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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

高速最高難易度ダンジョン踏破物語?人類初やっつけ従魔師という謎の外れジョブと思ったら、ダンジョン最適ジョブでした。

作者: へたまろ

へたまろからの挑戦状

ギャグストーリーです。

静かなところで、決して声を出さずに読んでください。

クスリってなったら、評価してくださいね。

一度でも声を出して笑ったら、ブクマと評価よろしくお願いしますm(__)m

***

<村の教会>

「お前のジョブは、やっつけ従魔師だ!」


 教会で神より与えられたジョブが発表される。

 集まった、成人を迎えた子供たちが順番に。


 僕のジョブ名に、周囲からどよめきが起こる。

 神父様が、職業の書を全力でめくっている。

 索引を片っ端から見て、パラパラと何度もページをめくっている。

 そして、後半の紙の色が青色に変わった数ページ。

 その最後のページにそれはあった。


 後半の青色のページは、ユニークジョブ。

 一人限りのジョブで、そのジョブを授かった人が死ぬまで他の人にそのジョブが現れることはない。

 そして、その最後のページにあるということは……世界初の新ジョブだということだ。


 最初は期待に目を輝かせていた神父様だったが、本文を読み進めるにあたって眉間に皺をよせ険しい表情へと変わっていった。


「うむ……いろいろと、大変であろうが……まあ、その悪くないジョブっぽいぞ……たぶん」


 目を泳がせながら、どもりながら言われても。

 周りの子供たちも、憧れ半分、嘲笑半分といったところか。

 ユニークジョブというのは、確かに憧れる子が多い。

 たとえ、外れジョブだとしてもだ。


「せ……制約が多く、その……まあ、あれだ、お前は苦労するかもしれぬが……まあ、その……まあ、頑張れ」


 ……憧れ半分だった子供たちの顔も、苦笑に変わっていった。


***

 それから、三カ月。

 僕は、冒険者になった。

 ダンジョンにもぐるために。

 普通の冒険者の仕事?

 とんでもない……僕じゃ、魔物なんか倒せっこない。

 装備の制約がきつすぎる。

 防具はローブが普段着しか、着用できない。

 武器は、鞭のみ。

 市販の鞭で、僕が買える予算内のものでは魔物に到底太刀打ちできない。

 ステータス補正も、ほとんどないので荷物持ちすらままならない。

 ただ、重たい荷物を持てないだけで軽い荷物なら持てる。

 なら、なんでダンジョンにと言われるかもしれないけど、安全に手早くレベルを上げるためだ。

 ここは一階層はスライムしかいないので、森や平野より安全だし。


「たくよー、まあいないよりいた方が、マシだけどさ」


 そんな悪態をつきながら、俺の前を歩く剣士。

 幼馴染の友達である、ケンちゃんだ。

 頼りになる、村の同世代の中のリーダー的存在。

 面倒見がよく、正義感が強いが、少し口が悪い。


 彼のジョブは、上級ジョブのソードダンサー。

 大当たりだ。

 本人は嫌がったが、剣舞を得意とするジョブ。

 まあ、ショーなんかでも稼げるし、レベルがあがれば貴族や王宮お抱えの舞踏家として、舞踏会等で前座やデモンストレーション任せてもらえることも。

 もちろん、実戦でもそれなり以上に強いが。

 

 そう言いながらも、流れるような動きでスライムを斬っていく。

 斬った動作のまま身体を回転させて、次の攻撃に淀みなくつなげている。

 すでに、ジョブの特性を身に着けつつあるケンちゃんに少し嫉妬する。


「えい!」

「はあ……もっと、よく狙えよ」

「そんなこと言っても、鞭って思った通りに動かなくて」

「貸してみろ」


 そういって、僕の手から鞭をとったケンちゃんは、それを使ってスライムを弾き飛ばす。

 というか、スライムが弾けた。

 しかも、鞭には体液すらついてない鋭さ。

 そのまま、回転しつつ身体の周りを渦のように、鞭がクルクルと回り。

 最後には、ふともも、腰、脇に巻き付け、ビシッと額の前で手を止めて、脇から顔の前にピンと張られた鞭が振動でビーンッと軽く音を鳴らす。

 さすが、ソードマスター。

 鞭を使った舞も様になっている。


「うん、すごいよケンちゃん」

「いや、そうじゃなくてだな……これで武器のせいじゃなくて、マジュ、お前の腕のせいだってのは分かったろ?」

「……本当に、どんくさくてごめんね」


 ケンちゃんの言葉に、うつむいて謝る。

 それなりの冒険者パーティに誘われているのに、いったん待ってもらってレベリングに付き合ってくれているケンちゃんには申し訳なさしかない。


「そういうことを言いたいんじゃない。頑張れば、この武器でお前も魔物が倒せるってことが証明したかったんだよ」


 そう吐き捨てるようにいったケンちゃんの顔が、ちょっと赤い。

 そんなに、怒らなくても。


「だいたい、マジュは女なんだから、冒険家なんかやらなくても、俺が……」

「俺が?」

「いや、なんでもない」

 

 ゆでだこみたいに真っ赤になったケンちゃんが、首を横に振っている。 


「一人前になって、家を買って生活が安定したら続きは言うよ」

「うん」

「俺がいなくなっても、絶対に無理だけはするなよ! 一階でスライムとかを倒して、ほそぼそと頑張れよ」


 それから、3日……ようやく、初めてスライムを倒せた。

 ケンちゃんが、スライムを箱に入れて。

 そこに、何度も鞭の柄をたたき込んで潰すことで、ついに倒せた。

 思ってたのと違うけど、倒せた。


「う……うん、レベルは上がったか?」

「えっと……上がってない」

「はぁ……ユニークだから、レベルアップの条件も厳しいんだろうな。そろそろ、俺の方も勧誘がきつくなってきたから、あと2日で切り上げよう。この方法なら、どうにかいけそうだし」


 それから2日間、スライムを倒し続けどうにかレベル4までたどり着いた。

 そして、スライムを一人で倒せるようになった。

 というか、箱をスライムにかぶせられるくらいに、俊敏が上がった。

 ケンちゃんに言わせると、ようやく村の大きな子供並みの速さになったと言われたけど。


「いいか、無茶するなよ! というか、ここと隣と、その隣のフロア以外いくなよ! あと、ここ以外の入り口は使うなよ!」


 ケンちゃんが何度もそういって、ついに僕と袂を分かつことになった。

 寂しい……

 冒険者ギルドで周りを見渡す。

 みんなが、目を背ける。

 うん、ダンジョンの入り口であれだけスライムにてこずっている僕を見たんだ。

 誰も、パーティを組もうなんて思わないだろう。

 下心がありそうな、下品な人たちですら声をかけてこない。

 一人で、スライムを倒してスライムの核を売って過ごそう。


 ちなみにもぐっているダンジョンは、全100階層だろうといわれる、世界中いたるところに入り口がある、踏破難易度最高難度のダンジョン。

 ただ、1階層はスライムしか出てこないし、2階層はゴブリンしか出てこない、10階層までだと世界最低難易度らしい。


 この入り口から6フロアくらいまでは、各入り口限定エリアらしく、他の入り口から入ってきた人は来られないらしい。

 だから、顔見知りばかりで特に、襲われることもない。

 その奥になると、遠くの拠点の人と鉢合わせることもある。

 なかには、自拠点と遠くのやつ相手なら、何してもいいとばかりに強奪や、強姦なんかを目的にもぐっている人もいる。

 最低だ。

 だから、ここ以外は絶対に行くなと、ケンちゃんは言ったんだろう。

 僕なんか、すぐに餌食になりそうだし。


「本当に一人で入るの? 明日なら、私がオフだから付き合ってあげるわよ」


 ギルドの受付嬢に、魅力的な提案をされるが。

 少しでも、家にお金を入れたい僕は黙ってうなずく。

 人見知りなのだ。

 こんな奇麗で優しい人に迷惑をかけるとか、申し訳なくて死んじゃいそうだ。


 それに、試してみたいこともあるし。


***

 ダンジョン1階、二つ目のフロア。

 そこで、自分のステータスボードのスキルを見る。

 やっつけ従魔召喚。

 いままで、半透明で使えなかったこのスキルが、いまは白く輝いている。

 使用条件を満たしたらしい。

 実は、レベルが上がる前に白くなってたのだけど。

 ケンちゃんに言いそびれて、時間が空いたら言えなくなってしまった。

 

「よし、使ってみよう!」


 従魔を選んで召喚するか、すべて召喚するができそうな気がする。

 とりあえず、全部召喚しちゃえ!


 辺りがスライムであふれかえった。

 

「これ、僕が倒したスライムの数くらいいる……」


 もしかして……


「倒した数だけ、スライムが召喚できるのかな?」


 そして、スライムたちが思っていることというか、感情が伝わってくる。

 すごく好意的に思ってくれているのが分かる。

 あと、なんでもいってねって、微笑みかけているかのような。


「ひっ!」

「なんだ、スライムのスタンビードか?」

「この数は気持ち悪……女の子が囲まれてって、あれパーパさんとこの、マジュちゃんじゃねーか!」

「おい、いま助けに行くからな!」


 たまたま入ってきた、お父さんの顔見知りの超ベテラン冒険者の人達が僕の従魔を全部倒してしまった。

 一瞬で……5秒もかからずに。


「すまん、本当にすまん」

「そ……そんなことになってたとは」


 よくパパと酒飲んで、いっぱい遊んでくれたから会話はできる。

 泣きながら、あれ僕の従魔だったのというのを、なんどもえづいて突っかかりながら言ったら、本気で焦って謝ってくれた。

 でも、助けようとしてくれたんだから、これ以上文句を言っちゃだめだよね。


「助けようとしてくれて、ありがとうございます。その気持ちは、本当に嬉しかったです!」

 

 とどうにか言えた。

 なぜか、3人が胸を押さえて手を前に突き出して上を見ながら、膝から崩れ落ちたけど。


「ざ……罪悪感が……そ……そうだ、32階層でドロップしたこの鞭あげよう」

「そ、そんな高価なもの」

「いや、魔獣使いには必要だろう。俺達には鞭を装備できるやつはいないから、ロープ代わりにしかならないし」

「そ……そういうことなら。本当にいいんですか?」

「ああ、いいよ」


 そして、伸びたり縮んだりする鞭をもらった。 

 とっても、便利。

 

「あっ」

「どうした?」

「再召喚できるようなりました」

「倒しても、時間が経てば召喚できるのか?」

「本当に、よかったぁぁぁぁぁ」

 

 なぜか、3人が心の底から安堵していた。

 一度、彼らの前でスライムを全部召喚したら、頷いてた。

 スライムたちは、ものすごく怒ってたけど。

 でも僕が襲われてると勘違いして助けようとしてくれたことを伝えたら、なかなか骨のあるやつらだなみたいな。

 なんか、認めてた。 

 魔物ってよくわかんない。

 

 3人も、スライムと仲良くなってたし。


「お……お前ら、さっきは悪かったな。くれぐれも、パーパさんとこのお嬢ちゃんを危険な目に、合わせないで助けてやってくれ」

 

 と、このパーティーの代表のダイヒョーンおじさんが言ったら、スライムが身体を伸ばして手をがっつり握っていた。

 なんだか、暑苦しい。


***

 いろいろと分かった。

 倒されても、10秒で再召喚できること。

 倒した数だけスライムを召喚できること。

 従魔が倒したスライムもカウントされること。

 従魔が倒した場合も経験値がもらえること。

 

 そして、いまケンちゃんとの約束をやぶって、2階層へと踏み入れた。

 280匹のスライムと一緒に。

 30匹ほどのスライムが僕を乗せてくれている。

 凄く優秀。

 壁も移動できるし、天井にも移動できる。

 その際は、しっかりと身体を伸ばして僕を包み込むように固定してくれて運んでくれる。

 他のスライムたちは、あちこちに勝手に向かっていっている。

 先に、探索をすませてくれるらしい。



 あっ、またレベルが上がった。

 スライムが4匹ほど倒されてしまったが、ゴブリンを倒したらしい。

 魔物一匹倒したから、スライムも増えるかな。

 10秒立って、召喚を使う。

 5匹召喚できるのかな?


 ……スライム4匹と、ゴブリン1匹。

 えっ?

 やっつけ従魔召喚って、やっつけ作業的に神様が作ったジョブじゃなかったの?

 あっ、スライムが30匹くらい倒されたけど、ゴブリンを8匹倒した。


 10秒後、スライム30匹とゴブリンを8匹召喚。

 その2秒後、スライムを20匹とゴブリンを2匹召喚。

 こうしている間も、どんどん従魔が増えていく。

 しかも、戻ってきたスライムの何体かが進化している。

 格上の魔物を倒したかららしい。

 そして、僕のレベルも5ほど上がった。


 30分後、3階層への入り口に向かう。

 次は、ダンジョンウルフ階層だったっけ?

 いま、僕の配下は進化スライム280匹、ゴブリンが80匹だ。


 2階層と同じ要領で、40分で完全攻略。

 アイテムや宝箱もすべて、スライムが集めてきてくれる。

 そして、スライムがまた進化してる。

 ダンジョンウルフにとどめを刺したスライムだけ。

 帰りにもゴブリンを20匹、スライムを100匹倒したからさらに従魔が増えた。


 今日はいったん帰ろう。

 レベルもいっぱい上がったし、素材もいっぱいもらえたし。


「えっ? マジュちゃん3階層までいったの! だ……誰かにリフトしてもらったとか?」

「あー、えっと……スキルが開花したら、すごく便利な能力でして」

「えっ? あの神のやっつけ作業といわれた、謎ばかりで使い道すらわからないといわれたジョブのですか?」

「はい! 魔物をいっぱい召喚するスキルでした」

「そ……そうなのですね。ちょっと見せてもらうことは?」

「こ、ここだと狭くて」

「じゃあ、明日! 明日私オフだから! ダンジョンで見せて!」


***

「う……うわぁ」

 

 目の前の部屋には、もはや狭くて密集し過ぎたため、くっついている巨大なスライムが。

 僕のスキルを確認するためについてきた受付嬢のジョウさんが、若干引き気味のため息をもらしてる。

 こんなに可愛いのにと、思わなくもないけど。

 

「ほかに、ゴブリンとダンジョンウルフも召喚できるのよね?」

「ゴブリンが100匹と、ダンジョンウルフが40頭……スライムは、いま現在進行形で増え続けてます」


 デモンストレーション中も、スライムたちやゴブリンたちが、ガンガンに狩りまくってた。

 スライムを。


「わ……分かりましたが、くれぐれも油断はしないように。というか、マジュちゃんは戦闘に参加しないように。安全が確保されるまで、最初の部屋で待機してた方がいいかもですよ」

「あ、はい」


 従魔は信用してくれたけど、僕は信用してもらえないらしい。


「本当に、まるでスタンピードね……」


 大量のスライムを見て、ジョウさんがうなずいていた。

 その後、大量のダンジョンウルフに囲まれて、少しご機嫌だった。

 ダンジョンウルフは、割と見た目はいいの。

 かっこいい子と、可愛い子ばっかり。

 敵として出てきたら怖いけど、懐いてくれると可愛いんだ。


 そのダンジョンウルフたちを、さんざんもふりつくしたジョウさんに、定期的にダンジョンウルフを触らせて欲しいと頼まれた。

 これから、いろいろとお世話になるからそのくらいはいいかな?

 ダンジョンウルフたちも、いっぱい遊んでもらえて喜んでたし。

 休み潰れたけどいいのかな?

 僕のせいで、少し申し訳ない。


***

 現在10階層まで到着、もはや従魔の数は数えるのも阿保らしくなってる。

 スライムなんか4桁後半はいるだろうし、ゴブリンも4桁後半くらい。

 他の魔物も、そんな感じ。

 それぞれが、一定数進化してるし。

 スケルトンや、コボルトなんかもいる。


 そして、10階層。

 ゴブリンジェネラルが待ち構える、ボス部屋に。

 入ろうとした瞬間に、スライムたちが部屋になだれ込んでいく。

 隙間なくスライムに埋め尽くされた部屋で、ゴブリンジェネラルがスライムにのまれて苦しそうにもがいている。


「あっ、ゴブリンジェネラル召喚できるようになった……」


 その感覚があった瞬間、スライムの中のゴブリンジェネラルが白目をむいて動かなくなっていた。

 ……4日で、10階層突破……イエーイ……


***

「もういいでしょう? 普通に暮らせるだけの収入は得られるでしょ? 調子に乗ったらだめよ! ここで、つつましく生活できるように謙虚に稼ぎましょう」


 10階層を超えたことを伝えると、ジョウさんが必死に止めてきた。

 どうやら、僕のことが心配らしい。

 確かに、ここまでのドロップや素材、宝箱で家の暮らしも楽になった。

 母はとても喜んでいるし、父も僕には負けてられないとやる気に満ち溢れている。

 でも、ちょっと冒険者が楽しくなってきた。

 ……あまり、冒険してる感じはしないけど。

 とりあえず、ジョウさんを説得しないと。


「あっ、でも従魔が倒した経験値ももらえるみたいで、レベルは凄く上がってるんですよ?」

「えっ? 聞イテナイソレ……」

 

 ジョウさんが、首をゆっくりと回してこっちを見てくる。

 言って無いもん。


「ステータスカード見せなさい!」

「あっ、はい」


 そして、言われるがままに恐る恐るカードを渡す。

 受付のお姉さんが、目を大きく見開く。


「レベル21ですって……のわりに、ステータスは低いわね」


 すみません。

 そっちの補正は、低いジョブみたいなので。


「でもまあ、戦闘系のレベル10くらいのステータス値はあるから、少し安心したわよ」


 そんなに、低いんだ。

 僕のステータス。

 でもまあ、それでも十分戦えそうなステータスにはなってるみたい。

 従魔たちが、戦わせてくれないけど。


「一応昇進できるか上の方に掛け合ってみるけど……できることなら、雑用系の簡単な依頼くらいは受けてもらいたいわね」


 受ける意味がないので、受けません。

 ダンジョンもぐった方が稼げるし、ランクも関係ないので。


***

「……」

 

 20階層のボスは、オークソルジャーだった。

 スライムの海に溺死してたけど。


「……」

 

 30階層のボスは、アーマーコボルトだった……

 スライムの海で溺死してたけど。


***

「はあ……ソロで30階層って。ちょっと、もう流石ユニークね」

「はい」


 30階層到達後、高速スライム脱出方で入り口に戻る。

 転移魔方陣もあるけど、個人的にはこの移動が気に入っている。

 スライムが一直線に身体をつなげて、中を彼らが作り出す水流のような流れで移動する方法。

 凄く、スピード感があって楽しいけど、

 それを見た他の町の冒険者の方が、悲鳴をあげてドン引きなのがちょっとあれだ。

 でも移動の間に、身体や服についた汚れとか全部取ってくれるから、そのまま帰って寝られたりして本当に素晴らしい移動方なんだ。

 僕とパーティを組んだら、こんな特典がついてくるというのに……誰からも声を掛けられない。


「最近すごく肌の艶がいいみたいだけど、お金が入って良い化粧品でもかったの?」

「いえ、実は……」


 スライム移動方の話をしたら、ジョウさんが額を抑えてた。


「最近やたらと細長いスライムに捕食された少女の目撃例が多いと思ったら……そういうことだったのね」


 なに、その話?


「神出鬼没で、高速で移動する細長いスライムだから、幻のスライムといわれてるけど。その割には目撃例が多いのよ。ユニークモンスターという話だったけど……そういうことね。上には私が報告しとく」


 すいません、ご迷惑かけます。


「その代わり、次の私のオフはダンジョンウルフモフモフと、スライム洗顔もつけてね」

「はい……でも良いんですか? せっかくの休みに僕とダンジョンにもぐってばかりで? 彼氏さんとか「あっ?」」


 地雷だったらしい。

 こんなに可愛いから、てっきり彼氏さんくらいいると思ったのに。

 可愛くない声と顔で、凄まれてしまった。


 ちなみに、ドロップも宝箱もきっちり回収してるから、気が付けば冒険者長者番付のこのギルドでトップ20入りした。

 ケンちゃんが悔しそうにボードを見てたけど、僕を見つけると笑顔で声をかけてくれた。


「少し、先を行かれちまったけど、負けないからな!」

「うーん……僕のステータスはケンちゃんよりも弱いよ?」

「いや、そういう意味では……」

 

 少し困った顔をした彼は、僕の頭をポンポンとたたいて仲間のもとに向かっていった。

 そういえば、本当に誰も僕とパーティを組みたがらないなー……

 今なら、ケンちゃんとパーティ組んでも、役に立てると思うんだけどなー……


***

「いや、移動があれって頭おかしいし」

「確かに新進気鋭のニューカマーだけど、寄生するにも……歩くスタンピードとか……」

「分かる分かる。てか、あれと組んだら寄生目的って丸わかりだし……歩くスタンピードだし」


 いつの間にか、ギルド内でマジュは歩くスタンピード(デス・パレ―ド)の二つ名を得ていた。

 冒険者の皆が憧れる、厨二的なあれが付けられる、あれだ。


***

 40階層はまさかのアーマースケルトンとは……

 スライム窒息作戦が効かなかったけど……普通に溶けていったなぁ。

 もう、従魔を数える気にもならない。

 スライムは入り口で召喚したら、次の階層入り口まであふれかえるし。

 ゴブリンを召喚したら、身動きとれなくなって敵も味方もあったものじゃなかったし。

 しかも、階層を進むごとに彼らも進化してるし。

 選んで召喚を使うことにしたけど、選ぶのも面倒くさくてやっぱりスライムを、全部召喚することが多いかも。

 たまに気分転換で、スライムさん以外を呼ぶこともあるけど。

 グールを大量召喚したら、匂いがやばかった……

 スケルトンを大量召喚したら、カタカタカタカタうるさくて。

 しばらくは、寝るときに目をつむっても、ずっとカタカタ聞こえてた気がした。

 あの音、子気味いいけど、ずっと聞いてると耳に残るんだよなー……


***

 50階層は、レイスだった。

 流石にこれは困った。

 物理攻撃が効かない。

 

 どうしようか頭を悩ませつつも、従魔の子たちのスキルを確認。

 進化したダンジョンウルフや、コボルトたちの咆哮に破邪の効果があったので、入った瞬間に全召喚して大合唱してもらった。

 うん、消し飛んだ。

 真横で聞いた僕の耳も、グワングワン言ってる。

 心配そうに見てくる彼らの頭を撫でて……すごい数いる。

 全員撫でないとだめなのかな?

 だめらしい……

 撫で終わった子から、探索に向かって行ってくれた。


 ここからは、幽霊階層だったけど、オオカミやコボルトたちの合唱を聞きながら進んでいくだけで、従魔も増え続けてレベルも上がり続けた。

 ちなみに耳はスライムさんが塞いでくれている。

 この子たちを召喚してる間は、レイスさんたちは召喚できない。

 召喚した瞬間に消し飛ぶから。


 家に帰って寝るときに、レイスさんを召喚。

 少し蒸し暑い季節なので、少しは涼めるかなと。

 凄く、快適だった。

 従魔の子たちは、それぞれいろいろな面で役に立ってくれている。

 みんな、違ってみんないい。


***

 60階層はドラゴンがいた。

 初ドラゴン。

 やばいかなと思ったけど、生き物。

 スライムが穴という穴から体内に侵入。

 凄い速さで、ブレスとかでスライムが消し飛ばされるけど。

 焼け石に水。

 100匹200匹、倒されたところでね。

 10秒で復活できるし。

 毎秒2000匹は倒さないと、スライムは途切れないくらいいる。

 さらに、レイスもドラゴンの皮膚をすり抜けて体内に。

 中で、魔法を使いまくったらしい。


 流石、ドラゴン……レベルアップいっぱいした。


 ドラゴンを早速召喚。

 大きいなー……

 部屋から出られないねー……

 どうやって、この子はここに入ったんだろう。

 まあ、魔物はダンジョンでは湧くものらしいから。

 ドラゴンさんは、ボス部屋から一生出られないよね?

 ここも自然地形階層にすればよかったのに。

 でも50階層みたいな、火山階層はちょっと。

 暑くて暑くて、レイスさんの中に入って移動したよ。

 

 ちなみにレイスさんの中って、基本一定の温度なんだよね。

 だから、61階層の吹雪階層でも中に入ると、それなりに快適。

 スライムさんたちが、ちょっと拗ねてる。

 ご機嫌取りに、スライムさんの移動がいいなと言ったら、喜んで中に入れてくれた。

 あっ、微妙に温かい。

 温度を上げてくれたようだ。


 火山階層だと、粘度が増して中に入ってもだんだん沈んでいって、床にぺってされちゃったからね。

 ここだと……凍ってきてない?

 慌てて、サラマンダーちゃんたちが、火の息で温めて溶かしてくれてた。

 しょんぼりしてる。

 そして、移動中の護衛はレイスさんに。

 

 スライムさんたちが、やる気十分だ。


***

「60階層ソロ踏破ですか……それでもとどまらず進むとは。人類未踏の地に挑まれるおつもりですか?」


 ソロでの最高到達階層は69階層。

 70階層は、大平原で大量の……それこそ、数千単位の魔物の軍勢と戦わさせられるらしい。

 流石に1人ではきつかったらしい。

 その伝説の冒険者のデンセッツは物理特化のジョブだったらしく、地道に一体ずつ倒し、約8割の魔物を倒したところで、敵のワイトクレリックが全員復活の大規模復活魔法を使ったことでブチ切れて、帰ってきたらしい。

 もちろん、ワイトクレリックをぶちのめして、首ねっこを掴んで半死半生の状態で、ギルドに連れて帰ったという伝説のオマケつきだけど。


 ちなみにジョウさんの口調が変わったのは、60階層突破で僕がミスリル級の冒険者になったから。

 冒険者ランクはいっぱいある。


 まずは塵級。

 いても、いなくても関係ない、溜まったら邪魔な存在と。

 次がゴミ級。

 明らかに邪魔な存在と。

 次が雑草級。

 そんな邪険に扱われても冒険者を続けて、力強く生きるさまは雑草のようだと。

 ただ、邪魔と。

 そして、石級。

 それでもめげずに冒険者を続ける、固い意志を表す階級。

 やはり邪魔と。

 

 そう、手に職もなく手軽になれる冒険者は、割と多いの。

 特に実力がなく、生活もままならないカツカツの冒険者たちは、副業をしながら冒険者業をこなしている。

 生産性が低く、実力もないうちは町でも村でも邪魔者の、ごく潰し扱い。

 なぜかって?

 石級までは、活動証明さえできれば減税対象なのだ。

 副業をしてたとしても……

 その分、正規の納税者が割を食うことになるから。


 そこからがようやく、本当の冒険者。

 鉄級……それでもめげない、すっごい固い意思があって、なおかつ役に立つ。

 銅級……銅貨程度の価値はある。

 銀級……銀貨程度に大事にしてもらえる。


 そう銀級くらいから、人がちょっと優しくなる。

 銀貨って大事だもんね。


 金級……すごく、大事にしてもらえる。貴族の方からも、優しくしてもらえる。

 

 貴族って金好きだもんね。


 で、そのうえがミスリル級。

 いろんな人が、気を遣ってくれる。

 ミスリルって希少だから、冒険者でも同じくらい貴重な扱い。

 今の僕がそれ。

 大出世。

 

 そんな僕を見て、ケンちゃんがため息を吐いてた。

 最近だと生傷も多いし、疲れ切ってることが多い。

 彼のパーティメンバーも心配してる。

 僕が声をかけても。


「マジュは凄いな―……この村の誇りだよ……ははは……俺は、大変な道を選んじゃったよ。でも、諦めきれないし……まだまだ頑張れる」


 と言ってた。

 ソロよりも、パーティ組んだ方が大変なのかな?

 知らない人とずっと一緒だもんね。

 気を遣ったりするのかな?

 僕は、ケンちゃんと一緒なら、楽しいかも。

 

 と言ってみたら、すごく意外そうな顔をしてた。

 それから、なにやら葛藤してる様子だったけど。


「いまは駄目だ……釣り合いがとれない」


 さんざん悩んで、そんな結論にたどり着いたらしい。

 そう言って、涙目で走り去っていった。

 そうだよね……上級職のソードダンサーだもんね。

 僕ももっと、頑張らないと。

 まだまだ、実力が足りないんだ。


 それでも、悩むくらいには僕のこと気にかけてくれてるのは嬉しいかな。

 少しでも早く、実力でケンちゃんに追いつきたいな。


「それまで、ソロで頑張るぞー!」

***

「いや、あれソロって言っていいのか?」

「もう反則だよな。今の王様が若く王子だった時にレベリングと箔をつけるために、軍を率いてもぐったときよりも反則だよな?」

「ソロじゃない……あれは、ソロとは言わない……」


 なんか、あちこちからヒソヒソ話が聞こえてくるけど。

 あまり、良い噂じゃなさそう。

 逃げるようにダンジョンにもぐる。

 ジョウさんに声をかけて。


「ソロ最高階層到達頑張ってください! ソロで! ソロだよ? ソロだよな、お前ら?」


 その際に受付嬢のジョウさんが、大きな声で叫びながら周囲を見渡すと、みんなが青い顔でうなずいていた。

 そんな僕がボッチだってことを、大声でアピールしなくても。

 もしかしたら、仲間に入れてあげる人いないかなって感じで、アピールしてくれたのかもしれないけど。

 完全に逆効果だと思うよ。


***

 70階層……ボスは、ワイトエンペラー。

 死霊や、魔物等あわせてのべ4982体の魔物たち。

 なぜ、正確な数字が分かったかって?

 全員が、配下になったからかなー……


「で、どうやってソロで倒したのかなー?」


 受付のお姉さんが、周りを睨みながら質問してくる。

 もう、これソロってことを、周囲に認めさせようとしてる感が。


「そうですね……ちょっと、長くなりますが」


 大量の魔物たちを前に、うちの子たちも張り切って大暴れ。

 従魔の子たちがみんなで仲良く頑張って戦ってるのを見て、僕もテンションが上がっちゃったからかな?

 気が付けば凄い速さで、まくしたてるようにジョウさんに説明してた。


 ドラゴンのブレス。

 大量のスライムのプレス。

 コボルトに狼たちのボイス。

 まるで始まりの合図! 

 ヘイ! レイス! ユア ターンズ!

 イヤー! レイズ ユア ハンズ!

 そのまま振り降ろせ、デスサイズ。

 メイス掲げるゴブリンメイジが全力で放つ、アイス・ランス! で、できた迷宮(メイズ)に、さまよえそこの魔物ども(ガイズ)

 行くぜ、お前ら!

 上げろ、勝鬨(バトル ク ライズ)! 

 ついに終わるぜ!

 戦いの日々(デイズ)


 説明が終わった後で、周囲からなぜか拍手がもらえた。


「人見知りだったマジュちゃんが、こんなに堂々と大声でしゃべられるようになるなんて」

「しかも、いつもよりテンポよく……」

「立派になって……」

「全冒険者が涙した……」


 なぜか、ギルドが感動の渦に包まれていた。

 のちに、マジュの冒険譚を吟遊詩人が歌い継ぐとき、この一説は原文ママの見せ場となったとかならないとか。


***

「ここまで来るとは、やるな人間よ」


 80階層で出会ったボスは、首なしの騎士。

 デュラハン。

 左手に自分の頭を持っている。

 

「あの……その鎧、中身入ってますか?」

「何を、突然……まあ、入っておるな」

「みたいですよ」


 デュラハンの答えを聞いたマジュが後ろを振り向くと、スライムたちが残念そうな表情を浮かべる。

 どうやら中に入ろうとしていたらしい。


「あっ……」


 しかし、そんなこと関係なしにスライムの海に飲み込まれるデュラハン。

 そこはアンデッド、窒息することはなく冷静に対処しようと試みる。

 

「待て! 我の首を持っていくな」


 しかし、スライム大水流の渦に巻き込まれて、体内をグルグルと回される間に首が手から離れ、水流に乗ってはるか彼方に。


「や、やめろ! 目をつっつくな! ちょっ、何を口に入れた! 辛い、辛い! ぬぉぉぉぉ! 甘い、甘い! 我が身体よ、助けにうっ、目が回って……」


 70階層から現れたデーモンシリーズ。

 その中でも、いたずら好きなミニデーモンによって、おもちゃにされるデュラハン。


「蹴るな! ゴールじゃない!」

「楽しそうね、あの子たち」


 その様子を微笑ましそうな笑みを浮かべて眺めるマジュ。

 最終的に身体は物量で押しつぶされ、ペシャンコに。

 頭は、完全に目の光を失いミニデーモンたちに、されるがままになっていた。

 しかし、どうあっても止めを刺せそうにない。

 ドラゴンたちは、部屋の入り口が狭すぎて入ってこられない。

 死ねば、中で召喚できるが。

 現状、この階層の魔物はすべて掃討されており、ドラゴンを殺すことなど不可能。


 だが、次の瞬間スライムが一筋の竜になり、デュラハンの首をすごい勢いで入り口に向かって送り込む。

 そのまま50階層の火山地帯の、マグマにシュート。


「あっ、デュラハンが召喚できるようになった」


***

「マジュ様、どうぞこちらでお待ちください」


 受付嬢のジョウさんに応接間に連れていかれて、椅子に座らされる。

 どうも、買取の最低の間ここで待たせてもらえるらしい。

 最近では、周囲の人たちのヒソヒソ声も遠慮がなくなってきたし。

 それだけならともかく、握手やサインを求められることも増えてきた。


 ケンちゃんは遠巻きに寂しそうに見つめてくるだけ。

 一番、話しかけてもらいたいのはキミなのに。

 こんなに頑張ってるよ。

 ケンちゃんの横に立てるよって言いたいのに。


「レ……レベル450到達おめでとうございます。こ……これも、人類未踏のレベルです」


 ずっと、ソロで階層殲滅しながら進んでたから、レベルも歴代最高になったらしい。

 それでも補正値が低いから、レベル150の上級戦闘職程度のステータスらしい。

 でも、すっごく強くなってる。

 久しぶりに、ダイヒョーンさんたちにもらった鞭を振ってみたら、ダンジョンの壁と床を切り裂いてたし。

 魔物とも、ソロで戦えそうな気がしてきた。

 してきたけど、従魔たちが許してくれない。

 

 最近のお気に入りは、ミノタウロスの肩に乗って移動。

 意外と、振動も少なめで安定感もある。

 小回りも利いて便利なんだけど、その役を決めるのにトーナメントをずっと見てないといけないのがなー……

 選んで召喚すると、他の子たちが拗ねちゃうし。


「おめでとうございます。アダマンタイト級から、ヒヒイロカネ級に昇格です」

 

 王族や貴族からのお抱えのお誘いを断ってまで冒険者を続ける固い意思を表すアダマンタイト級から、決して冒険者をやめることはないだろうヒヒイロカネ(絶対不変)級に昇格。

 うーん、でもたぶん結婚したら、やめるかな。

 その相手は……ケンちゃんだったら嬉しいな。

 今の僕があるのは、彼のお陰だもん。


 最近は目も合わせてくれないけど。

 

***

 ステータスが上がったことで、自分の実力を試したくなったので従魔を一部だけ召喚して10階層に向かう。

 一部というのは、デスストーカーやシャドーナイトのような影に潜んで相手に存在を悟らせない魔物たち。

 万が一のときに助けてもらうためだけど、ソロで戦うには気配のない魔物がもってこいかなって。


 ただ、順調すぎてすっかり忘れてたことがある。

 低階層は、冒険者狩りがあるってこと。


 人相の悪い冒険者が付けてきてるってのを、デスストーカーさんが教えてくれた。

 わぁ……どうしよう。


「なあ、嬢ちゃん? 仲間とはぐれちゃったのかなぁ?」

 

 下卑た笑みを浮かべた、いかにもな剣士に声を掛けられる。

 怖いけど、後ろから襲われなかっただけマシかな。

 ゆっくりと振り返る。


「うわ、当たりじゃん! お前ら来いよ!」


 ああ、一応顔を確認したのか。

 襲うにあたって、彼らも好みがあるのかな?

 当たりと言われても、嬉しくもないけど。

 どうしよう……


「おお……おお? お……お……ばか、チーカン! 逃げるぞ!」

「えっ? どうしたんだ? ワイセッツ! そんなに慌てて! ちょっと幼いけど、かわうぃぃじゃん!」

「ワイセツのいうとおりだ、こいつはヤバい」

「なんだよ、セクハーラまで! ロシュツも青い顔して、知ってるやつか?」


 声をかけた剣士の後ろから、剣士が他に3人。

 全員、人相悪いけど……全員剣士ってバランス悪くない?

 ソロの僕が言えたことじゃないけど。


「こいつは歩くスタンピード(デス・パレード)だよ!」

「うそっ、でも従魔がいないぞ?」

「そりゃレベル400超えてたら、こんなところ従魔なしでも歩けるだろう」

「あっ……」

「ひいっ……」


 あまりにうるさいので、ちょっと目を細めたら全員が怯えた様子で後ずさりを始めてた。 

 そんなに、ビビらなくても。

 うちの子たちは、可愛いのに。

 それに、僕はそんなに大したことないし。


「ひゃわわわわ」


 いままで聞いたことのない悲鳴をあげながら、全員が逃げてった。

 そっか……僕、ソロじゃなくてボッチなのかも……

 あまりに悲しかったので、スライム達に運んでもらって家に帰った。

 その日は、冷たい枕で眠った。


***

「ふむ、ここまで来るとは、なかなかやるようじゃな。我はデミゴッドデビル。半神半魔の存在よ」


 なんか、仰々しそうなの出てきたー。

 マジュが、神ということばを聞いて、少し身構える。

 しかし、すぐに目の前の存在の言葉をかみしめて、笑顔になる。


「じゃあ、おじいちゃんは、僕にジョブを授けてくれた神様か、その同族ってことですか?」

「えっ? いや、そういうわけじゃ「ありがとうございます! おかげで、冒険者になって1週間でここまで来られました」

「えっ? はっ? 一週間?」

「ええ、なんかもう、サクサクサクサク進んじゃって」

「あの、冒険者になる前に壮絶な修行を「はい! 嫁入り修行は凄く頑張りました! ただの村娘の僕には、玉の輿に乗る以外に幸せはないかなと思いまして……でも、人見知りなので知らない金持ちよりは、気心知れたる幼馴染の方がいいかなと最近は」


 凄い勢いで話しかけてくるマジュに、どう対応したらいいものかと頭を悩ませるデミゴッドデビル。

 人見知りのマジュは、相手が人じゃなければ問題ない。

 しかし、このデミゴッドデビルは、ここまでたどり着ける知恵ある存在があまりいなかったため、数千年、誰かと会話をまともにしてこなかった。

 だから、コミュ障をこじらせているのだった。


「そうかそうか、苦労しそうであまり苦労しなかったのじゃなー」

「はい! これも神様のお陰です! おじいちゃんも半分神様なので、お会いできてとても嬉しいです」


 マジュの話を最初は困った様子で聞いていたデミゴッドデビルであったが、最終的にはニコニコと孫が一生懸命話しかけてくるのを相槌だけうつおじいちゃん状態で聞いていた。


「ふむ、人間を理解した今なら、我も神の領域にたどり着けるかもしれぬの……何かを害するだけでは、神はだめなのじゃな……誰かを愛し、慈しむ心が……あっ、なんじゃこの光は……ああ、これが召されるということか」

「おじいちゃん?」

「ふむ、天の国に帰る時間のようじゃ」

「えっ?」

「神として、空からおぬしの活躍を見守っておるぞ!」

「はい!」


 そして、デミゴッドデビルは天井へと……もとい、天上へといざなわれていったのだった。


「あっ、デミゴッドデビルさんが召喚……これ、違う。ゴッドデビルさんが召喚できるようになりました」


***

「9……90階層。パーティ単位でも未踏の90階層突破。100階層あるという情報を持ち帰ったものの話では、90階層の階層主は半分神のような存在だったはず」


 マジュの話をきいた受付嬢が、ガタガタと震えている。

 ということは、目の前のこの子は半神を超える存在……それは、ほぼ神では。

 なんか、尊いお方のように見えなくも……目をこすって、目の前の少女を見る。

 ああ、気のせいだった。

 いつもの間抜け面だ。


「何か、失礼なことを考えてませんか?」

「心を読まれた? おお、あなたが神か」

「大丈夫かな? ジョウさん」

「なぜ、私の名前を! おお、あなたが神か」


 壊れたようになにかと、最後に神かをいう受付嬢に辟易としたマジュが周囲を見渡す。

 誰も、目を合わせようとしない。

 相変わらずのボッチである。


 そして、ランクも冒険者の神である、オリハルコン級に。


 幼馴染のケンちゃんだけは、困ったような笑みを浮かべて首を振っていたが。

 凄く壁を感じた。

 完全にボッチになってしまった。

 

 その日は、冷たくてしょっぱいスライムを枕にして寝た。

 次の日、41階層の大草原地帯で、従魔たちが騒ぎまくった。

 全員召喚してくれと。

 大草原階層だから、大丈夫かなと。

 もはや、端が見えないくらいに従魔がいる。

 スライム、ゴブリン、コボルト、オーク、オーガ、スケルトン……ワーム、スコーピオン、蟻や蜂、大蜘蛛……虎、獅子、キメラ、大蛇、コカトリス、鷲……ゴースト、レイス、リッチ……ワーウルフ、ライカンスロープ、ラミア……ドラゴン、シーサペント、ズー……ゴーレム、サイクロプス、巨人……

 とにかく、数百種、数十万匹の魔物の群れ……

 全員が、僕の前にひざまずく。

 そして、抱き着いてくる子たちも多い。


 まるで、僕はボッチじゃないよと慰めてくれているみたいだ。

 うん、そうだね。

 僕にはみんながいるもんね。


***

「やべーよあの子、90階層は従魔の力を借りてなかったんだと」

「うわぁ、従魔の力であそこまでいったかと思ってたが、そうだよな……本人が強くないと、魔物もいうこときかないよな」

「ところで、どこでその情報を?」

「ん? なんか、神を名乗るじいさんと、首のない騎士があちこちで触れて回ってるぞ?」

「首のない騎士ってデュラハンじゃん! それ、80階層のボスだろ? やばい、町が滅ぶ」

「いや、嬢ちゃんの従魔らしい」

「パネェな」

「ああ、パネェな」


 ヒソヒソと話しながら、全員がマジュの方をチラリとみる。


「そういえば、あの噂聞いたか?」

「えっ?」

「41階層の大草原地帯に魔王が出たらしい」

「魔王って、馬鹿な……」


 魔王が出たといった男が、マジュの方に視線を送る。

 そして周りのものたちが、ゆっくりとその視線をたどりマジュを見つける。

 息をそろえて、唾を飲む音が聞こえる。


「空は、飛行系の魔物が空を覆い、辺りを闇が包んだかと思うと……地上には、数えるのもおぞましいほどの魔物が」

「は……ははは」

「しかも、ディメンターやデュラハン、ベヒモスや、ヒュドラ、エキドナ、フェンリルなんかのユニークボスまで……しかも、神様まで従魔なんだろ?」

「あー、デミゴッドデビルが進化して、ゴッドデビルになったうえに、歩くスタンピード(デス・パレード)の従魔になったって噂の」

「てか、デミゴッドデビル1匹増えたところで、戦力変わらないよな……」

「うん、もう魔王だね」

「魔王だわ」


 そういって、全員が死んだ魚のような眼で、マジュを見つめる。

 居心地が悪くなって、逃げ出すようにギルドを飛び出したマジュ。

 こうして、マジュが誰かとパーティを組むという確率は、完全に消えてなくなったのである。

 残すはあと100階層のみ。

 しかし、彼女は100階層に挑むことはなく、長期休暇を申請する。


 それに対するギルドの反応は、残念半分、安心半分といったところだった。

 このペースで100階層突破されたら、いろいろと微妙な空気になると感じたのだろう。

 そして、この村の冒険者ギルドには多数のクレームが入っている。

 マジュがスライムを召喚した瞬間に、その階層にいる冒険者はみなそのスライムの体内にすっぽりおさまってしまうのだ。

 もちろん、マジュが人を殺すのをよしとしないことを知っているスライムたちは、彼らを洗浄して若干の回復を行いマジュが階層を抜けるまで捕獲しているのだが。


 だから、マジュが次の階層に移動するまで冒険者たちは、待て状態になっている。

 通常なら回復もしてもらえてありがたいことだが、戦闘中の者たちはそうも言ってられない。

 なんせ、目の前の敵もドロップもすべてかっさらわれていくのだ。

 ボス討伐直前の冒険者なんか、完全に涙目だ。

 マジュがダンジョンにもぐったさいに居合わせたのが、運の尽きと。

 いまでは、マジュに出会った冒険者はツキが落ちたということで、そのまま帰還することが多い。

 階層更新中であっても。


 当然クレームは凄いことになっているが、それでもマジュが稼いだ利益がすごいことになっている。

 だから、この村の冒険者ギルドは金で、それらを黙らせていた。

 ただ、その処理は膨大な量で……金で人を増やしたが、それでも手が回らない部分もあったのだ。


***

「なんで、100階層に挑まないんだ?」


 家で貯蓄を切り崩しながら、ほそぼそと生きていたマジュのもとにケンが訪れる。

 ほそぼそと生きてたら、人生何周もできそうなほどの貯蓄はあるが。


「えっ? いや、別に……」


 ケンの質問に、マジュが口ごもる。

 

「お……俺は、お前がダンジョンを踏破するのを楽しみにしてたんだぞ!」


 100階層をおそらく突破できるだけの実力を、マジュは持っている。

 それなのに、それをしないマジュにケンは苛立っていた。

 マジュなら、できるのに。

 100階層突破という、全冒険者の夢をかなえてくれると。


「だって……」

「だって? 冒険者みんなの悲願なんだぞ! なんで!」


 完全に言いがかりで、八つ当たりも含まれているかもしれない。

 ケンにはそんなことをいう資格も、権利もないのに勢いと感情だけでマジュに詰め寄る。

 

「あっ……」


 そして、マジュの顔を見た時にハッと我に返る。

 涙目で下唇を噛んで、フーッ、フーッっと荒い息遣いで必死で、泣くのを堪えているマジュを見て。 

 下唇がプルプルと震えていて、今にも泣きだしそうな彼女を見て。


 そして、目が合った瞬間にマジュの頬を、涙が流れる。

 そこからは、堰を切ったかのように、マジュの目からは涙、口からは言葉があふれ出る。


「だって、ケンちゃんと一緒に冒険したかったんだもん! ケンちゃんと一緒に、100階層に行きたかったんだもん! こんなに頑張ったのに、こんなに強くなったのに、ケンちゃん全然誘ってくれないんだもん!」


 それから、顔を真っ赤にしてケンの胸をポカポカと叩きながら、大声で泣きわめく。

 ちなみに、レベル150相当の上級戦闘職のポカポカである。

 一撃ごとに、ケンの身体に致命的なダメージが入っていることを、マジュは気付いていない。

 

「そりゃ、ケンちゃんは上級職だよ! 釣り合いが取れないのなんて分かってるよ」

「ちがっ、そうじゃ……てか、痛い……死ぬ……骨が……」

「大袈裟だよ! こんなときにふざけないで!」

「まじ……ほんと……てか、力つよめな……」

「冷たい、唾飛ばさないで!」

 

 マジュが自分の顔に付いた液体を汚いもののように、手で拭って手を見て固まる。

 それは、ケンの口から飛び出した血だった。


「キャー! ケンちゃん! ゴブリンプリースト、オーガプリースト、オークプリースト、回復して! フェニックス! ユニコーン! ケンちゃんを助けて―!」


 真っ青な顔で血と泡を吐いて痙攣しているケンを見て、慌てたマジュが従魔を大量に呼び出して治療に当たったことで、どうやらケンは一命をとりとめていた。


「はぁ……川の向こうに、ばあちゃんが見えた」

「もう、胸を怪我してたんなら、言ってくれてもよかったじゃん」

「それ、違う」

「えっ?」

「いや、なんでもない」


 流石に、女の子のマジュにポカポカと叩かれて、あんな状態になったとは情けなくて言えなかった。

 ケンは、口ごもると首を横に振る。


「わーったよ、一緒に100階層行くから待ってろ」

「えっ?」

「俺はまだ20階層だ……とてもじゃないが、釣り合わん! というか、あの時の言葉も、俺の方が下だって意味だったんだよ」

「そ……そうなの?」

「ああ……待ってろって言ったろ? 全然、待たずにドンドン進んじまうからどうしようかと思ったよ」


 凄い勢いで階層更新するマジュに、ケンの心は半分くらい折れていた。

 だが、こうやって待ってくれていると、彼女が言ってくれた。

 だったら、迎えに行くしかない。


「と、とりあえず強くなるから、待っててくれるかな?」

「うん! でも早くしてくれないと、他の人と先にいっちゃうかもよ?」

「他の人って、誰が辿り着けるんだよ……」


 おそらく、現時点で99階層にたどり着けるとしたら、相当の熟練のトップ冒険者だけだろう。

 そして、マジュとは年齢的にも釣り合わない感じの。

 少しだけ、安心する。


「はあ、そんなに待たせねーよ。100階層まで2人で行ったら……」

「行ったら?」

「その時の、お楽しみだ」

「うん! 楽しみにしてる!


 キラキラとした目を向けてくる幼馴染の女の子の頭を撫でながら、どんでもない奴に惚れちまったとため息を吐くケンであった。

 そして彼の戦いが、今始まる……FIN

まさかの攻略しないwww

タイトルも?ですから、詐欺ではありませんm(__)m

笑いのハードルを上げて、挑んだのです。

もしここまでに、一度でも声に出して笑った方……よろしくお願いします♪

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