夜の風が
「ミコナのために、ありがとう……」
ハカセは、屋根の上にいるフカに向かって、そう頭を下げました。
そして、
「五年、だからね……帰ってくるまでに五年掛かってしまった……その間、ミコナを守ってあげられなかった……僕が君の立場だったら、そんな自分が許せないと感じるだろうと思う。
君がもし、ここまでミコナを守ってあげられなかったことを悔やんでるなら、それは僕が<かぷせるあにまる>の開発に拘った所為もあるんだ。君だけの所為じゃない……」
と、独り言のように口にしました。けれどフカは、そんなハカセに、
「……しらんな。オレは悪党をぶちのめしたいからそれを探してるだけだ。お前の言ってることは的外れもいいところだ。お前にルリアのことがどれだけ分かってるって言うんだ。思い上がるのもほどほどにしろ……!」
吐き捨てるように言います。するとハカセは悲しそうに視線を落として、
「そうだね……人間は他人のことを本当に理解することはできない……それは事実だと思う……」
呟くように噛み締めるように言いました。でも、
「でもね……」
顔を上げて、正面を見据えて、
「君だって、僕がどれだけ君を愛しているか、本当に分かっているのかな……?」
声は小さいけど、フカにさえ聞こえるかどうかっていうそれだけど、強く、しっかりとそう言ったのです。
「……」
フカは、何も言いませんでした。聞こえていたのかいなかったのかも分かりません。
分からないけど、それまで家の周りを見下ろしていた視線を、空に、落ちていきそうな星空に、向けていました。
そんなフカとハカセを、ゆるゆるとした夜の風が撫でていたのでした。




