユウナちゃん。」
鳥小屋の前で、もうリトちゃんが待ってくれてた。
手に籠を下げてるみたい。
今日は、一緒に薬草を取りに行く約束をしてたんだよね。
「リトちゃんごめんね！ 待った？」
「んーん。大丈夫だよ。ナイも、いるんだね。」
「ナイは、ユウナを守る。だから、行く。」
「今日は、薬草を取りに行くんだよ？ 危ないことはしないよ。」
「そうか。分かった。」
――カチャ……キイッ
鳥小屋の隣のログハウスから、フリッカさんが出てきた。
「あんた達、これ持ってくかい？」
「フリッカさん！ こんにちは！」
フリッカさんが渡してくれたのは、バームクーヘンのような焼き菓子。
ミュルク村のバームクーヘンは、ふわふわ食感で、フルーティーでフローラルで、素朴なんだけれど、どこか上品で、とても美味しいのです！
多分、材料が卵と花だからそうなんだと思う。
とにかく絶品なのです！
「「ありがとう！」」
お菓子を受け取って、ルクの広場の方に歩いて行く。
薬草を取りにいくのは、村の南の森。
南の森は、北に比べると大きな獣がいなくて、危険が少ないみたい。
だから、薬草集めは子供の仕事だったりもする。
だから私も覚えるのです。
リトちゃんも、毎日お家のお手伝いで鳥の世話もするし、こうして薬草も取りに行ってるんだって。
リトちゃんって偉いよねぇ。
村の南側、ルクの柵に差し掛かったところで、少し離れた場所に男の子たちが三人で遊んでいるのが見えました。
「お、あれ、無能じゃないか？」
「鳥フンもいるぜ？」
「ちょっとからかってやろうぜ！」
柵に沿って森の方に向かって歩いていた私達の前に、三人の男の子達が走ってきて、道を塞いでしまいます。
何でしょうね？ 一緒に遊びたいのかなぁ？
「よーよー！ どこいくんだよー？」
「桜色！ お前、言法使えない無能なんだって？」
「鳥フンと無能が揃ってなにしてんだよー？」
ええぇー？！ た、大変です！
こ、これはイジメというやつじゃないのかな？
前世では、あんまり学校にも行けなかったから、友達も居なかったけれど、イジメというものもされたことはないし、見たこともなかったけど……
ど、どうしたらいいんだろ……？
リトちゃんを見ると、うつむいてギュッと籠を握り締めていた……。
「なんだよ？ なんか言えよー！」
「あーあー！ そんな態度なら仕方ないよなぁー」
「お？ ヴィンダー、やっちゃうの？」
三人ともなんだかすごく盛り上がっていました。
そのうちヴィンダーくん？ と呼ばれてた子が、仕方ないとか言って、言葉を紡ぎ出しました。
「風よ！ 吹き渡る風よ！ 我が言の葉に応え、その力を示せ！」
――ビュオォ！！
っと、風が巻きながら吹き抜けていきます。
「キャッ……」
風は中々止みません。
すると、隣でリトちゃんが短い悲鳴を上げた。
見れば、スカートが捲れてしまっていた。ひどい！
「へっへっへっ！ どーだー？ すげーだろー！」
「さっすがヴィンダー！ 鳥フンのパンツ丸見えだな！ パンツにも鳥フン付いてんのかー？ 見せてみろよー！」
「無能はスカートじゃないから命拾いしたな！」
やることもひどいけれど、言うこともひどいです。
大体、毎日家のお手伝いを真面目に頑張っているリトちゃんに……
こんなひどいことするなんて！
「ナイ！」
「ん。」
ナイは、私の合図で大きい姿になった。
それを見た男の子たちは、顔面蒼白になり、膝をカクカクいわせて、涙目になっていた。
「「「な！ず、ずるいぞ！！！」」」
男の子たちの悔し紛れの台詞が、見事にハモってた。
そして、男の子たちは慌てふためいて、何度か転びながら走り去っていきました。
「ユウナ、リト。乗るか？」
「「うん」」
そんなこともなげなナイに、リトちゃんと一瞬顔を見合わせて、お互いに笑い合う。
リトちゃんの笑顔、可愛いなぁ。
森に入ってしばらくすると……。
「あ！ ユウナちゃん！ あれ！ 美味しいから！」
「えっ？ どれ？ ナイ、止まって？」
リトちゃんは、指差している方に走り寄ると、背の低い木の前で止まった。
「これ！ 食べてみて？」
渡された木の実？ を食べてみると……
「えっ？ 美味しい！」
「でしょ？ わたし、これ好きなんだ！」
それは、少し固めのグミといった感じだったのです。
でも、グミより遥かにジューシーで、ものすごく美味しい！
結局そこで休憩することにして、バームクーヘンを食べたり、お話したりした。
リトちゃんは、結構前から男の子達にいじめられたりしていたそうで……。
元々、引っ込み思案な所があるのと、毎日のお手伝いとで、子供達の輪に入れなかった、と言ってた。
私は、事情は違ったけれど、輪に入れないという気持ちは分かるな……。
こんなに健気で可愛い子なのにな。
私も、お友達ってよく分からないけれど、リトちゃんとは仲良くしたいな。
そうしてその日は、薬草をたくさん集めて、暗くなる前に帰ったのでした。
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