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悪魔の来訪

 マリリエンヌ・ツェペリアヌス

 彼女の父は国王陛下の側近長だった。母はマリリエンヌが3歳の時に亡くなった。


 イオニスと婚約が決まったのはイオニスが10歳。マリリエンヌが8歳の時だった。

 幼すぎて婚約の意味もわからない2人だったが互いが初恋の相手となった。


 イオニス・カラマントス・デュカドエル 

 デュカドエル王国の第二王子にして第一王位継承者。

 第一王子であるネストル・カラマントスは国王の側室の子どもとして生まれた。

 そしてその2年後、正妃から生まれたのがイオニス。

 この国では王位継承権はイオニスにある。


 イオニスとマリリエンヌは幼い恋心を互いに大切に大切に育み、共に美しい大人へと成長した。

 誰が見ても仲睦まじくお似合いの2人。

 2人が結婚することに何の問題もなかった。

 と思っていた…あの日までは。



 歯車が狂い始めたのはマリリエンヌの父が急逝した時だ。

 マリリエンヌが16歳の時だった。

 少し早いがそのままイオニスと結婚させようかという話も出た。

 マリリエンヌはそうなってほしかった。

 しかしそこに父の弟家族が現れた。


 よくある話だ。

 よく出来た兄と、出来損ないの弟。

 彼と彼の妻そして娘がある日家にやってきて、そのまま居座り、気づけばマリリエンヌを養子にしていた。


 概ね、マリリエンヌがイオニスと結婚した際送られる準備金と祝い金を狙っていたのだろう。もちろんマリリエンヌの父親の財産も。


 思えばその頃からマリリエンヌとデジーは2人で内密に色々なことをし始めた。

 手始めにマリリエンヌの宝石やドレスを少しずつデジーに渡し、デジーは自分の実家にそれらを隠していった。

 放っておくと叔父家族に何をされるかわらかない。2人は相談し実行した。少しずつ、そして高価な物から順番に持ち出した。


 ーーーーー


 そんなある日、悪魔がやって来た。


「どういうことでしょうか?」


 マリリエンヌの家に突然やってきた第一王子ネストル。

 彼はイオニスの兄にあたるが、彼の母親が正妃ではないため、彼にとっては弟ではあるが正妃を母に持つイオニスがこの国の次期王位継承者だ。

 そんな事情のためかネストルの素行が王族らしからぬことは皆の知るところだった。

 そんなネストルがなぜ?


 彼の訪問の理由がわからず警戒するマリリエンヌと裏腹に、叔父家族は大歓迎の様子で彼を迎えた。

 叔父家族は彼が来た理由がわかっているようだった。


「お前が俺の側室になるのだ」

「…………私が?………ネストル様の?…あの、お、恐れながら殿下、な、何をおっしゃっているのかわかっていらっしゃいますか?……私はイオニスの婚約者です。」

「ああ、わかっている。だからこうして今夜わざわざここに来たのだ。…さすがに王宮ではできない話だからな」

 何がおかしいのかネストルと叔父家族はニヤリと笑いあった。


「恐れながら、不可能かと。」

「ほぉ、なぜだ」

「イオニスは王太子殿下です。公爵令嬢という身分である私から婚約破棄など出来ません」

「だから、婚約破棄になるようもっていけばいいんだ」

「どういうことでしょう…か?」

「要はお姉様がイオニス様に嫌われればいいのよ」

 叔父の娘であり、今やマリリエンヌの義妹であるローダが意地悪く笑った。


「イオニスへの策は俺が考える。お前はただ弟を無視し続け非礼な態度を取り続けるのだ」

「そんなことできません」

「なぜだ」

「イオニスを…イオニスをお慕いしているからです!!」

 マリリエンヌは思わず立ち上がり叫んだ。


 するとネストルも立ち上がり、いきなり彼女を殴った。

「俺がお前を側室にと言っているのだ!お前は俺に歯向かえる立場ではない!」


 ソファに倒れ込んだマリリエンヌは頬を抑えネストルを睨んだ。


「言うとおりにしないと言うなら、俺にも考えがある」

「マリリエンヌ、よく考えろ。

 俺はイオニスの兄だ。イオニスは俺を慕っている。

 俺が差し出す飲み物も食べ物もあいつは一切疑わず口にするだろう」

「何がおっしゃりたいのですか?」

「イオニスを殺すのは簡単だと言うことだ」

「そんな!なんてことを!!」

「イオニスを殺されたくないなら俺の言うとおりすればいいだけだ。簡単なことだ。」

 マリリエンヌは口唇を噛み締めた。

「わかったな。あいつを生かすも殺すもお前の態度次第だ」


「大丈夫よ、お姉様。イオニス様は私が慰めてさしあげるから。私がお姉様の分も立派な婚約者になるわ」

 ローダが言った。

「そうだな、そうしたら王宮から結婚資金を頂けるしな。」

「あら、幸せなことばかりじゃない。ね、マリリエンヌ、これで全員が幸せになれるわ。素晴らしいじゃない。」

 どこまでも腐った叔父家族にマリリエンヌは収まらない怒りを感じた。




 マリリエンヌはイオニスに打ち明けようとした。そしてネストルと叔父家族に見つからないよう、「会いたい」と書いた文を、イオニスの側近に預けた。


 約束の日、その場に来たのはイオニスではなくネストルだった。

「イオニスは先程から体調が悪いらしい。毒でも盛られたのだろうか……お前が俺を裏切ろうとしたからかな、マリリエンヌ。」

 マリリエンヌは真っ青になってその場から逃げた。

 ネストルの嘲るような笑い顔が目に焼きついた。


 確かめると、たしかにイオニスは急に体調を崩したらしい。たいしたことではなかったが、念の為執務等は休んだということだった。


 マリリエンヌは初めて心の底から恐怖を感じた。

 ネストルは本気だ。

 今回はそれを自分にわからせる為にわざと少量の毒で済ませたのだ。

 イオニスは本当に殺されるかもしれない。


 ただそれを誰かに訴えたところで相手は第一王子。マリリエンヌが不敬罪に問われるだけだ。


 マリリエンヌは決断するしかなかった。それしかイオニスを守る方法を思いつかなかった。




 その日からマリリエンヌはイオニスを避け続けた。

 目も合わさず、誘いも受けない。文も受け取らないし、送りもしない。


 もちろん舞踏会には全て欠席した。

 一方、ローダはこれみよがしにドレスを新調し出掛けて行った。


 マリリエンヌがイオニスと距離を置けば置くほど、その隙間にローダが入り込もうとしていた。


 彼から何度も訪問の打診がされた。

 これも全て叔父夫婦が断った。




 マリリエンヌはほとんど外に出ないようになった。ただただ部屋で泣いていた。


「お嬢様、泣いてるばかりではいけません!何か考えなくては!イオニス様とのことはもちろんですが、このままでは……お嬢様はネストル様の側室にならないといけないのですよ!それだけは!そんなのイヤすぎます!」


 その言葉を聞いてマリリエンヌはハッとした。

 そうだ、そうだった。ここで挫けている場合じゃない。なんとかしよう。なんとか……逃げる方法を考えるのだ。




 その日からマリリエンヌは朝から晩まで考えた。

 でも修道院であろうと、町娘のフリをしようと必ず見つかるだろう。

 親もきょうだいもいない自分がこの国で王族から逃げ切れるはずなどない。



 藁をもすがる思いでデジーにある1つの相談をした。


「デジー、いつかあなたは魔女の話をしてたわよね?あなたのお家の近くにいると。

 彼女に会えないかしら」


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